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2016/01/28 誤字修正しました


2014/9/17 誤字修正しました

2015/05/30 ルビ振り、一部追記などを行いました。

 何やってるんだろう……と思う。


 一応目は開いている。でも周囲を見るのは困難。


 まあ、元々色々あって目の前しか見えなかったし、それは別にいい。天井の白さが確認できるだけだし。


 それよりも今の状況を整理してみる。


 口にはマスクが当てられている。


 普通のマスクじゃない。何せ多分酸素が送られているみたいだから。


 俗に言う酸素マスクってやつ?


 一応耳は聞こえる。一定のリズムで電子音が鳴っている。


 どこかで聞いた事があるなって思っていたら、ドラマとかで出て来る脈拍や血圧を計測している機械の音だ。あれって名前なんて言うんだろう?


 なにより、手首や胸なんかに何かが貼ってあったりする。うーん、手首は貼ってあるんじゃなくて、挟まれている?


 正直少し感覚がおかしいのは分かる。身体全体がモヤッとする感じ。


 体には何かかけられているみたいだけど、たぶん布団か何か?


 状況を整理してみよう。


 昨日は深夜一時に寝て……あれ?記憶が無い? なんで?


 そういえば、気がついたらここにいた。


 見える状況からは夜じゃない。窓から日が差しているからだ。


 しかしそれだけで時間が分かるほど簡単じゃない。


 何より見える位置に時計がない。


 日の光はそれなりに強い感じだ。つまり朝ではない。


 大体、なぜ酸素マスク?


 あまりに状況が飲み込めない。


 酸素マスクをしているという事は、少なくとも一時的にしろ命の危険があったはず。


 ん、そういえば腕に何か違和感。目線を少しずらすと、点滴が眼に入った。それに何人かの医者と看護師だ。


 ここは間違いなく病院だとは分かる。しかし、一体どこの病院だ?


 医者が何か言っているし、看護師が何か慌ただしい。


 すると、点滴に何か追加された。点滴の下の所に、何かの薬が注入されている。色は無色透明だが、注射器のサイズはそこそこ大きい。


 数分すると、突然眠気が襲う。さっきのは睡眠誘導剤?それとも麻酔か?


 目を開けるのが辛くなって、まぶたが自然に閉じる……


 どれくらい時間が経ったのだろう?


 窓にはカーテン。カーテンの外は暗いようだ。天井の蛍光灯だけが唯一の明かり。


 とはいえ、実際に目を開けたわけじゃない。感覚的にさっきよりと分かるだけ。まぶたを通しても、多少の明かりくらいは分かる。


 でも、耳は比較的ちゃんと聞こえる。


 周囲には何人かいる事が分かる。大人しく声に耳を傾けるしかない。


「恐らく今夜が峠です。良くて明日の朝まで保つかどうか……」


 これは多分医者だ。どうも、誰かに状況説明をしているらしい。


 さらに耳を澄ますと、誰かが泣いている。


 声は女性の声。母さん?


 その他にも何人かの声が聞こえるが、麻酔の所為だろう。具体的な内容は分からない。聞こえているのに理解出来ない。


「最善を尽くしましたが、過去の事を考えると難しいですね。手術をしたくても位置が悪すぎる。人工呼吸器を止めたら、さほど長くは……」


 先ほどの医者のようだが、総合するとどうも死ぬ事は免れないらしい……。


「お力になりたいのは山々ですが、今の医療技術ではこれ以上は無理です。せいぜい死期を遅くするだけですし、遅くなれば麻酔を投与したとはいえ本人の苦しみは増すでしょう」


 そういえば、近くにあるはずの心電計の音が、前よりもゆっくりな気がする。


「苦しまずにこのままという事は……」


 理由は分からないけど、声の強弱がだんだんと分からなくなっている気がする。ただ、なんとなく女性の声のような気もする。母さんの声?


「ご家族の希望は分かりますが、それは難しいかと。やる事が出来るとすれば、今投与している薬を中断し、酸素マスクを外す事です」


「回復する見込みは?」


 男性の声だと思う。声からするに父親おやじか?


 何秒か沈黙が訪れる。


「残念ながら。脳の重要部分へのダメージが強すぎます。仮に助かったとしても、良くて寝たきりでしょう」


 そんな事を聞いているうちに、だんだん意識が遠のいてきて……。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 ふと気がつくと、真っ白な空間にいた。


 周囲には何もない。


 一体ここはどこだろう?


 たしか、さっきまで病院にいた気がする。


 まあ、状況証拠でしかないんだけど。だって酸素マスクとか脈拍とか、普通の家にはないでしょ。


 そういえば酸素マスクしていない。必要がなくなった?


『ああ、まあそんな所だな』


 いきなり頭の中に声が響く。周囲を見渡しても誰もいない。


『あー……見えないから。まあ、どうしてもって言うなら、見せてもいいけど、どうする?』


 男性の声。少なくとも知ってる声じゃない。


『一応確認ね? 名前は大谷琉生(おおやりゅうき)。年齢三八歳。男性。無職で障害者。生まれは日本の福岡県。現住所は埼玉県だよね?』


「はい。えーと、ここはどこですか?」


『うーん、ちょっとショックかもしれないけど、一応伝えなきゃいけないから言うね。君、さっき死んだから』


 え!?


『まあ驚くよね。うんうん、あ、隠そうとしなくていいから。ここに来る人って、みんなそうだし』


「は、はぁ」


『えーと、死因は脳梗塞。三回目だね。今回は二回目の脳幹での脳梗塞だね。夜中に発症して、朝には意識不明。昼頃に病院で死亡宣告。まあ、若いのに残念だったね?』


 まあ、確かに残念かもしれないけど、正直予期はしていた。それに、もっと若くして死ぬ人だって多い。


『はは。さすが脳梗塞三回もしていると違うねぇ。一回の脳出血と三回の脳梗塞。四十歳にもなっていないのに四回も脳疾患ねぇ。十年に一回の割合だけど、よく生きていたと思うよ? 年齢的にもね』


 同意するしかない。


 一回目の脳出血では、生死を彷徨(さまよ)ったらしい。まあ、実際自分では何も知らないんだけど。大体一歳前の時の事なんて知るはずがない。


『うんうん、そうだね。その後の脳梗塞は三十過ぎてからだけど、十年もせずに三回も脳疾患は同情するよ』


 同情と言われても。大体、誰なんだろう? そもそも、今さら同情されても……。


『うーん、やっぱり名前は言った方がいい?』


「出来ればお願いします。何となく、ここが死後の世界なのかなってのは分かりますが。さっき僕は死んだって言っていましたからね」


 死後の世界は元々否定しない。むしろ肯定していた立場。問題は今相手にしているのが神様って立場なのか、それとも精霊や天使って立場なのか。


『うんうん、勘がいいねぇ。それに最初っから否定しない所も感心だね。中には騒ぎ出すのも多いから』


 そりゃそうだと思う。『あなたは死にました』何て言われたら、人によっては……いや普通はふざけるなとか思うんだろうし。


『そうそう。大抵はそう思うんだよね。でも、この場所にいる時点で生き返るとかは無理だから』


 それは別にいいと思う。生前? の事を考えると、正直良い人生だとは思えなかったし。


 大体、最初の脳出血で致命的だった。まあ、後から知ったんだけど。


 手術の影響で他の人よりも体力的に劣っていた。小学生の時なんか、普通の女子にだって負けるくらい。違うな、弱そうな女子にだって負けていた。


 そんな状況だから、当然いじめの対象だ。結局そんな事が学生時代ずっと続いた。今思えば、よく登校拒否にならなかったと思う。


 教師からは『いじめられる方にも原因がある』なんて言われた事も何度か。これは同意出来ない。いじめた側が明らかに悪いとしか思っていない。


 人は生まれからして能力が違う。全員が同じはずがない。同じだったら、それは大量生産された『ロボット』だろう。


 しかも精神的にも強くはなかったみたいだ。小学生時代に精神科とか行っていたし。あの頃は精神科もまだまだ発展途上だったけどね。


 社会人になって頑張ったつもりでも、なんだか空回りが多かったし、結局色々あって精神病を再発。社会人として仕事をまともに出来たのは十年くらい。その後は精神科にだって何度か入院もした。


 そして致命的だったのが脳梗塞。時期を開けずに二回も脳梗塞。そして最後の脳梗塞で死んだわけだ。

 思う所がないと言えば嘘だけど、生きているのが辛かったというのも事実。


 寝たきりじゃなかったけど、脳梗塞を起こしてからは行動に色々制限が出た。まあ、障害者年金を受け取ることが出来たのがせめてもの救い?


 ただ、日本の障害年金制度は、今でもあまりに不公平だと思う。何に対してかは言及しないけど。


『まあ、そんなに悲観しなくてもいいぞ。ここに来たということは、ある意味チャンスだからな』


 チャンス? 死んだのにチャンスって……。


『そうそう、私の名前だが、君らが知っている名前でいう所の不動明王だ。名前くらいは知っているだろう?』


「ええ。あまり詳しくはないですけど、怒りがどうとかその類いというくらいは」


 たしか仏像の顔は怒っていた表情だったと思う。ネットでしか見た事がないけど。


『動じないねぇ。日本の場合は”悪い事をすると、それを正す役割“として伝えられているが、実際には少し違うんだけどね。で、そんな私が直接君に会いに来たわけだ』


「僕なんかに? 日本は多神教の国ですけど、日本の神々と違って、仏教の神々は一個人を一人一人見ている程の数はいらっしゃらないかと……」


『まあ、そんな硬くなるな。別に君を罰しようとして来たわけじゃないし、私にだって部下がいる。日本ではあまり知られていないが、直接の部下は八人いるし、仕事の大半は彼らが行うからね。それに私は頼まれたから来たわけで、君の国でいう所の神道の神々と、全く無縁ではないよ』


 うーん、確かに日本は多神教だし、神道、仏教、キリスト教徒か色々ある。それに全部信じているのかといえば怪しいし。そもそも本当に信仰している人って、全体の何割いるんだろう?


『それだけ知識があれば、私としては合格かな? 私の名前すら知らない者も最近では多いからね。それで本題なんだが、君は人生をやり直したいかな?』


 え?


『まあ驚くのは仕方がないし、それが普通だ』


 そりゃ、いきなり人生をやり直せるといわれても……。


『一応、勘違いがないように言っておこう。人生をやり直すと言っても、最初からやり直すわけじゃない。新しい体で、新しい世界でやり直す事になる。生まれる国を君は選べないが、一応要望があれば多少は考える。たとえば、前世の記憶を残して欲しいと言われたら、全ては無理だけどもある程度は残せる』


「なんだか話が上手すぎますね。ライトノベルにあるような設定だし」


『ライトノベルか。君らの国ではそれなりに読まれているね。確かにそうかもしれないな。しかし、残念ながらライトノベルの主人公になれるかどうかは別だ。生まれ変わった先で一生農民として暮らす事もあるし、大統領や総理大臣になる者もいる。まあ、努力せずには何も出来ないというわけだ』


 なるほど、確かにラノベのようなイージーモード?って現実には無理だと思う。


 それに、そんな環境って『心』が壊れる気もする。


 ライトノベルでチートな主人公は、大抵モンスターとかに無双する。でも、僕的には単なる大量殺戮と、何が違うのか分からない。一方的な『悪』なんて、理由はどうあれ存在しないと思う。


『努力せずに結果が出せるなら、誰も苦労はしないだろう? 苦労があるから、それに見合った何かが得られる。まあ、君がいた日本だと、一番はお金だろうけどね。ただ、お金が全てではないよ。昔風に言えば、騎士が勲章をもらうといった所かな。名誉をもらうと言ってもいいと思う。日本にだって勲章があるだろう。しかし、そんな簡単にはもらえない事くらいは知っているよねぇ?』


 ちょっと馬鹿にしている感じがしたけど、まあ仕方がないかな。変に反論する気もないし、実際その通りだと思うし。何より本当に名誉ある『勲章』とか、僕には無縁だった。


「確かに、努力無しで簡単にってのは虫がよすぎますね。だけど、なんで僕なんですか? 僕より恵まれない人だって多いと思いますけど?」


『うーん、ぶっちゃけて言うと好みの問題?』


 え? 好みって……。


『勘違いしないように言っておくけど、同性愛者とかという意味ではないよ。分かっていると思うけど、私は男だし。単に興味本位で適当に選んでいるだけだよ。もちろん基準はあるけども、それさえクリアしていれば、後は私のさじ加減ってやつだ。まあ、気紛れと言ってもいいかな?』


 いいのかなぁ……。一応神様なんだし、平等って考えないのかな?


『そんな事していたら、人数ばかり多くなって面倒だね。それに仏教を多少なりとも信仰しているのは限られてくるから、当然私はキリスト教徒などの他の宗教には関与出来ない。君たち日本人が思っている程、君らは信仰心がないとは思えないしね』


 なんだか、納得出来るような出来ないような……。


『まあ、深くは考えない事だ』


 それにしても、不動明王って名乗ったのだから、もっと怖いかと思ったけど、正直怖くない。それに、さっきから語尾が一定していない気もするけど。


『ははは、面白いよやっぱり君は。どっちが本当の私かと言われたら、どちらも私だ。相手によって言葉を使い分けるのは、日本人だって普通にやるだろう? 確かに君の人生は、私からするとかわいそうだと思った。だからここに呼んだわけで、それにさっきも言ったように、日本古来の神様にも依頼されたからね。断る理由はないわけだ。大体、私が怖いだなんて正直悲しくなるよ。私は罪の浄化を行う事が本来の仕事で、当然罪が浄化されれば次に転生した時にも有利になる』


 転生って本当にあるんだ。まあ、こんな所にいるくらいだから、何でもありなのかもしれないけど。


『あー、勘違いしないように言っておくと、私だけでは対処出来ないような罪を背負っている場合、君らで言う所の地獄で、しばらく苦しむ事になるから。比較的最近で私が知っている者だと、たしか二万年くらい地獄から抜け出せないらしいからね。誰だって多少なりとも罪は犯す。ただ、許される罪と許されない罪はあるわけだ。許されない罪で、それが重ければ重い程地獄で長く苦しむって事だよ』


 二万年地獄で苦しむって考えたくない。


「それで、僕はどうしたら? 一応希望とか聞いていただけるらしいですが……」


『正確に言うと、希望を相手先の神に伝えるだけだけどね。そこで、どこまで叶えてもらうかはその神様次第。もちろん、また仏教や神道の神様の元で生まれ変わる事もあるけど、基本的には別の神様だと思って。ただ、努力は必要だけど、前世程の苦しみからは解放される。君らで言う所の、穢れってやつを多少なりとも取り除いているからね。ただ全部じゃない。それは無理だから』


 なるほど。でも当たり前か。イージーモードにはならないって言っていたし。


「例えば転生したとして、普通の動物だったりするんですか?」


『それはないね。少なくとも文明的な生活が送れる最低条件を君はクリアしているし、動物になるのは、長く地獄で苦しんだ者の行き着く先だから』


 ちょっと安心してもいいのかな? いや、動物が嫌って言われたら、飼い犬とか飼い猫なら変な飼い主でない限りそれなりの暮らしは出来そうだけど。


『君は色々と面白い。やっぱり正解だったよ、君を選んで』


「そう言っていただけると正直嬉しいです。それこそ、プランクトンでやり直せって言われたら、何をどうやり直すのか分からないですし」


 不動明王は、笑い声を漏らしていた。そんなにおかしかったのかな?


『さてと、そろそろ楽しいお喋りの時間も終わりにしないと。次が待っているからね。特に希望がなければ、送り先の神様に任せちゃうんだけど?』


「なら、多少でいいですから記憶を持ったまま出来ますか? それが通用するかどうか分からないですけど、やっぱり知識は大切だと思うので」


『うんうん、分かった。じゃ、後は向こうの神様に頼んでおくから、新しい人生を楽しんでね。それじゃ』


 そう言われると、急に意識が……。

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