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April fool

作者: みゐえな

一日のもうほとんど終わりの時間帯だが…一応四月一日だ!

てことはまだエイプリルフール…のはず!


てことで、April(しがつの) fool(バカ)たちのお話をどうぞ!

名は体を表す。

そんな言葉があるが、本当にその通りだと思う。


いや、表すほどまでいかなくとも、名を意識したような性格である人は結構いる。


この名前の人って気が強い人多いよね、とか。

名前の意味と正反対な人だよね、とか。

名前も性格も地味だよね、とか。


名前なんてどうでもいいと思っている私ですら、名前の通りに生きてきたことを否定することは出来ない。


私が私の名前を意識して生きていることを遂に私は甘受しなければならないようだ。


しかしここはあえて否定しよう。


なにせ《名は体を表す》のだから、私はもうそれを認めているのだから、だからこそ私は打ち明けよう。



私は《正直者》だとね。



***



「ヒトトセー、今からカラオケ行くんだけど一緒に来ない?」


クラスの友達に誘われて、机の中の教科書類をカバンに詰め込んでいた手を止める。そして一瞬頭の中で自分のこれからの予定を思案し、予定が”空いている”ことを確認して、応えた。


「ごめん、空いてないんだ」


それを聞いた友達は気を悪くした様子もなく「そっかー、邪魔してごめんね」と言って別の子のところへ行った。おそらく彼女も私が断ることは想像済みだったのだろう。誘ってくれただけ優しいというものだった。というか、クラスでたった一人私を気にかけてくれる友達(メート)だった。わぁお、そんなクラスメートの誘いすら断る私って実はクラスで一番最強なんじゃないだろうか。もう”一番”と”最”強でナンバーワンが×2になっちゃうくらい最強なんじゃないか。ならもうクラスメートなんて私には必要ねぇ。さよならクラス委員長(メート)、もう君はクラス会があるごとにクラスメート全員を誘うという仕事はなくなったよ。いやごめんなさい謝るからやっぱり話しかけて下さい寂しいです。


さて、帰るかと詰め終えたカバンのチャックを閉める。

ええ、帰りますよ家に。そしてネットインだこのやろう。

とまあこんな感じで別段このあと用事もすることもない。だからさっきのクラス会を断る理由も本当はなかった。

けれど私のポリシーに反する!

もはや私の代名詞って言ってもいいくらい定番のポリシーだ。私のルビをポリシーにしてもいいくらい。いや、むしろポリシーのルビを私にしてもいいくらい。やだなに私ってガチガチ校則模範生(って書いて風紀委員(仮)と読む)みたい。風紀とか入れるだけでなんかカッコ良くなるのはなんでだろう。ああ、どうでもいいか。


立ち上がってカバンを肩にかけ、扉を開けて教室を出…ようとして、教室に入って来ようとした誰かとぶつかった。私より背が高かったらしいそいつの胸のところに顔がポフッと埋まる。感触を感じる間もなくすぐに弾力で弾かれ、倒れそうになるのを数歩下がることで立て直した。

ふぃー、転ばんでよかった。っていうか誰だ!いきなり入って来て危ないだろーが!

とか思うことはなく、むしろ「やっべー今の絶対男子だったよ男子にぶつかっちゃったよ殺される瞬殺されるぅぅうう」の方だった。怖いよガクブル。

恐る恐る視線を上げ、そいつを視界に収める。ピンで止めてある長めの前髪、そこから覗かせる切れ長の目、吸い寄せられるような赤い唇、そして……。


「お前かっ!」


ただの幼馴染だった。

つか、まごうことなき幼馴染イケメンだった。


「あれっ、ヒトトセじゃん。よかったーヒトトセで」

「おまっ、何気にひどいこと言ってるの気付いてる?」

「嘘だよウソ。やだなー僕が《嘘つき》なのは知ってるでしょ?」

「…分かってても傷つくっつーの」

「あ、嘘だ」

なぜ分かった。


「まあとにかくごめんよ。怪我なかった?」


私に笑いかけるその顔に一瞬ドキッとしながらも「大丈夫、こっちこそごめんね」と返す。あんなに子ども子どもらしかった幼馴染が最近急に成長して、高校生な今ではもう立派なイケメンだ。爽やかオーラが装備されている。ちなみに効果は「範囲内の空気を浄化、どころか昇華して辺りに花を散らす」である。ちなみにちなみに花とは漫画でイケメンがここぞというときに背景に散らす…いや、散らかすモニュメントである。ちなみにちなみにちなみにモニュメントとはニュートラルでプシュケとしてのメタリック的ハードを持つトランスルーセントなただのゴミである。


「んじゃ私帰るから。バイバイ」


バイバイ、ゴミと心の中で繋げて遊んだ。そういえばゴミって英語でトラッシュだけど頭にパを付けたらパトラッシュなんだよな。そうか、パトラッシュはゴミの精霊だったんだ。これは失礼、これからは君の名前に疑問を持つことはしないよ。バイバイ、幼馴染(パトラッシュ)


そんなどーでもいい思案で遊びながら足を進めようとして、ピタリと止まる。

前に進めない。具体的に言えば隣に立ち並ぶこのイケメン改めパトラッシュな幼馴染が私めの腕を鷲掴んでいて足を出しても前に歩けない。さて、これはいかに。


「ヒトトセ、今日の放課後って時間空いてる?」


またお誘いだった。ん、イケメンからのお誘いってなんか美味しい気が…いや、ダメだ!ここで挫けたら私の今までのポリシーがポリシーでなくなってしまう!ポリゴン的ナニカになってしまう!


「ごめん、今日あいてないんだ」

「そっか、ならホームルーム終わったら直ぐ来るから。逃げないように」


が、そんな返事など最初から分かっていたようで、幼馴染は軽くスルーすると掴んでいた手を放して自分の教室へと戻っていった。

くっ、これだから長い付き合いの奴はつまらん。

まあいい、本当に用事があるわけでもないし、付き合ってやろうじゃないか。

そして意趣返しをさせてもらう。


思わず笑みが浮かぶ。それを見たクラスメートが慌てて目を逸らしているから、きっと今の私は悪い顔をしてるのだろう。



***



私の幼馴染は《嘘つき》だ。


典型的な《猫かぶり》。他人の前では外面被せて終始穏やかな微笑みを絶やさず。しかし一転自身の内へと入ると黒い本性が笑みを咲かせる。


と、いうわけではなく。


本当にただの《嘘つき》。嘘をつくことが好きで嘘ばかり吐いているような奴だけど、《腹黒い》とか《二面性がある》とかそんなんじゃない。素直に嘘をつく。正直に虚言を放く。


ことあるごとに嘘を並べるから、彼の言う大半はその真逆のことが真実となる。あまり嘘の意味を成していない。


だから私は、彼の囁く愛の言葉を一蹴することが出来るのだ。


「ヒトトセ、かわいいね」

「うんうん、かわいくないねって言いたいんだね分かってるうん」

「ヒトトセ、大好きだよ」

「うんうん、嫌いって言いたいんだね分かってるうん」

「ヒトトセ、食べてもいい?」

「うんうん、触りたくもないっていうメッセージなんだよね分かってるうん。だからこれ以上近づかないでね」


本当にウザいくらい愛の言葉を言うものだから、よっぽど私は嫌われているのだろう。なにもそこまで言わなくてもいいと思うが、誤解されたくないほど嫌なのかと一人納得してみる。


まあ、私だってあいつのことはそんなに好きじゃない…というか嫌いだと言われまくって好意を持つ奴なんかいるわけねーだろと、そういうわけで。


幼馴染に嫌われても、何の問題もない。


そんなこんなで、はたから見るとただのリア充のようなやり取りが、水面下で複雑な事情が絡み合いながら為されていた。


ちなみに同級生の三分の二が、二人が付き合っていると思い込んでいたりいなかったり。



***



小さい頃は二人、仲が良かった。

幼馴染と近くの公園やお互いの家で遊んで、毎日を過ごしていた。

その頃幼馴染は《嘘つき》なんかではなくて、ただの素直な子どもだった。

そして私は《嘘つき》な《正直者》だった。


「お人形遊びしよーよー!」


私が提案して、


「……う、うん」


嫌だけど断れない幼馴染が渋々頷く。

それを察知した私は、


「やっぱお人形遊びはこの前やったからいーや。代わりにブランコしよー」


”気分が変わった”と嘘をついて、彼の代わりに代替案を出すのだ。


「うん!」


彼が嬉しそうに笑うのが、私は好きだった。


《我儘》な私に付き合う幼馴染の、困った顔や楽しそうな顔が見たくて、私は偽りの嘘で正直な表情をつくりだしていた。



それもいつの日か失われることになるとも知らず。



***



「んで…用事ってなに?」


放課後。幼馴染がやって来たので、彼の言う用というのを尋ねる。わざと不機嫌そうに見せて、腹の虫が好かないのはお前のせいだと言わんばかりに。

ふん、こんなのはただの序盤だ。きっちりかっちり意趣返しをしてやる!嘘で嘘をやり返すんだ!


「なにって…ほら、これ」


差し出されたのはきれいにラッピングされた箱。これって…。


「今日、誕生日でしょ?」

「…誕生日、ねえ。まあ近いことは確かだけど。今日ではないかなあ」

「えっ!あれ?四月一日じゃないの?!」

「いーや?昨日だよ」


嘘だけどねっ!


「ご、ごめんっ!毎年四月一日に渡してたかも…。本当にごめんね!」


おおー、すごい慌てよう。幼馴染のよしみであげてるだけの誕生日プレゼントを、たった一日間違えてあげただけでそんなにあたふたするとは…くくく、笑えるー。

ま、これで意趣返しとやらは出来たかな?

かわいそうだからそろそろ教えてあげよ。


「嘘だよウソ。誕生日、四月一日で合ってる」

「…え?」

「あんたの苗字と同じだーってちっちゃい頃笑ってたでしょ。ねえ、《四月朔日(ワタヌキ)》?」


私の幼馴染のワタヌキは、《四月朔日》。朔日とは《はじめ》を意味する。つまり四月のはじめ…四月一日のことだ。

だからワタヌキは《四月朔日(エイプリルフール)》で、《嘘つき》なんだ。


ほら、名は体を表してるでしょ?


「《嘘つき》さん?」


いたずらっぽく笑ってみたら、苦笑だったけれど微笑み返された。


…やっぱり、嫌われるより、こうやって笑い合ってた方が楽しいな。

いつから嫌われるようになったんだっけ。

…いや、過ぎたことを言ってもしょうがないか。私も、ワタヌキも、もう今を生きてるんだから。


だから、私は《嘘つき》になるんだ。


「ありがとうと言っておく。けどこの歳になって誕生日プレゼントって、恥ずかしいからもういーよ」

「ヒトトセ」

「あと、《四月朔日(うそつき)》に好きだの愛してるだの言われてもめんどーなだけだからそれもやめてね。分かった?」


これはもう意趣返しとかそんなんじゃなくて、ただの私の自己満足だ。

だからワタヌキも普段の《嘘つき》ではなくて、《正直者》の声を聞かせて。


「ね?」


念押しのように言葉をかける。

ワタヌキはそれに顔を上げて、澄んだ目を私に向けた。


「ヒトトセ。ヒトトセは勘違いしてる」

「なに、いきなり」

「僕の名前は確かに《四月朔日(エイプリルフール)》だよ。その通り、確かに嘘が大好きな《嘘つき》だ。けれどもう一つの名前…僕の下の名前にだって反することはしていない。僕はね、あることに関しては《真実(マコト)》でいるんだ」

「……?」

「ヒトトセのことだよ。ヒトトセのことに関しては、僕は嘘の全くない《真実(マコト)》だった。ヒトトセの前で言っていた、ヒトトセへの想いの全てが、僕の本心だよ。…《大好きだよ、ヒトトセ》」


それを聞いた途端、顔が熱くなって火照った。血がぐるぐると回って、頭がぼうっとしてくる。けれど思考速度は早くなって、さっきの言葉を一生懸命理解していた。


えと、えーと、…ワタヌキはマコトで、私のマコトであって、その…えと、大好きで…って、す、すすすす好きとか、な、なに、なに言ってんだ嘘だウソに決まってるぅぅううう!!


「ヒトトセの名前は《春夏秋冬(ヒトトセ)》《空音(ソラネ)》。ヒトトセは《一年(ヒトトセ)》だ。僕にはね、最初君こそ一年中《(ソラネ)》を放く《嘘つき》のように思えたよ。だから僕も嘘を愛するようになった。…けれど、君は本当は《正直者》だったね。外を虚言で固めて、その実自分の気持ちに正直で…。だから僕も、君に対してだけは《真実(マコト)》であろうとしたんだよ」


君へのこの想いだけは、決して偽ることはしない。


そう話すワタヌキの言葉は、思考停止しかけた私の耳を素通りするだけだった。


それに気がついたのか、ワタヌキは仕方ないなという風に息をつくと、


「さて、長年の誤解も解けたようだし、ヒトトセ…いや、ソラネをいただいてしまおうかなぁー」


スッと滑らかな動作で私を持ち上げると、ワタヌキは二人分の鞄も持って校舎を出る。



自分が今どんな格好でいるのか、この十数分後に私は気が付くのだが、その時には幼馴染みが満足げに笑っていることを、私は知る由もない。

キャラ紹介


春夏秋冬(ヒトトセ) 空音(ソラネ)

一人称:私

高校一年生

苗字の《春夏秋冬》とは《一年(ヒトトセ)》から来ている。《空音》は《いつわりの言葉》という意味。

その名の通り、嘘をついてばかりのキャラであるが、それは相手のためであったり自分の見たい知りたいもののために言う嘘が多い。負けず嫌いでやられたらやり返すのが心情。恋愛に疎く、耐性がない。幼馴染であるワタヌキにほのかな恋愛感情を抱くも、それが恋だと気が付かずただの親愛だと思っていた。



四月朔日(ワタヌキ) 真実(マコト)

一人称:僕

高校一年生

苗字の《朔日》とは《一日》のことを指すため、《四月朔日》は《四月一日》と同義である。四月一日がエイプリルフールなので、ヒトトセからは《四月朔日(エイプリルフール)》=《嘘つき》という図式が立てられていた。ヒトトセのことが大好きで大好きで仕方がない。小さい頃は子どもらしい素直な性格だったが、ヒトトセからの影響で嘘が大好きな《嘘つき》となる。しかしのちにヒトトセが《嘘つき》のフリをした《正直者》であることに気が付いてからは、自身もヒトトセへの想いだけは《真実(マコト)》であろうとする。しかしヒトトセからはワタヌキは《嘘つき》であると誤解されていたため、ワタヌキのヒトトセへの言葉は全て逆の意味(嫌われている)と思われていた。


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