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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク)  作者: Gibson
第16章 ギャラクティックエンパイア
270/274

第270話

この連載小説は未完結のまま約1週間以上の間、更新されて(以下略)


 ギガンテック社製の超巨大輸送船であるタイタン級。ライジングサンの保持する同級であるヴァージンクイーンとディッカーマックスが並んでデルタ星系宙域を航行し、それから少し離れた位置をこの度追加購入されたタイタン級のポルノスターが追っている。


「…………」

「…………」


 新造艦であるポルノスターの艦橋は、出航してから今現在にいたるまでを、重々しい沈黙が支配していた。時折必要事項を話す事はあったが、しかしそれだけだった。戦闘艦ではないタイタンの艦橋は広く、快適で、それこそ必要なものは何でも揃ったが、それを有意義に使おうとしている者は今のところいなかった。


「…………いや。まさかさぁ」


 ふと、快適さだけを求めて造られたシートの上で太朗がつぶやいた。その言葉にテーブル上で携帯端末をいじっていたマールが顔を上げ、にらみつけるような視線を向けてくる。


「それ以上は言わないで。聞きたくないわ」


 ぴしゃりとした声。太朗は開いていた口を閉じ、項垂れる。やがて助けを求めるように小梅を探すと、いくらか離れた位置でガラス窓向こうを眺める彼女を見つけ、近づいた。


「…………」

「…………」


 小梅の横に立ち、無言で窓向こうに広がるカーゴ内部を遠巻きに眺め見る。準真空で満たされた空間は奥行き4キロにも及ぶが、今はそれを確認する事は出来ない。貨物が満載されているのだから当然だ。大小さまざまな物品が梱包され、あるいはそのまま柱や床材等に固定されている。


 太朗は視線を船外映像表示のパネルへと向けると、併走する2隻の姿を見つけ、他も同じような状態だったなと心の中でため息をついた。


「そう気に病む事はありませんよ、ミスター・テイロー、ミス・マール。罪を犯さぬ者などこの世には存在しません」


 沈黙の中、小梅が無表情のままにそう言った。太朗は同意すべきか否定すべきかがわからず黙っていたが、その通りだと改めて自分自身が思い込むよう、彼女の言葉を頭の中で反芻させた。向こうテーブルでは心ここにあらずといったマールが端末をいじる手を止め、ため息と共に天を仰ぎ見た。


「わかってる。私だって自分が清廉潔白だなんて思ってもいないわ…………でも、あんまりじゃない!?」


 マールはばんと携帯をテーブルに叩きつけながら立ち上がると、太朗達の方へと向き直り、ずかずかと大股に歩み寄ってくる。彼女は左右に避ける太朗達の間をさらに進むと、ガラス窓へ両手をつき、ほとんど額がつかんばかりに奥を覗き込んだ。


「…………だ、だよなぁ。まさかさぁ」


 マールの迫力に圧され、彼女の顔を見ないように発する太朗。再び言うなと遮られるのではと身構えたが、しかし何の動きもなかったため、続けた。


「まさか…………密輸に手を出す事になるとは、思わんかったよなぁ」


 太朗の言葉が静かな艦橋へ響き、消えていく。ほんの何秒かの沈黙がやたらと長く感じ、居心地の悪さから身じろぎをする。やがてマールが「ただの密輸じゃないわ」と口を開いた。


「帝国法、ステーション条例、宙域条約、全部に触れてるわ。見つかったらタダじゃ済まない。小梅、過去の判例ではどうなってるかわかる?」


 マールの質問。それに「調べる必要がおありで?」と小梅。それを受けたマールは「はぁ……」と大きくため息をついた。


「そうね。ないわね。無許可なら極刑だわ」


 静かに、目を据わらせたマールがぼそっと発する。太朗はこれをやらせた張本人たるディーンに一縷の望みを見出そうとしたが、難しかった。彼の絶対権力が及ぶアルファ方面宙域はまだ遠く、ここは帝国中枢たるデルタ星系だった。太朗はマールと同じようにため息をつくと、念のためにと用意してある偽造通行許可証の入ったチップをぴらぴらと揺らし見た。


「わざわざディンゴに頼んで作ってもらったけど、役に立つかは五分だっつってたしなぁ…………っていうかさぁ。そもそも俺らに拒否権なんてないじゃん? 素直に話せば情状酌量してくれんじゃねぇか?」


「はぁ……そんなわけないでしょ。事が起こった後ならともかく、現状なら連座で処分されるのがオチよ。きっと社員の上の方までが縛り首だわ」


「うげっ、まじか。くそっ、最近特に思うけど、銀河帝国って色々と野蛮だし、雑すぎねぇか? そら独立云々っつー動きも生まれてくんだろ」


「そうね…………ちょっと前の私だったら、私達にとってはそれが普通だって答えてたでしょうけど。でもあっちで生活するようになって、帝国は決して最善じゃないって思うようになったわね……」


「まぁ、良くて次善だよな。銀河があんまりにでかすぎてしょうがねぇんだろうし、他に方法あるかって聞かれてもわかんねぇけど」


「えぇ。私達なんて数億の住民相手に日々大混乱だけど、帝国は120兆だものね…………でも、あぁ、もうっ!! 他にやれるトコなかったの!? なんで私達!? ほんと、見つかったらどう言い訳すればいいのよ!!」


 マールが興奮して叫び、どんとガラスを叩く。太朗はおっかなびっくりしながら、彼女の肩越しにカーゴ全体を今一度見やった。


「…………エロビデオの、撮影要員とか?」


「無理に決まってんでしょ!! いったい何本撮影するっていうのよ!!」


「いやぁ、そらまぁ男は6割前後って話だから、5万の6掛けで、3万本くらい?」


「そっちの本数じゃないっ!! というか、あれはどうするのよ!! 撮影用のセットです、とでも言うつもり!?」


 マールがカーゴの中でもひときわ大きな存在感を放つ貨物をびしりと指さす。モジュール壁で囲まれ、隙間をシートで覆い、なんとかその存在を消すための努力がされているものの、しかしこうも巨大であればほとんど焼け石に水といった具合の、そんな貨物。


 その周囲には軍服姿の男女が思い思いの行動をしており、距離的に豆粒程にしか見えないが、何やら運動をしていたり、ブリーフィングらしき何かをしていたり、くつろいでいたりと、千差万別だった。室内戦を想定した部隊がいるのか、いくらか凝りすぎたサバイバルゲーム会場のようなセットで光線判定銃を使った銃撃戦が行われていたりもする。広すぎるカーゴ内を移動するための磁力車がそこら中を走りまわり、太朗に地上を行き交うアリの群れを思い起こさせた。


「さすが"町ひとつ運べます"、が売り文句のタイタン級だよなぁ…………でもかなり分解してあるし、ぱっと見はわかんねぇんじゃね? ちょっと変わった構造物です的な。デザインビルディング?」


「わからないわけないでしょ!! いくら分解したって空母は空母よ!!」


「まぁ、戦略兵器を見分けられねぇ臨検官はいねぇわな…………いや、でもこれさぁ。もう俺らにできるのは何事もなくアルファに帰れるのを必死に願う事だけだろ。どうしようもなくね?」


「そう、だけ、ど!! そう、だけ、ど!!」


 半ばやけくそ気味になったのか、ガラスをさらに殴りつけるマール。太朗はおぉこわいとそれを横目にみつつ、モジュール壁からはみ出た構造体の一部へと目を凝らした。数日前までは皇室の所有物を表す文様があったそこには、今はでかでかとRSの文字が大きく描かれている。


 つまりここにあるのは、ミネルバからの派遣社員、及び貸与される備品となっている何か、だった。もちろん名目上はそうなっているというだけの話であり、実態はただの完全武装された軍隊に他ならない。書類上において正規空母がオフィスのデスクと同じ項目として扱われているのを見た時は、さすがの太朗もめまいを起こしたものだった。


「ときにミスター・テイロー、ミス・マール。かなり盛り上がっているところを申し訳ないのですが、ひとつお知らせしなくてはならない事が」


 小梅が中空を見つめながら、そう切り出した。


「先行部隊からの報告ですが、2つ先のスターゲートにて検問が張られているとの事です。今引き返してしまえばより怪しまれると思われますが、どういたしましょう?」


 小さく首を傾げ、そう続ける小梅。太朗は顔から血の気が引く音を聞いた気がし、「うぇぇ」と言葉にならない唸り声を吐き出した。続いてマールが「言わんこっちゃないわ!!」と絶望の声を上げたその時、ふと外線が入った旨の表示が頭の中に浮かび上がった。


「"よぉ、大将。嬢ちゃんの声から察するに、苦労してるみたいだな。随分ぶりだが、元気にしてるか?"」


 スピーカーから流れる見知った声。太朗はすがる思いで「アラン!!」と叫ぶと、自分達が置かれている現状を早口にまくしたてた。


「"ある程度聞いちゃあいるが、なるほど。そいつはかなり切羽詰まってるな。2つ先ってーと、検問はリジーのスターゲイトか。残るところ数時間って感じだな?"」


「そ、そうなんよ。俺たちも今小梅から知らされたばっかで、ど、どうすりゃいい? アルバの方から遠回りした方が良かったりする? ディーンさんに連絡とれねぇかな?」


「"回り道して回避できるようなものを検問とは呼ばないぜ、大将。下手な動きはしない方が良い。ディーンの奴は今はそれどころじゃないだろうし、検問を張ってるのはちょっとばかし面倒な連中だ。あいつでもどうこうできるか、微妙なところだな"」


「ぐっ、いや、まじで何とかなんねぇか!? 最悪このままだと帝国とドンパチやっことになんぞ!?」


「"何とかって、さすがに無理に決まってるだろ。と言いたい所だが、良かったな大将。今回はなんとかしてやれると思う。どうやったかはその内話すから、今は聞かないでくれよ。なぁに、スターゲイトに到着する頃には、誰もいなくなってるさ…………それより、なぁ大将"」


 アランの声色が変わり、それまでの軽い調子から真面目なものとなる。「どした?」と尋ねる太朗に、「"あぁいや"」とアラン。


「"これまで色々と大変だったが、きっとこれからも大変だろうと思う。その、頑張れよ"」


 優しいというより、憂いを帯びた声。太朗は何を改まってとむずがゆさを覚えると、「良くわかんねぇけど」とかぶりを振った。


「俺は今まで通り頑張るだけだぜ。みんなだってそうだろ? つーか、ほんとに何とかなんだろうな。まじで頼むぞ!?」


「"…………ん。あぁ、任しとけって。俺は失敗した事がないんだぜ? やれると言った事はやれる。大船に乗ったつもりで構えてな。まぁ、そっちの船の方がずっと大きいんだがな"」


 そう言うと、「"じゃあな"」という言葉と共に通信が切れる。太朗はいつもの軽い調子に大丈夫だろうかと一抹の不安を感じつつも、しかし最古参の一角たるアランを信じる事にした。


 そしてその後、その甲斐あってか、件のスターゲイトに向かった太朗達は果たしてアランの言った通り検問に相当する何かに遭遇することはついぞなかった。太朗達は犯罪行為を行ったという若干の後ろめたさを感じつつも、無事に済んだ事についての安堵を十分に満喫した。


「今まで散々借りを作ってきたからねぇ。そりゃあ一気に支払いが来ればこうもなるさ。今後も付き合いを続けるつもりなら、まぁ、諦めるんだね。やっこさんは株主のひとりでもあるし、他の選択肢があるかどうかは微妙だよ。なぁに、焼くだの殺すだのしたわけじゃあないんだ。密輸のひとつやふたつ、大したこたぁないよ」


 到着した大型輸送船を艦隊で迎えに来たベラが豪快に語った言葉。太朗はスペースマフィアのありがたい助言を引きつった笑みで受け取ると、他には何を頼まれていたかなと脳内リストを検索し、そしてそれを行った時に毎回そうなるように、何もかもを投げ出してしまいたい気持ちと格闘することにした。




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― 新着の感想 ―
[一言] 無言の重苦しい雰囲気… (さすがにポルノスターは直接的でダメだったかぁ) 密輸でした! 申し訳ありませんでした!
[良い点] 長い間投稿を待っていました。更新してくれたことにとても感謝しています。世界観や設定などとても好みと一致していて、宇宙SF部門で一番好きな作品です。ずっと応援しています。少しずつでも良いので…
[良い点] 密輸だった(愕然 [気になる点] 3万本のエロビデオを撮影するのにどのていどの時間がかかるのか? [一言] >この連載小説は未完結のまま約1週間以上の間、更新されて(以下略) ようやく…
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