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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク)  作者: Gibson
第13章 メガコープ
202/274

第202話

お待たせして申し訳ありません。

ペースがちょっと乱れ気味にはなりますが、更新再開です。



 マーセナリーズが最初に行ったのは、セオリー通りの一手だった。

 彼らは自分達の持つ権力やコネクションを使い、ライジングサンに対する経済的な締め上げを開始した。自身の影響力が及ぶ軍需関連を中心に、可能な限りのあらゆる企業へと手を伸ばした。十分な理由の説明がない協力要請に関連会社や付き合いのある会社は当然難色を示したが、最終的には手を貸す事となった。いつもの事と言えばいつもの事であるし、中小企業である彼らは大企業に逆らえるはずもなかった。

 軍需物資を中心とした船舶関連資材の交易を制限されたRSアライアンスは、事前にトップであるライジングサンからの警告があった事でパニックになる事こそなかったものの、当然ながら大混乱に陥った。大企業の持つ影響力は強大で、普通に考えればライジングサン程度の企業であればその時点で倒産の流れとなってもおかしくない程だった。


「軍需と船舶だけでこんだけって、資源関連でこれやられたら100%死ぬな」


 太朗はそう言って、かつて自分達が敵対しそうになった相手を思い出し、震えた。恐らく50マテリアルズの1社がアルファ方面宙域に対して経済制裁を行えば、たちまち周辺経済は崩壊し、アルファ方面宙域は数千万単位での餓死者で溢れ返る事となっただろう。


「交易関連企業、そして輸送関連企業に大規模な影響が出ております。既に倒産した会社がいくつも現れており、至急、何かしらの手を打ってくれとの声が無数に上がって来ております。また、我が社の輸送部門にも深刻な影響を及ぼすものと思われます」


「軍需消耗品の補給が停止した影響で、現状の艦隊戦力維持率は約91%周辺まで低下しております。今後もこれが続いた場合、予想では最大75%まで低下するものと推測されています」


「複数の取引先企業が、我が社との取引停止を発表しました。契約特記事項の対象となりますので違約金の請求が可能と思われますが、如何致しましょう」


「主に小規模の企業を中心に、アライアンス脱退を検討し始めた企業があるようです。議席価格の低下は避けられません。今の所中核企業に動きはありませんが、大きな企業1社が脱退すれば、雪崩式に抜けていく可能性が考えられます。今後の動きに注意が必要かと」


 太朗の元へ次々と届けられる凶報。アライアンス結成以来常に上り調子だった経済は、ここに来てついに停滞の様相を見せ始める。折れ線グラフの上昇は減速し、不安定に揺れ始めた。艦隊は戦わずして2割半の戦力を失い、半年先まで予約で埋まっていたライジングサンの輸送船にもついに待機船が現れ始めた。社員や住民は何かがおかしいと不安を抱き、中には他宙域への移住を決めた者もいる。ライジングサン首脳陣を始めアライアンスの頂上にいる人間達はその対応へと必死になるも、大規模な被害は避けられそうもなかった。ライジングサンは大企業の持つ影響力というものに戦慄した。


 しかしこれは、マーセナリーズ側にとって完全に予想外の結果だった。


 彼らは実の所、一連の経済制裁によってRSアライアンスの崩壊にまで繋げるつもりだった。銀河の経済は船舶無しには成り立たず、その活動に必須である物資を抑えてしまえば大方の企業は簡単に追い詰める事が出来る。今まではそれで上手く行ったし、今回もそうなると思っていた。

 しかし現実にはそうならず、RSアライアンスは今も存続していた。制裁の効果を告げる報告は次々とマーセナリーズ本部に上がってきてはいたが、どれも致命的なものではなかった。彼らの予想とは違い、RSのアライアンスを構成する企業の多くは粘り強く耐えていた。コールマンの式はアライアンスの瓦解と新勢力の台頭を導き出していたが、現実はそれに追従しなかった。今まで式の力に頼った経営を行っていたマーセナリーズの幹部達は、それに酷く狼狽する事となった。


 しかしそうなった理由のひとつには、彼らの自業自得とも呼べる点があった。旧エンツィオはEAPとの対立により、対外貿易のほとんどが封鎖されていた。つまり経済全体が内需で完結する形に傾いており、それを継ぐ形となったRSアライアンス領も同じだった。今回の経済制裁は加速度的に増える対外貿易に水を差す形とはなったが、人々の生活を脅かすまでには至らなかった。

 そしてもうひとつの理由は、RSアライアンスの掲げる民主主義という制度があった。太朗は今危機において統制経済を敷く事の出来ない民主主義の不便さを嘆いたが、実際の所こうしてアライアンスが持ちこたえているのは、他でも無い民主主義のお陰だった。

 正確に言うとそれが生み出した、銀河帝国中央にはあまり存在しない珍しい概念によってだった。


  ――よそ者に好き勝手させるか!!――


 ひと言で表すと、そういう事だった。

 銀河帝国中枢はほとんど完全なブロックモジュール方式で規格統一され、わずかな金額で簡単に他の星系へと移住出来る。そこでは高度に発展した物流と社会システムが場所の優位性というものを消し去り、人々は一歩も部屋から出る事なく経済活動へ参加する事が出来た。彼らにとって移住とは、せいぜい窓から見える星の形が変わるだけの話だった。


 しかしここアウタースペースではそうもいかなかった。勝手な勢力外への移住など許されないし、出勤と言えば文字通り職場まで足を運ぶ必要がある仕事がかなり多い。星系毎に特色や文化が大きく異なり、生まれや育ちがどこであるかは重要な事だった。全てのアウタースペーサーがそうというわけではないが、大部分はそういった環境に生きていた。

 そして銀河に住む99.9%以上の人間は誰かの支配下にある星系に生きていたが、ここでは彼ら自身が支配者だった。アライアンスを構成する企業や社員はもちろんの事、RSアライアンスの参政権を持つ人々は全員がそうだった。


 そんなアウタースペースの特異性と太朗の敷いた政治形態が混ざり合い、この銀河の片隅に一種のナショナリズムが生まれようとしていた。先のエンツィオ戦役において民間人に多数の犠牲者が出た事もその流れを強く後押ししている。企業間の戦争というものが、既に他人事ではなくなり始めていたからだ。結果として銀河帝国の常識からすれば驚く程多くの人々が、まだ見ぬ敵から逃げ出すよりも、それに身構える方を選ぶ事となった。



「情けは人の為ならずって奴かね……なんでも頑張ってみるもんだ」


 アライアンスはなんとか耐えられそうだという下からの分析結果を手に、太朗は胸にこみ上げる熱いものを堪えながら発した。そうでもしないと少し泣いてしまいそうだった。


「なぁに、連中は連中で得るものがあるからやってるのさ。お互い様って奴だ。有り難い事には変わらんがな」


 向かいのソファに座ったアランがそう言って笑みを作った。太朗はそれに頷くと、プラムの談話室をぐるりと見渡した。いつもの面子達は明らかにほっとした様子を見せていた。


「安心するにはまだ早いんじゃないかな。敵がいなくなったわけじゃあないよ」


 布で銃の手入れをしているファントムが優しく言った。そこへ「そうね」とマールの声が続く。


「今は大丈夫でも、今後ずっと続くとなれば話が別だわ。うちの会社を排除すれば助けてやるって持ちかけられてる企業もあるらしいわよ。嘘に決まってると思うけど」


 マールの指摘に、太朗は「だな」と腕を組んだ。


「例のステーションについてちょっとでも知ってるとなれば、確実に潰しに来るだろ。知ってる"かも"でもやるかもな」


 太朗は一連の宣戦布告なき戦争を、自分達が発見した例のステーションが原因だと考えていた。タイミング的にそれ以外は考え辛く、他にそうされる理由がなかった。何しろ、ライジングサンとマーセナリーズにほとんど接点などなかったからだ。


「しかし、連中はどうやって俺達が例のステーションを発見した事を知ったんだ。こういっちゃ何だが、漏れる経路に心当たりが無いぞ。徹底的に箝口令を敷いてる上に、事情が事情だ。アライアンスの幹部連中らも、恐らく身内にすら話をしてないはずだ」


 情報部の長であるアランが難しい顔で頬杖をついた。それに「そこなんだよなぁ」と頭を掻き毟る太朗。


「旧エンツィオ時代のトップはそっくり入れ替わっちまったわけだし、うちとジョニーさんとこの合併も最近決まった話なわけだ。となると、マーセナリーズのスパイが潜入してるってのは考え難いよなぁ。そういうのって時間がかかるって聞きましたけど、無理すればいけるもんなんすか?」


 ファントムの方を見やる太朗。ファントムはひとつ頷いてから口を開いた。


「相手が意識してようがそうでなかろうが、情報を流してくれる協力者の存在を作るというのは非常に手間と時間がかかるものだね。諜報員の仕事の9割以上はそういった人的資源アセットを作る作業さ。直接敵地に忍び込んで情報を盗み出したりというのは、まぁ、映画の中だけの話だろう。既に存在する協力者を使い潰す形であれば無理も可能だろうが、それがいないのであればそもそも無理のしようがないんじゃないかな」


 ファントムはそう言うと、手にしていた銃をゆっくりと腰のホルスターへと仕舞った。太朗は「なるほど」と頷くと、目の前にいる銀河中に無数のアセットを持つ大スパイの存在に感謝した。そしてそれを消費しながら協力してくれている事にも。なぜ賞金稼ぎである彼がそこまで大規模なアセットを持っているのかという疑問はあったが。


「そうなると――」


 であればスパイ以外の可能性を検討しようと口を開く太朗だったが、しかしそこへ「ただし」との言葉が割って入る。出所はスパイの可能性を否定した本人。彼は少しだけ間を開けてから立ち上がると、小梅と何やらカードゲームに興じるエッタの方へと顔を向けた。


「何事にも例外というものがある。今回に関しては、その線を考えるべきだろう」


 何か物憂げな声色でそう言うファントム。視線が集まっている事に気付いたのだろうエッタが、きょとんとした顔で不思議そうに首を傾げた。




有り難い事なんでしょうけど、お仕事忙しい。

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