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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク)  作者: Gibson
第12章 ニューク
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第181話




「地球にいた頃さ。日本の近くにあった国が核兵器を持ったっつって、大騒ぎになった事があるんよ。名前は忘れちまったけど、確か仲悪いトコだな……おっと、今の音はでけぇな」


 どこからか聞こえてきた破裂音。太朗はそれが敵ワインドが破壊された音であってほしいと願いながら、装甲車チハの後部座席で仰向けになりながら続けた。


「んでさ、大方の国民はそれがいつか降って来るんじゃねぇかって心配してたり、爆発による放射線やら爆風やら衝撃波やらが半径何キロまで到達しますーとか、命中率が悪いから大丈夫ですーとかニュースでやってたりしたけど、そんなんどうでもいいし、嘘ばっかなんだよな。核弾頭は地上には落とさねえし、爆風も衝撃波も来るわけがねぇ」


 太朗はスポンジ状となった過去の記憶を、少しずつ思い出しながら言った。


「確か高高度核爆発だっけ。要は今回の使い方が正しい……っていうのも変ね。効果的な使用法って事?」


 助手席に座るマールが少し振り返りながら言う。念のため、今も彼女はアームドスーツを着用していた。そして運転席に座る小梅も同様にスーツを着ている。スーツには耐電子攻撃機能もあるからだ。


「場合にもよるだろうけどな。コンプトン効果って言ったっけかな? まぁ、詳しい物理現象はマール達のが詳しいよ。んで高高度で核爆発を起こすと、半径1000キロとかそういった範囲に渡ってEMPが起こる。そんだけ影響範囲がデカいと命中率とかその辺はマジでどうでもいいんよね。適当な場所で起爆できりゃいいんだから。衛星打ち上げですよー、ちょっとお宅の国の上を通過しますよー、って誤魔化して実験すれば完璧。通過できた国に対してはEMPでの攻撃が可能だって事だ」


 太朗は目を瞑ると、懐かしい故郷の街並みを思い出した。本当にそれが自分の故郷の姿なのかどうかの確信は持てなかったが、胸には懐かしさを感じた。


「衝撃波も爆風も何もこねぇけど、変わりに電子製品が全部壊れる。パソコンも、車も、飛んでる飛行機も、病院の施設やら何やらもとにかく保護されてない電子機器は全部壊れる。あと送電網が死ぬから電気も来なくなるな。放送通信も死ぬ。インフラは壊滅だ。建物は残るけど、食糧が運べなくなるから人は死ぬ。多分だけど、地上に落とす場合の何十倍も死ぬだろうな」


 太朗はそう言って自嘲気味に笑うと、そろそろ脱出通路出口のはずだと身を起こした。車体正面の映像を運んでくる映像には、確かに外の明かりが見えていた。


「それよりベースはどうなった、ベースは……あれがやられてたら結局は負けだぞ」


 太朗は装甲車のハッチを開けると、身を乗り出して遠目に見えるラダーベースへと目を凝らした。


「あぁっ、くそっ!! やべぇな。想像以上にボロボロだぞ。まるで至近距離でビーム砲をぶっ放したみてぇな有様だ」


「いや、ぶっ放したでしょあんた。ぶっ放したでしょ」


 ラダーベースは痛み、傷つき、みすぼらしい姿となっていたが、一見した所は無事のようにも見える。しかし軌道衛星エレベーターの基部としての機能が無事かどうかは、見た目からはわからなかった。


「……………………」


 じっと無言で、施設の様子を伺う太朗。砂嵐にかき消された視界は良好とは言えなかったが、うっすら見える施設に何かが見えやしないだろうかと期待した。例え見えた物がワインドだったとしても、駄目だったとわかるだけ良い。地表のワインドは焼き払ったつもりだが、地下にもいた連中が地表へ出てきているはずだと太朗は予想していた。


「…………あっ」


 思わず漏れた声。ラダーベースの屋上に、何かぼんやりと動く物が見えた。


「何? ちょっと、私にも見せなさいよ」


「何かが動いたように…………いや、無理無理。二人は無理だって」


 人間ふたりが使うようには作られていない狭いハッチへ、無理矢理体を入れてくるマール。太朗はお互いがアームドスーツを着ているせいで感触も何も無い事を残念に思うべきかそれとも良かったと思うべきかを悩みつつ、なんとかマールの入れるスペースを確保しようと身をよじった。


「ねぇ、もうちょっと近づいてみましょうよ。良く見えないわ」


「駄目だって。地下にいた奴らが出てきてっかもしんねぇんだから」


 ふたりは会話をしつつも、視線は遠くベースへと向けられている。太朗は意味が無いとわかりつつも、もっと良く見えやしないかとヘルメットの中で目を細くした。


「…………やっぱりなんか、見えるな」


 屋上に見える幾つかの黒いもや。それは不規則にゆらゆらと揺れているように見える。太朗は施設内への入口を求めてさまようワインドだろうかと考えたが、それはどうやら違うようだった。


「…………やった」


 期待に心が膨らみ、自然と両手が上がる。複数のもやはひとつの場所に集まると、はためく何かを掲げ始めた。


「やったぞ…………やったぞ、マール!」


 砂嵐に煽られ、せわしなく動く何か。恐らく布で出来ているのだろうそれには、太朗達の良く知る特徴ある絵柄が描かれていた。


「えぇ、えぇ、わかってる! 私達の勝ちよ!」

「勝った! 勝ったぞ! ざまぁみろ! 俺達の勝ちだ!」


 両手を上げ、自然と万歳の恰好となるふたり。彼らはハッチから身を乗り出したまま互いに抱き合うと、大声で歓喜の声を上げた。ふたりはやがて抜けなくなった体をサイボーグ達の手で救出されるまで、ずっとそうしていた。


 掲げられたのは日の丸を模したロゴの描かれた旗。ライジングサンの社旗だった。




 何もかもが無くなってしまっていたラダーベースの屋上も、いまは少しずつ物が増え始めていた。コンテナが置かれ、資材が積まれ、修理の為のやぐらが組まれている。人々は屋上を往来し、それは戦時と変わらぬ忙しさだった。


「"警戒を怠るなよ。地下の連中はまだいるはずなんだ…………おい、セントリーガンの修理は後回しでいい! どうせ弾が無いんだ!"」


 アランが檄を飛ばし、指示されたスタッフがそれに従う。手にしているのは武器であり、工具であり、盾だった。それは戦闘中の状況と何も変わらなかったが、足取りは軽かった。


「"はしごの吸着を確認。ジョイントまで残り15秒……14……13……"」


 小梅のすました声が施設内へ流れ、それまで手元に集中していた作業員達の視線が上へと向く。ラダーベースの最重要施設である連結機構がプラズマと共に強烈な磁力を発生させ、上空のどこかを彷徨っていたのだろうはしごを引き寄せ始める。


「"……3……2……1……連結完了"」


 再び地上と宇宙とが結ばれる。施設内の人間が皆歓声を上げ、思い思いに喜びを表した。アランが何度も気を抜くなと叫んでいるようだったが、聞いている人間はあまりいないようだった。


「こうして見ると、なかなか感慨深いものがあるね」


 屋上の一角で周囲を警戒していたファントムが、連結の一部始終を見てから呟いた。


「そうっすよね。確かに守り通したんだぞっていう実感が湧いてきます」


 ファントムと同じように上を見ながら、太朗がそう答えた。彼はその辺にあったコンテナボックスを引き寄せると、椅子替わりに腰掛けた。


「被害も大きかったけど、その価値はあったっすよね」


 亡くなった部下達に思いを馳せ、冥福を祈る。ファントムの「そうだな」という短い答えは、太朗が今必要としている十分な答えだった。


「またあいつら、やってきますかね」


 エレベーターから視線を外し、今度は地表へと向ける。爆破処理の上に降り積もる砂がその痕跡を消してしまったが、そこは地中からのワインドが現れた場所だった。


「どうだろうね。わからないが、俺だったら来ない方に賭けるかな」


 亡くなった部下のものだろうか、認識票を手で弄ぶファントム。


「そいつはまた嬉しい答えっすね。根拠があったりします?」


「根拠と言えるかはわからないが、そうだな。いくら出来損ないの人工知能でも、地上が恐ろしい場所だって事は理解しただろうからね。実際、オーロラ作戦発動後は一度も連中の姿を見ていない。危険な場所を避ける程度の知恵はあるんだろう」


「なるほど……いや、今はそれで十分っす。というより、それ以上はわかりようが無いでしょうし」


「ふふ、そうかもな。だが、あながち希望的な考えというわけでもないよ。連中は戦術的に行動を考える事が出来るというのは間違いないだろう? 小出しでNASAにちょっかいをかけれる位だからね。とすると、連中からすると未知の兵器は非常に脅威を感じてるはずだ。対策が取れるまで大きな行動は取らないだろう」


「対策かぁ……とられたらしんどいなぁ……」


「あまりそれの心配はいらないだろう。少なくとも地上の連中はだが、ECMへの対策を独自に編み出すのは不可能だろうからね。EMPなら話も別だろうが」


「え、そうなんすか?」


「あぁ。今回の核弾頭によるEMPは放射線由来の電磁波から来るものだ。それに関する対策はNASAから奪った情報なり装置なりの機能を応用する事で可能だろう。何年先になるかは別としてね」


「まぁ、核兵器も発電所もありますしね。そこ用に使ってる部品や何かはEMP対策済みか」


「そうなるね。物理的な問題でせざるを得ないんだが、それは置いておこう。それより連中にとって問題なのは、艦載機用ECMの方だ。ECMが放射線や電磁波の代わりに飛ばす物が何だか知ってるかい?」


「そりゃまあ、身内に機械マニアと機械そのもの娘がいますからね。ECMは…………あー、そういう事か。そりゃ確かに無理だわ」


「そういう事さ。あれはドライブ粒子を利用したECMだからね。惑星ニューク上にドライブ粒子を利用したECM装置は、我々の持つそれ以外には存在しない。自分らで発明するには、まぁ数千年から数万年はかかるだろう」


「という事は、今後はECM発生装置をじゃんじゃん持ってくるとして、それの取り扱いにさえ注意すれば?」


「ん、今後の惑星ニュークの展望は明るいだろうね。攻撃の戦車隊と、防御のECM。この2本柱を上手く運用していけば、近い内に人類の優勢が決まるんじゃないかな」


 ファントムはそう言うと、地面を親指で指しながら眉を上げた。


「ただし、ECMも戦車も広い場所でこそ有効だ。NASAの連中には、今後の生活圏を地上へ移してもらう事になるだろうね」




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