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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク)  作者: Gibson
第1章 ゴーストシップ
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第1話

重々しく無い、ライトなノリのSF。

生暖かく見守っていただけると幸いですm(_ _)m

「全砲門開け!! 目標……ひぎぃぃ!!」


 全周囲モニターに囲まれた10メートル四方程の部屋の中央。様々な計器や操作端末の並ぶその中で、一条太郎はまるで懺悔をするかの如くその場に崩れ落ちる。


「開けって言ったのは……砲門だ……誰が、俺の肛門を開けつったよ……」


 太郎の後ろには、人差し指のみを上げて両手を組み、無表情のまま立膝で座り込む女性の姿。太郎は光の動きを感じ、四つん這いの恰好のままモニターへと顔を上げる。


「っておいおい、発射されてるよ。どうなってんのおい。宇宙軍ってのはさあ。ひぎぃで目標通じちゃうの? 何なの。暗号なの?」


 全周囲モニターに映し出される、幾百、幾千もの青い光の筋。レーザー推進によって宇宙空間を高速搬送された反物質が対消滅を起こし、熱と光。そして破壊を残して瞬いていく。


「ふふ……はっはっは!! 見ろ、圧倒的ではないか。我が艦隊の活躍でこの戦争も終わりが近いぞ!! 間違いない!!」


 目を閉じ、両手を高々と掲げる太郎。その陶酔しきった顔に勝利の微笑が浮かぶ。


「はい。ですが艦長の括約筋も終わりが近いですよね」

「吾輩の力を持ってすれば……ってうるせえよ! おめぇのせいだろ! それと上手くねえよ!!」


 ツッコミを入れようと手を振りかざす太郎だが、慌ててそれを止める。彼は自分が向こう見ずな性格なのは承知しているが、金属で覆われたサイボーグの体を素手で殴ったらどうなるか。それをわざわざ実験したいとは思わなかった。


「くそっ、今度整備オイルにツバ入れてやる……しかしまぁ、なんだかな。随分遠いトコまで来ちまったって感じだよ。つーか、俺さ。本当に地球に帰れんの?」


 腰に手を当てたまま、まっすぐ銀河の星々を眺める太郎。滑らかな金属の体を持つ女性がその後ろに立ち、「さぁ」と短く発する。


「さぁ、って随分軽いなおい……まあいいや。そのうち見つかんだろ……」


 無限に広がると言われている宇宙空間。

 そこに無数に存在する、銀河の星々。


 その広大な世界の中、

 一条太郎は迷子になっていた。




「あぶらはむっ!!?」


 顔面に走る衝撃。仰け反る体。一条太郎は顔を地面に押し当てたままエビ反りになるという器用な恰好のまま、ぼんやりと何が起こったのかを考える。


「はて……病院にしては、随分いかちぃ雰囲気やね」


 太郎は先日の腹痛による検査入院の事を思い出すと、全身を襲う強烈な倦怠感と戦いながら、ごろごろと固い金属で出来た床を転がり始める。


「うぷっ、駄目だ。この移動方法は人類にはまだ早すぎる……っと、ここはどこかいな?」


 吐き気を覚えた太郎はのっそりと起き上がると、自分の居るその違和感に溢れる広い部屋をぐるりと見渡す。彼の記憶の中では、少なくとも一般的な病院において、壁から天井に至るまで全てが金属で出来た部屋など存在しなかった。


「拉致監禁? あぁいや、ドアは開いてらっしゃるのね。誰かいませんかー」


 口に手を当てて声を上げる太郎。がらんとしたその部屋は彼の声を良く反響させるが、彼以外の声を響かせる事はしなかった。太郎はもう二度ほど同様の呼びかけをするが、結局は諦めて部屋の中をうろつく事にした。


「ふむ。何かの研究所ですかね。僕の病気はそんなに進行してらっしゃいましたか」


 太郎は何故敬語なんだろうと思いながら、ぶつぶつと部屋の中を観察する。がらんとした乳白色の壁に囲まれたそこは、いくつかのパソコンと思われる操作端末が存在するだけの味気無い空間だった。地面には1メートル四方程のブロック状の切れ目が入っており、歩行順路だろうか。それを避ける形で白線が引かれている。太郎は白線の傍に文字を見つけ、それに何気なく目を向ける。


「はーい、文字が読めませーん、外国でーす」


 形状からするとアルファベットに近い形なのだが、太郎はそれに全く見覚えが無かった。太郎はひとつ深い溜息をつくと、なるべく避けたいと思っていた場所へと足を向ける。


「うーん。察するに、俺はここから落ちたんだよなあ」


 太郎は地面から生えた金属の塊。その中にある、人の形状をした窪みのある装置を眺めながら呟く。その装置の中には複雑な配線と共にいくつもの針状の突起が飛び出しているのが見え、そこにはうっすらと血痕と思われる赤い跡が残されていた。


「何の拷問器具だよ。俺はそういう趣味は無いんだけどなぁ……これはエンドール社のタイプⅣかな? ……って、はいぃ?」


 太郎はすらすらと口から出たその単語群に疑問符を浮かべて立ち止まる。エンドール社という会社――恐らくだが――もタイプⅣという何かも、自分で口にしておきながら全く心当たりが無かったからだ。


「何それ、怖い」


 震える体を抱えると、一歩後ろへ下がる太郎。切っ掛けは不明だが、その拍子に部屋へ訪れる軽い振動音。ゆっくりと動き出す床。


「っと、やめてくれよ。俺さぁ、こういう展開は嫌いなんだよ……」


 ブロック状の切れ目単位でせり上がっていくいくつもの床。その何十という数の装置は太郎の予想違わず、どれもが全て目の前にある装置と同じ形をしている。ぼうっとそれらががせり上がる様子を眺める太郎だが、予想だにしなかった点と言えばそれが空では無い事ではなく――


「ボーンと登場ってか。いや、笑えねえっす……」


 その中にあるのが人骨だけだったという点だろう。



  ――"コールドスリープシステム、凍結解除完了"――


 部屋のどこからか聞こえる合成音声。ビクリと震える太郎。


「え。あぁ、何。そういう事? 俺ってそういうあれなの? 不治の病?」


  ――"予後生存率、0.0002374"――


「……おいおい、失敗しすぎだろそれ」


  ――"死亡者4211名"――


「よんせ……え、ちょっと待って。これって」


  ――"凍結再開者、無し"――


「ちょっと待ってね。ほら、あれ。計算するから」


  ――"生存者"――


「ちょっ」


  ――"1名"――


「……うほっ、ラッキー……って喜べるかぁ!! 誰かぁ!! 誰かいませんかあ!!」


 わけのわからない事態に混乱しつつも、どこか冷静でいる自分に驚く太郎。それでも心臓は早鐘を打ち、手足は震え、体はいつもの様に自由には動かない。彼は足をもつれさせて転びながらも、這うようにして出口へと向かう。


「せんせー!! 誰か!! 助けてえ!!」


 太郎は何かに追われるように外へ出ると、先程と同じような構造の続く廊下をひた走る。途中いくつかドアのようなものを見つけたが、彼には開け方がわからなかった。ドアノブが無いばかりでなく、センサーの類も見つけられなかったからだ。


「おーい!! くそっ、誰もいないのか? なんなんだよここ……っと、あら?」


 長い廊下の突き当たり。ひときわ大きい扉に到達すると、太郎はそのスライド式の扉に隙間があるのを見つける。彼はその隙間から向こうへ何度か呼びかけた後、その隙間へと両手を差し込んだ。


「せーの、んぎぎぎぎぎ!!」


 鉄で出来ていると思われる扉は重く、壁に足をかける事で全力を込める太郎。彼は途中で一度引き返して端末に触ってみる事を思い付いたが、それは最後の手段にしたかった。できればあそこには戻りたくない。


「んぢぐしょおおおお!!」


 何故こんなにムキになっているのだろうと自問自答しながらも、ようやく動き始めた鉄の塊に安堵を覚える。


「ふはぁ……それじゃお邪魔しま……す……?」


 太郎が足を踏み入れたのは先ほどと同じような構造の部屋。しかし大きく違う点が一つ。


「なに……これ……」


 扉の向かいに位置する方向には、壁のかわりに巨大なガラス窓。太郎は茫然としたままふらふらとそこへ近づくと、ガラスに映った自分の姿にびくりとしながら、そっと窓際へと近寄る。


「…………宇宙?」


 太郎の目に飛び込んできたのは、どこまでも広がる一面の星々。地球上では決して見る事の出来ない鮮明な光を放つその展望に、太郎はしばし時と状況を忘れてそれを眺め続ける。太郎に星座の知識は無かったが、星の瞬きを美しいと思う事に何かの知識が必要だとは思わなかった。


「ドッキリか何かなんじゃないかって、期待してたんだけどな……」


  ――"メッセージ再生 標準歴1428・11・05"――


 背後よりの突然の声。太郎は驚いて振り返るが、相変わらず部屋はがらんとしたまま。彼は標準暦という聞きなれない単語に寒気を覚えたが、メッセージという言葉に留守電のようなものではとあたりを付け、続きを待つ。


  ――"あー、定例報告。14281105。異常無し"――


 先程の合成音声と違い、はっきりと男のものとわかる声。


「いや、異常ありまくりなんですけど」


 声がどこから聞こえてきているのかさえわからないが、とりあえず部屋の中央に向かって呟く太郎。


  ――"星間飛行は極めて順調。宇宙船、貨物共に問題無し"――


「や、だから順調じゃねえっすよ。特に貨物……ってうぉぉ、まじか。これ宇宙船? ええと、俺はいったい何年寝てたんすか。未来っすよ未来。猫型ロボットとかいるのかな」


  ――"これより乗員全員、冷凍睡眠に入る。次の報告予定は五年後"――


「はいはい。おやすみなさい……って、おおおい!!!!」


  ――"以上。アルスター・ウェイン報告終わり"――


「ちょ、ちょっと待って。え、何? 今、なんつった? 乗員? もしかしてもしかして乗員全員つった?」


 慌てふためきながら部屋の中を行ったり来たりする太朗。当然何の反応も返っては来ない。


「乗員全員が……冷凍睡眠? いやいやいや。だって、それだと……」


 太郎はその後もぶつぶつと呟くが、自分の吐き出した言葉でさえ全く耳に届いておらず、何を喋っているのかさえわからなかった。なぜなら彼の頭の中では、最初に聞いた合成音声がずっと木霊していたからだ。


  ――"生存者、1名 生存者、1名"――




序盤は状況的にテンションの高い主人公ですが、その内落ち着きます。

後、基本的には明るい内容にするつもりです。メリハリをこう、ね。

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もう何度目なのかわからないくらい読みました〜 また1から読み直します!
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