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調和の王






 反乱軍の拠点へは、ディーバのおかげで当初考えていたよりも早く戻ることができた。

 しかしながら、到着した際に一騒動起こってしまい、最終的にそれを収拾するのにかなりの時間が掛かってしまった。

 そのせいで、ただでさえ疲れ切った身体に精神まで消耗し、ファルサはやっと落ち着けた天幕の中で憔悴しきっている。

 ディーバは人間の女でもプルスでもなく、銀の毛が見事な大狼の姿となって隣で暢気に欠伸を零していた。


 そしてそれを、青空を連想させる爽やかな長い髪を背中で一纏めにした、同じ色の瞳が理知的な一人の好青年が眺めている。バランスの良い鼻筋にシャープな輪郭、スラリとした体型が柔和さを多分に醸し出していた。

 彼こそが、血で血を洗う争いの時代を迎えた現在のアデュイオンにおいて、唯一の希望とされているレックス・コンコルディア=マグナだ。

 ディーバはガーネットの瞳の端で見澄まし、意外だとの感想を持った。


 言ってしまえば優男。おおよそ決起して反乱を企てるような者とは思えない。ファルサと見比べれば一段と頼りなかった。

 それでもこの青年が、他国をも怯えさせ苦しめたレグルス=レギオからその勢いを殺ぎ、数々の苦汁を舐めさせているのだから、人は見かけによらない。


 把握している話によれば、軍に属さずそれでいて力を持った者たちの元を訪れ、仲間となるよう説得して反乱軍の礎を作ったのが四年前。初期メンバーは十三人だったが、今では六人にまで減ってしまっている。

 台頭して名が知られるようになったのは二年前だが、それまでの間でも水面下で活動し勢力を徐々に伸ばしてきた反乱軍の活動は、小さな村を国軍の支配から解放させることから始まった。


 他国への侵攻に躍起になっていたレグルスの命で、どんな田舎からであっても成年に達した男子は徴兵されることとなり、それは初めただの反抗として認識された。

 しかし、次第に数が増え、噂となって流れるようになったことで、反乱軍の存在が公となる。


 それでもまだ、レックスの名が王都へ届くには至らなかった。それは一重に、王が崩御した後も変わらず忠誠を誓い、レグルスの手からなんとか逃れたわずかな貴族たちの協力があったからだ。彼らを隠れ蓑にすることで、最後の王族は守られ続けた。

 そして、とうとう反乱軍をレグルスが無視できないところまで勢いづいたところで、スラム街出身という異色の王族の名が知れ渡った。


 レックスの才覚は、育ちを感じさせないほどに素晴らしいものだった。

 一つ一つは小さくも、それでも村や街を奪還してきたことで国を二分するまでとなり、今では他国への侵攻を止めるところまできている。払った犠牲はけして少なくは無いが、それを無意味だと言う者は誰もいない。


 戦いが四年目に突入してからは、目指す場所全てが激戦となるような状況でありながら、生粋の軍人にも負けず劣らない指揮を取るレックスは、知将と称えるに十分値するだろう。一進一退の拮抗は、相手側に危機感を与えるこそすれ、味方にとってはより鼓舞させる要素となる。

 さらにはファルサという戦神の申し子が居るのだ。二人の絆もまた有名で、彼らが中心に立ち続ける限り希望は潰えない。

 そんな背景を、ディーバは数々耳にしてきた。


 だが、こうして拠点へと来ることとなり感じたのは、予想を裏切る頼りなさ。レックスの見た目もそうだが、反乱軍の規模が小さすぎた。

 場所そのものは国教にも深く関わる霊山の中腹という合理的な立地で、火攻めの手段を見事封じている。

 しかし、国と争うにしてはいかんせん人が少ない。五人ほどが休める天幕があっても百あまり。それで戦を続けるなど無謀も良いところだ。魔術師がニ、三人、命を使い果たすつもりで術を行使すれば、簡単に壊滅までおいやれる。

 噂は所詮噂であり、勢力が実は衰えていたのかもしれない。これだと暇つぶしにもならないではないか。ディーバはそう思い、早くも興醒めしかけていた。


「とりあえず、おかえりファルサ。無事に戻ってくれて良かった」

「最後の最後で無事とは言えなくなったがな」


 そんな評価を下されているとは知らず、うんざりとした様子のファルサに声を掛けたレックスが苦笑する。

 とはいえ、フォローはできない。彼とて大変だったのだ。


 森の入り口付近の見張りからもたらされた報告を皮切りに、疾走する何かが居ると立て続けに連絡を受け、すわ奇襲かと指示を飛ばし臨戦態勢を整えた十数分後。目の前に現れたのは銀に輝く美しい身体を持った巨大な狼だった。場所が場所なので、誰も見たことのない獣を前に人々は手を出すことができず混乱した。

 しかもだ。拝む者もいれば食われるかと怯える者もいる状況で、大狼の背中からひょっこりファルサが顔を出したものだから、もはや収集がつかなくなってしまった。


 それをなんとか落ち着かせたレックスの手腕だけは、ディーバも手放しで褒めてやれる。

 おそらく天幕の外では今、ファルサが神の使いを連れてきたとでも騒がれているだろう。ただでさえ尊敬の念を一心に集めているのだから、放っておいてくれないのは確実だ。

 考えただけでファルサはため息を吐きたくなる。


「それで? 報告を聞きたいところだけど、先にこの子のことを説明してもらった方が助かるかな」


 そう言ってディーバへと視線を向けたレックスの瞳は、好奇心で眩く輝いていた。


「あー……、どこから話せば良いか」


 ファルサ以外の人間の前に姿を見せてから、ディーバは一度も口を開いていない。その理由が分からない以上勝手な判断で全てを話すことはできず口ごもる。

 出会った森からここまで乗せてもらった背中で、あまりの毛並みの良さに眠りこけていたとはさすがに言えなかった。


「そもそもこの子、俺は初めて見るけどなんて動物?」


 至近距離で対峙していても、レックスは物怖じすることなくディーバの鼻先へと手を伸ばす。

 仲間に危害を加えないと約束しているので心配はしていなかったファルサも、ディーバがそれをすんなりと受け入れたのは意外だった。

 少し驚いていると、ディーバがプルスの時より鋭さの増した瞳を寄越し、軽く首を動かして促してくる。


(言ってかまわないということか?)


 確証はなかったが、不機嫌そうに床を尻尾でパタパタと叩く姿は、単純に天幕が狭くて気に入らない風に見えた。レックス専用であるここは他と比べて一番広いのだが、今のディーバでは伏せていなければ高さが足りない。


(分かりやすいのかにくいのか、難しい奴だな)


 間違っていればその時はその時だと腹を括り、傷んだ髪を掻きあげたファルサは簡潔に一言でまとめることにした。

 相手は長年共にいるレックスだ、なんとかなるだろう。彼としてはそんな気持ちだった。


「名前はディーバだ」

「初めまして、ディーバ。俺はレックス。ファルサとは家族だから、よかったら俺とも仲良くしてね。それにしても綺麗なガーネットの瞳だなあ」


 ファルサの特技をよく知っているレックスにしてみれば、ディーバのような不思議な獣を連れて来たのは初めてでも、今までより凄いと思うぐらいで慣れたものだ。

 しかし、それはすぐに覆される。

 ファルサは言った。


「こいつは、その…………竜だ」


 一応気を使ったつもりだが、突拍子のないことをいきなり告げられたレックスは、ディーバを撫でていた手を止めゆっくりと振り返る。

 穏やかさが魅力の美青年の薄い唇が静かに開いた。


「……………………は?」


 その反応はファルサが見せたものとそっくりで、二人が共に育った時間を垣間見せる。

 複雑な表情を浮かべて「そうだよな、そう反応するよなやっぱ」なぜかホッとするファルサには、レックスを軽く一飲みに出来る大きな口が孤を描いたのがしっかりと見えていた。

 できることなら忠告をしてやりたかったが既に遅し。ディーバはレックスの手が乗ったままの鼻先を揺らして注意をひき付け、ピンク色の舌を覗かせた。


「ディーバとファルサは、取引をシタだけダ」


 プルスの時よりは聞き取りやすいが、それでも少し発音が外れた声がそこから生まれる。

 しかし、レックスにとっては喋ったことがまず驚愕だ。大袈裟に身体が跳ね、目の前の獣を凝視していた。

 ファルサには自分の家族を応援してやることしかできなかった。


「そレにしてモ調和の王か。ディーバには、タだ頼りなくしか見エないガな」

「え、しゃべ……?」

「ダが、ディーバの瞳ヲ褒めるトは、目は良イよウだ」


(あー、遊ばれてる)


 自分もさんざん振り回されたが、客観的に眺めるとかなり間抜けだ。それが分かりながらも、ファルサには助けてやれるだけの器用さはない。

 しかし、レックスは彼とは違い、何度か目をしばたいてすぐに落ち着きを取り戻せそうだった。

 だが、ディーバも負けてはいない。むしろ意気揚々と瞳が光る。その後どうなるか、経験者は知っていた。


「お前は資格ある者なだけか。ファルサより知謀に長けながらもったいなきことだ」

「悪かったな。どうせ俺は頭が悪いさ」

「これでも褒めているのだぞ? ディーバにとって、ファルサの方が馬が合う」


 案の定人間の女の姿に変化したディーバは、レックスを至近距離で覗き込みながらニヤついた。

 せっかく冷静になれかけたというのに、そのせいで再び狼狽し、ファルサはファルサで不服な評価に物申す。微妙な褒め言葉にも当然喜べない。


 ディーバだけがショートドレスから惜しげもなくあらわにした足を、わざとらしくレックスに絡めて元気そうだ。何かをきっかけに、しらけていた気分が回復したらしい。

 自分勝手で自由気侭、どこまでも気分屋な彼女を操るのは誰にも不可能な気がしてならない。

 しかしそれが、竜という生き物の本質だ。全ての父であり母であり、子でもあるのだから。


「はは、すっげ。いつかとんでもないのを拾ってくるんじゃないかとは思ってたけど……。竜だって? さすがにそれは予想できなかったなあ」

「ほう。ファルサは信じるまで大分かかったが、レックスはもう認めてしまうのか?」


 それはそれで面白いがつまらない。そう言いたげなディーバに、レックスはあどけない笑顔を浮かべ、彼女の手を取り敬意を示して口付けを落とした。

 その姿は嫌味なほど様になっていて、悪乗りしたディーバがどこぞの姫君のようにドレスをつまみ軽く膝を折る。簡素な天幕が一瞬にして、王宮のダンスホールのような雰囲気を帯びた。さしずめファルサは彼らを護る騎士だろうか。

 

「ファルサは嘘を吐かないからね。それに、こうみえて俺も人を見る目はそれなりにあるから」

「嘘を吐かない、ねえ」


 意味ありげな視線をファルサは流し、いい加減疲れていたこともあり、そろそろ報告を終えて休みたいと願い出た。


「だったらその後で良い。レックスよ、ディーバは話がある」

「話? そういえば、二人は取引したと言っていたね」

「それについてはファルサから聞け。ディーバは二度も同じ説明をするつもりはない」

「じゃあ、ファルサとは別でってことだね」

「将としてのお前に対する忠告だ。それを破ればファルサとの取引も取り消しにするが、いいな?」


 最後の確認はファルサへのものだ。彼は構わないと頷き、それをしっかりと確認してからディーバは大狼の姿に戻った。


 そして、ファルサとレックスが話を終えるまでしばらくの間、一人静かに眠りに落ちた。




 □□□




 偵察で得た情報と共にディーバについても報告を終えてから一言、レックスは真剣な顔で呟いた。


「なるほどね」

「勝手してすまん」


 その視線は、天幕の空いたスペースのほとんどを埋めながら丸くなっているディーバへと向けられている。

 間違った選択をしているつもりはないが、一応の謝罪を述べるファルサには首を振り、彼は腕を組んで思案に耽った。


「色々と驚くことは多いけど、一番の問題はディーバが人を食べるってことかなあ」


 きっと頭の中では、ディーバの有用性が多方面で考察されているのだろう。

 ファルサが戦場にて非道なら、レックスは人を動かすことに私情を一切挟まない。そしてその判断は、これまでの戦いで多くの勝利を呼び、犠牲もほぼ最小に抑えてきている。彼の指揮がなければ全滅してしまっていたかもしれない危機が一体何度あったことか。


「竜が生き残っていたことを、俺達が勝手に触れ回るのもマズイし」


 簡易ベッドの上にギシリと腰を降ろし、レックスは独り言を続けた。


 ファルサは黙って判断を待つ。この状態で邪魔をすれば、表面上は一切そう感じさせない黒い笑みが向けられることを分かっているからだ。それが益となる情報やアドバイスなら許してもらえるも、そうでなければとんでもない指示が飛んでくることは身に染みている。


「使いにくいなあ……」


 珍しいと思った。レックスは個人の能力を最大限引き出すことを呼吸のようにやってのけるのに、そんな彼が相手に翻弄されるところは初めて見た。

 その初めてが竜など、ファルサからすればどちらも化け物な気がしてならない。


「まあ良いや。そこらへんは本人に聞いてからじゃないとどうにも出来ないだろうからね」


 それでいてレックスは、あっさりとそう言った。

 出来ないことは出来ない、無理なことは無理。だから撤退の判断も素早いのだろう。プライドで国が手に入るのならとっくにそうしているとは彼の持論だ。


「とりあえず俺はニ、三日ゆっくりさせてもらう」

「うん。早く風呂も入らないと、せっかくの顔が台無しだ。俺が戦神に怒られそう」

「言ってろ」


 残念ながらその通り、今のファルサは全身埃塗れで副将としての威厳が根こそぎ消えてしまっている。なのでレックスの笑みに送られながら、そそくさとその場を後にした。

 ディーバに声を掛けると「後デ顔を出ス」と、起きていたらしい。


「分かった。んじゃあ二人とも、面倒事を起こすなよ」


 刺した釘には各々、安心はできなさそうな反応をしてくれた。


 そして、ファルサの姿が消えた天幕は、どこか肌を刺す緊張感で満たされる。

 ディーバは口を開く前に一瞬だけ悩み、人の姿の方が話しがしやすいと思い変化した。さらには魔術を行使して万一にも声が漏れないようにしておく。


「今のは?」

「ん? 魔術だ。この時代の技術を遥かに凌駕しているから驚くのも無理はない」


 本当にえらい拾いものをしてきたものだ。唖然としたレックスとは裏腹で、ディーバは自分の価値をしっかりと理解しているのか疑わしい。攻撃的なものしかない魔術に於いて、魔術師が兵器として以外で存在できるかもしれない技術だった。


「とりあえず、改めてようこそディーバ。俺は反乱軍の将として君を歓迎する」

「使いにくいと言っておきながら都合の良い奴だ。しかしまあ、大人しく歓迎されてやろう」

「それは良かった。あれは俺にしてみれば、だからこその言葉だよ。要らなければはっきりと言っているから」


 椅子を勧めるもディーバは無視して天幕の中をうろつき、時折興味ありげに物を手に取りながら会話に興じる。

 それは、ファルサの時ではなかった駆け引きだった。


「ディーバはどこまで俺たちに協力してくれるつもり?」

「あくまで食事を目的にしているからな、協力する気はそもそもないぞ」

「それは残念。でも、戦場では一応は味方となるわけだから、分別をつけてもらう必要があるよ」

「ファルサの仲間は食わないと約束している。ディーバはあくまであの男が愉快だから取引してやっただけのこと。だからレックス、調和の王となりし者よ。勘違いするな。ディーバは戦をするのではない、食事を楽しむのだ。腹が減った時に赴き、膨れれば去る。それをとやかく言うのなら、ディーバはただの竜に戻り姿を消すぞ」


 ディーバは、はっきり利用するなと告げた。作戦に自分の動きを盛り込まない事、指示を出す事も許さないと続け様に忠告していく。


 これにはレックスも内心舌打ちしてしまう。

 つまりは戦場で勝手に食事をするだけとうことなのだ。それは反乱軍側にも混乱が及ばないとも限らない。心強い味方かと思えば脅威な色がただ強いだけ。


 それでも神の使いだとしておけば士気は上がる。ファルサは気乗りしないだろうが今の所はそうしておき、心変わりをさせるほか手だてがないだろう。

 ならば魔術師への指導ならどうだ。すぐさま思考を切り替え交渉してみるが、それもすげなく断られる。


「ディーバは人間と馴れ合うつもりはない。レックスはファルスの主君だからその限りではないがな。だから竜である事も、狼以外になれることも口外することは許さぬ。それに、ディーバの魔術は全てが古代語で構成されている。今の魔術師では持て余すどころか使うことすら無理だぞ」


 残念だったな。酒瓶の中身の香りを嗅ぎ笑う美女の方が、何倍も上手なようだ。というよりも我が強すぎて協調性に欠けすぎている。


 レックスは潔く白旗を振った。

 なるほどファルサを気に入るわけだ。この二人はどこか似ている。ディーバがより厄介だが、どちらにせよ最低限のこと以外は自由にさせている方が良い様に転ぶタイプだと印象を持った。

 感覚で生きていると言うのが一番相応しいだろうか。だからファルサは常に敵将にのみ集中し、レックスもまたそう指示を出す。そして期待は裏切らない。今日からはそこに、ディーバという異色の武器が加わった。


 伝説の存在を無条件で受け入れるしかなくなったレックスは、だからこそ武力はからっきしな自分の代わりになることを願う。家族としても、将としても。


「俺は安全な場所で大人しく皆の無事を祈るしかできないから。ファルサのことをよろしくね」


 ディーバが酒をあおるのを止めて居心地悪そうに鼻を鳴らした。


「くだらないことを……。ただ剣を持って自らの命を掛けるのと、多くの屍と重責を背負い立つことの何を比べる必要がある。ファルサはいつか剣を飾り、置く時がくる。しかしレックスは、王冠を戴いてからが本番となるのだ。今を不甲斐ないと思うのであれば、未来への覚悟に宛てておけ」


 言葉は優しいものではなかったとしても、まさか慰めと励ましが返ってくるとは思っておらず驚いた。そして失笑してしまう。

 そうやって不器用なとこともそっくりだったからだ。ファルサの場合は口ごもりながら頭をくしゃくしゃに撫でてくるだけだが、どちらも下手に褒めてくるよりよっぽど温かい。


「肝に銘じておくよ。ああ、できたらもっと竜について教えて欲しいな。俺、小さい頃から好きだったんだよね」

「やはりそうだろう! ファルサめ、可愛げのないやつだな」

「それは許してあげて。自分だって子供だったくせに俺を必死に育ててくれたから。後はこれからも極力、俺たちを名前で呼んでくれれば嬉しいかな。理由を知って納得したけど、自分の名前に愛着がある分、やっぱり呼んでもらえないのは寂しいものがあるからさ」


 竜への憧れを告げられ気を良くしたディーバは、その頼みを手放しで承諾した。

 そして話は終わったと、狼へと戻って入口付近で形成されていた陣を踏み割る。

 そのままレックスと別れたのだが、外に出て周囲を驚かせながら彼女が呟いた言葉がどういった意味を持っていたのかは誰にも分からなかった。


「これでも名の大事さはよく知っているのでな」


 その時の表情は、見分けのつき難い獣でありながらとても人間染みていた。





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