おまけ
二話連続で更新しています。
ディーバの元へはるか昔に死んだはずのファルサが現れていた頃、そこから遠く離れた地で、小さな湖の水面をしゃがんで覗きこんでいる三つの影があった。
その者達の関係性は全く予想ができない。一人は幼い男児のようで、彼を中心に左隣には地面で大きく広がる長い髪を持つ女性が、右隣など全身をくまなく観察しても性別が分からない者が並んでいる。
「これで一先ずお叱りは免れたかしら」
「むしろ褒められてもいんじゃね?」
「……そもそも私は無関係なはずなんだけどね」
眺めているのは澄みきった湖の底のはずだが、どうやら三人の瞳には別の何かが映っているらしい。安堵とも呆れともつかない表情でそれぞれ呟いている。
そして、長い髪の儚げな美女が、額に第三の眼を持つ男児に声を掛けた。
「戦神はしばらくの間、この二人の邪魔をしてはいけませんよ」
「まじかよ! つっまんねー」
「あの坊やで十分遊んでたくせに」
「んなこと言ったって、あれはあの男の魂を呼び覚ますのに必要だって、他でもない智の神が俺様に押し付けたんじゃねーか」
「だからって私は、あそこまでしろとは一言も告げてないよ」
まるで強調性がなさそうな集まりだが、言い合いはしつつも仲はそこまで悪くなさそうだ。
声までも忠誠的な智の神と呼ばれた者は、手元の本を開きつつ視線を戦神からもう一人へと移動させる。
「あと大地の神。たぶんお父様は、どうやったって機嫌を悪くさせてると思う」
「そんな……。これで一つの命に過干渉した埋め合わせは出来たはずでしょう?」
「うん、さっきから言ってるけど、働いたのは私だから。二人は邪魔をするかまるっきり人任せにするかのどちらかしかしていないよ」
そんな智の神の言葉に、戦神は他人事のように笑い、大地の神が悲しげに項垂れる。
そもそもとして、神がこうして集うことは滅多にない。むしろ不干渉でいなければ、一歩間違うと世界に多大なる影響を及ぼしてしまう。
だから神々は気まぐれに申し子を作り暇を潰す。
けれど今回、問題ばかり起こす戦神だけでなく、大地の神までもが智の神を頼らなければならない状況が作られた。
それでも智の神は、それだけならば珍しいと思いつつも適当にあしらい関与はしなかっただろう。巻き込まれた哀れな命が、己が密かに気に入っていた者でなければ。
とはいえ残念ながら、その時にはとっくに戦神も大地の神も接触した後であったが、その者がもたらした新たな知識は琴線を大いに擽ってくれた。
だからその対価を含め、ネジの緩い妹と弟が仕出かしたことへの償いに手を貸してやっても良いと思ったのだ。
「ともかくお前たちは、素直にお父様からお叱りを受けること。そして私に礼をしなさい」
「なんでだよ!」
「そうですよ、智の神ももはや同罪ではありませんか」
しかし、そんな智の神の考えとは裏腹に、二人の神は聞き訳が悪かった。
そして自業自得ながら、鋭い視線を放たれ凍りつく。ほとんど顔を合わせない父神――この世界を作りし創造神だ――よりも、よっぽどこの神は恐ろしい。言葉で容赦なく捻じ伏せてくる。
「言っておくけど、私はあの坊やの運命を捻じ曲げてはいないよ。一度死んで散り散りとなった魂をかき集め、それを適当な器に入れただけだから」
「……竜が適当な器かよ」
「それ以外にあの子と共にいるのにふさわしいものがあるかい? 再びあの人格を取り戻したのは、他でもない本人が望んでいたからだ。でなければ、戦神がいくら刺激しようと目覚めることはなかっただろうさ。ほら、私は褒められこそすれ叱られる要素がどこにもないだろう?」
あっという間に反論を封じ、智の神は一度水面を見てから、慈悲を与えた者達も仰いでいるであろう空へと視線をやった。
「あの子たちがここまで昇りつめてくれれば、今度は私も楽しめるかもしれないね」
それまでは、愛しき者と安らぎの一時を――
神が関わった運命の持ち主は、よほど苦労が耐えないようだ。神に屈しない限りは必然なのだろうか。
しかし今後は、共に受けて立ってくれる片割れがいるのだから、案外楽しむのかもしれない。
ちなみに智の神は手伝った報酬として、戦神が追い出し封じたまますっかり忘れていた竜の城を貰ったという。
以上で、『グルメな竜と偽りを背負いし者』を完結とさせていただきます。
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました!




