OP02 出逢いの翼
気がつくと、英人は一人の女子生徒と対面していた。
食堂で異様なほど存在感を放っていた楠木真菜である。
―あなたが望むものはなんですか?
謎のメールを送信した相手と直接話をするため、彼女が座るテーブルの椅子に座った。彼女は英人が正面の椅子に座ってきても動じずに、優雅に紅茶を飲み続けている。
しばらく沈黙が続いた。英人はただ黙って机に突っ伏していた。それに対して真菜は整った姿勢を保ちながら紅茶を飲み続ける。
きっと、さきに喋りだしたら終わりだ。合コンだってそうだ。沈黙にたえきれずに喋りだした奴は相手を見つけることが出来ず、失敗して帰るだけ。
今の状況と瓜二つ、と言っていいだろう。先に喋れば、彼女のことを知るタイミングが失われるだろう。
と、珍しく(自分で言うのもなんだが)思考をめぐらせていると、紅茶を飲み干した真菜がようやく口を開いた。
「そこへ座ってくれると想ってた」
ただ一言、そう言った。真菜の声を初めて聞いた英人は綺麗な声だと心底思いながら、真菜と会話を続ける。
「逆ナンされるとは想わなかったよ。『あなたが望むものはなんですか?』だっけ……良い口説き文句だね」
「お褒めの言葉どうも。何か飲む?」
「いや、良い。無駄話は好きじゃないんだ。で、俺に何か用なのか?」
「えぇ、大事な用があるの」
「ほう、そのようって、おもしろいの?」
英人は顔を上げた。なぜだかわからないが、物凄く興奮してきた。まるで、これから経験したことのないようなスリルを味わう、それが分かっているみたいだ。
「あなたの人生って、ほんと惨めだよね」
「何?」
突然、ひどい言われようだった。初対面……まあおそらく初対面だと想うが、何も知らない女性徒にこんあ暴言をはかれるとは……
「毎日同じ行動をとって一日を終える。ゲームにしか自分の価値を見出せない人って、私馬鹿だと想う」
「おめ、それはあんまりなんじゃねぇの?」
「ホントにそう?自分でも退屈してるんじゃないの?」
「……」
真菜の質問に、彼は答えることが出来なかった。
「図星だね」
真菜は、まるで英人の何もかもを知っているかのように、笑みを浮べた。




