Stater unchained
視界が現実世界の景色を阻んでいく。
仮想世界にログインするたび、神田英人は絶頂の感覚に囚われた。毎朝同じ時刻に置き、学校に行き、勉強し、帰って寝る。たったそれだけの定期的な生活に退屈を感じていた英人は、新たなる世界に刺激を感じていた。
今は授業中なので、デスクに設置されたパソコンと意識を接続させて直接的にメニュー画面を開くことしか出来ない。なんらかのゲームに意識を接続すれば、現実世界との干渉は途切れてしまう。簡単に説明すると、授業中に指名っされても気づかない、あるいは居眠りをしていると指摘されるからだ。
気がつくと、デスクトップの右上に新着メールの表示があった。眠りかけでぼんやりとしていた英人は少し驚きながらも、両目の商店をそのアイコンに移動した。マウスを動かしてアイコンをクリックすると、パソコンの画面いっぱいにメールが表示された。
『私と付き合ってくれない? YESorNO』
しばらくその手紙を無気力な眼で眺めていたが、唐突に思いついたように『NO』と返信した。
つまらない……現実世界はつまらない……勉強も、恋愛も、スポーツも、生活も……すべて飽きてしまった。飽きてしまったが故につまらない。
もっと、強い刺激がほしい。世界が反転してしまうような、強い刺激が。
そう考えている英人に、仮想世界はピッタシだった。
仮想世界。それは、最新型の携帯端末機スペックと、身体のどこかに装着しているギアを接続することによって、ヴァーチャルリアリティの世界へ意識を飛ばすことの出来る。その世界を、仮想現実世界と呼ぶ。
十数年前、ある科学者によってヴァーチャルリアリティは完全なる現実と化した。
瞬く間に爆発的な人気を誇ったスペックとギアはいまや1人に一台が持っているというほどの売り上げ数を誇った。
仮想世界にログインすると、視界にメニュー画面が表示され、そこからゲーム世界へダイブすることができる。ゲーム世界へダイブすると現実世界での意識は途切れ、完全に仮想世界に意識を集中することが出来る。
たった今、英人の視界には、スペックとギアを接続したことによって視界にメニュー画面が表示されている。特に以上はない。
「退屈だ……」
ここ最近、クラスメイトたちから愛の告白を受けるが、何の刺激も受けない。自分の何処にモテる要素があるのか分からない。
この胸をきつく占めてしまう焦燥感のようなものは、そう、一言で表すならば……
絶望感。
何にも興味を示すことの出来ない絶望感が、心を彷徨っている。
「俺は、どうすればいい……」
そんな中学2年の俺が初めて興味を示すことが出来たのは、1人の少女だった。
学内で一番人気ともいえる学生食堂で、英人は始めて彼女を見かけた。
艶やかな黒髪に凛とした表情、そしてすべてを見抜かしたかのような蒼い瞳。それはまさしく美少女と言っていいほどの美貌を誇っていた。中学生にしては言いすぎかもしれないが、英人にとっては興味を引く十分な要因といえた。
「誰だ、彼女は?」
無意識にメニュー画面で彼女のプロフィールを探る。両眼の焦点が彼女の顔を捉えると、スペックが瞬く間に情報を表示した。
『桂木真菜、二年F組』
同学年なのに今まで知らなかったのか?まあ、生徒数が多いので知らないのも仕方ないのかもしれない。
「桂木真菜か……」
英人がそう呟いた瞬間だった。仮想視界の右上に、先程見たものと同じアイコン。新着メールだ。
(一体、誰からだ?)
また告白か?と自惚れた思考を心の隅におきながらアイコンを開く。
差出人の欄には、『桂木真菜』とあった。
「!」
だが、本文は意味が分からなかった。
英人は本文を読み上げる。
『あなたが望むものはなんですか?』