〜いるか〜
君がいれば、僕は満ち足りていた。
君がいるだけで、僕には世界が光に溢れて、すごく明るく見えた。
君は僕の希望だった。
そう思っていた。
そう思っていたから、僕は君を遠くから見ているだけで良かったし、何気ない話をしているだけで満足だった。
ある時君は、すごく眠たそうな顔で学校に来た。
だから僕は、
「大丈夫?」
と訊いた。
「……大丈夫じゃない」
君は呟いた。
「ちゃんと寝てる?」
「……寝ているか」
「いや、僕が聞いてるんだけど……」
僕が困っていると、君は言った。
「『寝ている』って答えるだけじゃつまらないから、最後に『か』をつけて、『いるか』にしてみただけ。ほら、よく『五時』って答えるときに、『ら』をつけて『ゴジラ』って言ったりするじゃない? それと同じよ」
「あぁ、そういうことか」
授業の始まりを告げるチャイムが鳴った。
それが、最後に君と話した言葉だった。
君はその日、交通事故で車に轢かれて死んでしまった。
そして僕は思った。
果たして、僕の想いは君に届いていたのだろうか?
夢の中で、僕は必死に君を探した。
いるか?
いるか?
いない?
僕は何度も何度もそれらの言葉を口にした。
いるか?
いるか?
いない?
いるか?
そして僕は気づいた。
僕の言葉の中に、君がいたことに。
(――「『寝ている』って答えるだけじゃつまらないから、最後に『か』をつけて、『いるか』にしてみただけ。ほら、よく『五時』って答えるときに、『ら』をつけて『ゴジラ』って言ったりするじゃない? それと同じよ」――)
僕は君の言葉を思い出した。
僕の中に、実は君がいた。
知らず知らずのうちに、僕は君を手に入れていた。
すると突然、目の前が明るくなった。
僕の前に、君がいた。
僕は君に問うた。
「僕が君を好きだったこと、知ってたかい?」
「知っているか」
そして君は笑った。
目が覚めると、僕の頬を涙が伝った。