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神術と仕掛け

馬は考え事をする猶予をほとんど与えてくれなかった。どう申し開きすべきか頭を悩ませているうちに、馬車は私が指示した通り、城の手前の村落に到着していた。


「こんなに長いこと車の中にいたんだし、降りて新鮮な空気でも吸ったらどうだ?」


「あなたと一緒にいて新鮮な空気なんかあるわけ? まあでも、散策の途中で殺す機会があるかもしれないし。降りてみましょう」チェルシーが再び力を込めて私の手を掴んだ。断固として離さない。手を繋いでいるようで実際には抓り上げているその体勢のまま、二人で車の扉を開けて降り立った。


足を地に着けた途端、翠緑の森と青草が目に飛び込んでくる。周囲には広大な空き地が広がり、半キロメートルほど先に村の入口が見えた。従者の一部が絹の絨毯と獣皮、獣骨を取り出して天幕を組み始め、残りの者たちが薪を積み上げて篝火を焚き、虫除けの薬草を投じた。


「シアティ、クスタ、レナード、アルノフ。お前たちは村に行って蜂蜜、家畜、果物、牛乳を徴発してこい」一部の従者に命じた。


「村で夜まで待つって言ってたのに、どうして村の外に野営するの?」チェルシーが小首を傾げて訊いた。今この瞬間も手が私を抓り続けていなければ、なかなか可愛い仕草だったのだが。


「村の中は家畜の臭いで充満してる。堪ったもんじゃない。だから村の近くで夜を越すなら、外縁に野営するか、荘園に行くか、近くの修道院に泊まるかだ。最後のは君が嫌いだろうから、やめておく」


「そうなの? 私、父に王都へ連れていかれてからは自分の荘園に帰ったことがないし、封地の領民のことも全然わからないわ」


「そういう言い方をすると、まるで君の方が聖タク人みたいだな。昔、聖タク帝国が強盛だった頃、貴族たちは都市に住んでいた。今のように荘園や城に籠もるんじゃなくて」


「知ってる。子どもの頃にあなたが教えてくれた」


「そうだっけ? 忘れたな」


「忘れることは許さない。あなたは私の父を殺したのだから、罪悪感を抱えたまま、私に関するすべてを脳裏に刻み込んでおくべきよ」チェルシーが怒りを露わにし、私の肩をさらに引き寄せ、今度は腕に噛みついた。


「その二つに何の関係が——、痛っ」今回の噛みつきは格別に力が入っていた。先ほどの手や顔への噛みつきが手加減だったのだとわかるほどに。


「関係があろうとなかろうと、覚えておきなさい。永遠に罪悪感を抱え続けなさい。私があなたを殺すその日まで」チェルシーの歯はますます力を増していった。腕から始まり、首筋、耳朶、頬へと噛み進んでいく。周囲で作業をしていた従者や使用人たちは、黙って視線を逸らし、見なかったことにしようと努めていた。


チェルシーは長い時間をかけて私の身体を齧り続けた。腕から顔に至るまで、咬痕と唾液にまみれている。顔にこんなに唾液がついたのは、前回は確か——


——


聖タク暦一七五三年。総教会堂の聖座の上で、いつの間にか眠りに落ちていた。翌朝目を覚ますと、天鵞絨が敷き詰められた小さな寝台の上にいた。エダは相変わらず私をきつく抱いたまま離さず、頬がぴったりと私の顔に押しつけられている。片脚は寝相もなにもあったものではなく、持ち上がって私の身体の上に乗っていた。涎が、私の顔一面に広がっている。


エダの抱擁にがっちり拘束されて息苦しくなり、少し身体を動かしてみた。この強固な抱擁から逃れようと試みたのだが、うっかり彼女を起こしてしまった。


「ふぁ……」不意に目覚めたエダが、ようやく腕を緩めた。目を擦る。——ただし脚はまだ私の上に乗ったままで、結局逃げ出せない。


「あ、あの、おはよう」ひどく気まずい思いで、寝ぼけ顔の小さなエダに挨拶した。


「え——わ、わわわっ」エダは私を見て、自分を見下ろし、小さな悲鳴を上げて布団の中に潜り込んだ。全身をすっぽりと埋めてしまう。対照的に私は、身体を蹴り出すようにして布団から脱出し、寝台から這い降りた。


「君が僕を抱きしめたまま泣き続けて眠ったんだよ。覚えてる? 僕はただ慰めようとしただけで、それで聖座の上で一緒に寝落ちしたんだ」


「……」やはり応答はない。


「せめて名前だけでも教えてくれないか」


「エ……エダ」ようやく返事があった。布団の隙間から小さな顔を覗かせ、こっそりと私を見つめながら言った。


「きれいな名前だね。聖タク語では"高貴"を意味するんだよ」幼い私は笑っていた。なぜ笑ったのか、自分でもわからない。ただ笑いたくなったのだ。エダは私の笑顔を見て、一瞬だけ微笑んだ。ほんの刹那。すぐにまた布団に引っ込んでしまった。けれどあの一瞬、紫色の瞳がきらりと光り、幼い頬と相まって——咲きかけの菫の花のようだった。


「じゃあ、僕は先に出てるよ。何かあったら呼んで」


「……ん」


会話を終え、寝乱れた衣服を手で整えながら、そっと部屋を出た。


「もう起きたの、早いね」扉を押し開くと、目の前に広大な広間が広がっていた。金碧に輝き、油絵と彫像が所狭しと飾られている。聖女は大理石と青銅で組まれた食卓に端座し、朝食をとっていた。葡萄酒、チーズと香草を練り込んで潰した混合物を塗ったパン、オリーヴ、それにサラダ。広大な広間に聖女一人。がらんとしていた。


「聖女陛下は、寝室に侍従を置かないのですか?」


「置かないわ。自分のことは自分でやる方が好きだもの。それと、一晩寝たら忘れたの? お姉ちゃんって呼びなさい」


「う……ヴィエルヤお姉ちゃん」


「そうそう、いい子ね」聖女が軽く葡萄酒を一口含み、立ち上がって真っ直ぐ私のそばに来ると、また頭を撫で始めた。


「ほら、顔中涎だらけじゃない。洗面に連れていってあげる」そう言いながら、アルミニウムで作られた仕切弁のもとへ案内された。


「総教会堂でも水利施設を使っているんですか? 貯めておいた聖水じゃなくて?」


「機械仕掛けだからって普通の水だと思わないで。中に貯蔵されているのは聖水よ」


聖女の言葉を半信半疑に聞きながら、栓を捻った。鉛の管から清澄な水が流れ出す。両手で受け止め、顔に打ちつけた。見た目はいかにも冷たそうなのに、顔に触れるとほんのりと温かい。石鹸を使ってもいないのに、仄かな芳香が漂った。


「さあ、ご飯にしましょう」顔を洗い終えると、聖女の声が飛んできた。振り返ると、さっきまで聖女の分しか食べ物がなかったはずの食卓に、隣の椅子の前にもう一人分の食事が現れていた。——聖女は依然として私のそばに立っている。周囲には誰もいない。がらんとした空間。


「どういうことですか? さっきはなかったはず……」困惑が隠せなかった。


「これが不思議な神術よ。女神からの賜物。ごく限られた者にしか使えないの」聖女が得意満面で誇ってみせた。


だが、私は幼い頃から父に教え込まれていた。神術であれ、法術であれ、魔術であれ——それらはすべて術師どもの手品にすぎない。もし本物なら、世界を統治しているのは神官と術師のはずだ。その信憑性は、はるか北方の極寒の地に棲むという小妖精や、東方の異教徒の国々を越えたその先で、異教徒の商人から聞いたという半人半馬の部族の話と同程度に荒唐無稽なものだ。


きっと視線の届かない場所に仕掛けが隠されていて、私が顔を洗っている隙に作動させたのだろう。何しろここは聖タク帝国の最盛期に築かれた建造物の一つだ。未知の機構がいくつも秘められていて不思議はない。


——とはいえ、聖女の上機嫌に水を差すこともあるまい。私は黙って、その言葉を受け入れた。

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