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口づけと、噛みつき

「慰める? 私が?」私は聖女を見上げ、意味がわからずに瞬きした。


「そうよ。小さなエダが可哀想だと思わない? お父様は愛人に唆されてお母様を殺し、叔父様は自分のお姨母様——同時にお叔母様でもある方の復讐の果てに、そのお父様まで殺してしまった」聖女がさらに力を込めて私の頬を揉みながら言った。


「でも、僕にはやり方がわかりません」人懐っこすぎる聖女を前に、幼い私はしどろもどろに答えた。


「やってみなければわからないでしょう?」聖女が頬を揉む手を止め、引き戻すと、今度は背中にそっと添えて、軽く押した。


「ほら、行って。頑張れ」


聖女の催促と物理的な後押しに追い立てられ、私は否応なく前に歩き出した。チェルシーとの出会いとはまるで違う。あちらは大人に連れてこられた子ども同士の自然な接触だったが、こちらは訳もわからず押し出された強制的な対話だった。


「あの、き、君。こんにちは」手をぎゅっと握り締め、長い逡巡の末に、ようやくぎこちなく口を開いた。


「……」返事はなかった。正確に言えば、言葉による返事はなかった。私の声を聞いて、エダの身体にはわずかな反応があった。顔を上げ、静かにこちらを見た。その瞳にはまだ涙が溜まっていて、頬を伝い落ち、睫毛を濡らしている。


「ぼ、僕はアンビティって言います。あなたの名前は?」


やはり返答はなかった。エダはただ涙を流しながら、両腕で膝を抱え、じっと私を見つめている。ひどく心許ない表情だった。その空気は、いつしか私にまで伝染し始めていた。


宮室の中には三人しかいない。だが聖女は、私にエダを慰めるよう言った後、そこに佇んだまま一言も発しなかった。静寂が満ち、私の中にも不安と緊張が滲み出す。


かつて家庭教師に文字を教わっていた頃、古特斯の聖賢伝の中にこんな一節を読んだことがある。「人の感情には伝播性がある」と。あの時は実感が湧かなかったが、今ようやく、その意味がわかった。


無力感が胸の中に広がっていく。長い間、貴族として文字を学び、経典を読み、馬術、弓術、投擲、剣術を修めてきた。そのどれにも挫けなかった私が、たった一人の少女の前で立ち往生しているのか。


途方に暮れたまま、エダと目を合わせた。瞳が互いに重なる。静寂の中で考える。——やり方がわからないなら、他の前例を参考にすればいい。


家の荘園にいた頃のことを思い出した。姉や妹の他に、もっとも一緒に遊んだのは、隣接する領地の伯爵の一人娘、フレディだった。女の子でありながら、この総教会堂の女性守衛と同じように刀剣を好んだ。


普段は気の強い子だったが、一度だけ、私が木剣で力を入れすぎた時に泣いたことがある。あの時、どうやって悲しみを止めたんだったか。——確か、抱きしめたんだ。


そう思い至り、自ら歩み出た。段を上がり、金縁の赤い絹の絨毯を踏み——冒涜と言われかねない足取りで聖座に上がり、エダを抱きしめた。


「ぅ……」エダが小さな悲鳴のような声を漏らした。声には怯えと甘えが入り混じり、やはり怯えた小さな獣そのものだった。


「怖くない、怖くないよ。もう大丈夫。教会は安全だし、僕も守るから」その瞬間、これまでに本で読んだ中で、人を慰められそうだと思った言葉を全部吐き出した。そして幼い子をあやすように、エダの背をそっと叩いた。効いてくれることを、ただ祈りながら。


「うわぁ……ん」エダが抱き返してきた。私の肩に顔を埋めて泣き出す。涙と唾液が肩を濡らしていった。私はそのままずっと抱いていた。どれくらいそうしていたのか、わからない。彼女が腕の中で眠りに落ちるまで。


「よくやったわ、アンビティ。えらい、えらい。何か食べる?」まるで時計仕掛けのように、エダが眠った瞬間、聖女がゆっくりと歩み寄ってきた。


聖女が近づいてくるのに合わせ、手を伸ばしてエダを放そうとした。だが、泣き疲れた眠りは浅いらしく、少しでも離そうとするとエダが一層強くしがみついてくる。身動きが取れず、聖座の上に留まるしかなかった。


「せ……ヴィエルヤお姉ちゃん、見てないで助けてくださいよ」少し情けない声が出た。今日一日の疲労が溜まりに溜まって、瞼が勝手に何度も瞬きを繰り返す。


「今離したら起こしちゃうでしょう。もう遅い時間だし、このまま寝ちゃいなさい」


「え、冗談でしょう。だめです」なおも言い返そうとしたが、体力は限界に達していた。エダの抱擁から逃れることもできず、拒絶の言葉を口にしながら、いつの間にか意識が遠ざかっていった。


眠りに落ちる直前、かすかに覚えているのは——顔にそっと触れる、何かの感触。


——


「これは聖女の神聖なる口づけ。しかも、あなただけのもの」


——


「起きて。起きなさいったら」激しい揺さぶりとチェルシーの声が、徐々に意識に染み込んでくる。思考が追いつく前に、顔面に湿った感触と鋭い痛みが走り、身体が先に反応した。固く閉じていた瞼が、弾かれたように開く。


「馬車に揺られてるうちに急に寝落ちするなんて何なの。今の私に武器があったら、あなたはもう死んでたわよ」チェルシーが不満を露わにしてそう言った。頬がなぜか赤い——怒りのせいだろうか。睨みつけることすら億劫そうに、顔を背けて目を逸らしている。


「絞め殺すこともできたのに」いつの間にか手は解放されていた。自由になった両手を、痛みの走る顔に持っていく。——湿り気。そして、歯形。


「だめよ。途中で目を覚まされたらどうするの」


「起こされるのが嫌なら、なんで顔を噛んで起こしたんだ」顔を押さえながら言った。


「ごちゃごちゃうるさい。あなたが起きてる方が弱点を観察できるでしょう。将来手を下す時のために、いけない?」チェルシーは言い返しながら、また手を伸ばして私の手を抓り始めた。


「……わかったよ。俺はいつ寝落ちした」


「教会の話をした後すぐ。馬に乗ってなくてよかったわね。でなきゃ馬上で寝て落馬してたわよ」


「馬の上なら絶対寝ない。馬車はあまりにも退屈でな」


「なら意識を私への警戒に向けなさいよ。もっと私に注意を払いなさい。いつでもあなたに復讐しようとしてる人間が隣にいるのよ」


「はいはい。ところで、今どの辺りだ」馬車の外の従者に声をかけた。


「旦那様、すでにコメスに入っております。間もなくアヴィトゥスの城に到着いたします」


「到着する前に、城の手前の村で止めてくれ。日が暮れてから入る」


「それは何故でしょう?」


「姉上に見つかるのを避けるためだ」


「ですが旦那様のご不在中は、ずっとセリン様が政務を取り仕切っておいでです。いずれお伝えせねばならぬことかと」


「それでもせめて遅らせたい。説明する理由を考える時間が要る。少なくとも、同じ馬車に乗っているところを見られるのは避けたい。——もういい、ミレス。これ以上質問するな。他の者のように黙って仕事をしろ」


「はっ」


帰ったら間違いなく長姉の詰問が待っている。下手をすれば妹まで加わる。いっそ今から兵を率いて出陣した方がましだ。——ともかく、さっさと用を済ませ、チェルシーの身柄を落ち着かせてから王都に戻るしかない。


「あなた、家族のことはほとんど話してくれたことなかったわね。まさか怖いものがあるとは思わなかった。しかも自分のお姉さん」馬車の中のチェルシーも一向に黙る気配がなく、精神と肉体の二重の圧迫が絶え間なく続いた。目的の読めない教会、殺意を抱えたチェルシー、そしてこれから直面する姉妹たち。——一歩ずつ、やっていくしかない。

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