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俺だけレベルが上がらない世界で、実は経験値が貯蓄されていた件

作者: 桜木ひより

第一章 レベル1の落ちこぼれ


俺の名前は神崎蒼真。

18歳の高校3年生で、この世界で唯一のレベル1だ。


10年前、世界に突然レベルシステムが実装された。

人々は魔物を倒したり、勉強や運動をすることで経験値を得て、レベルアップするようになったんだ。


今では平均的な高校生でもレベル15から20はある。

優秀な奴らは30を超えているし、俺のクラスメイトの黒羽竜牙なんてレベル35もある。


そんな中で、俺だけがレベル1のまま。

3年間、どんなに努力してもびくともしない。


「おい、神崎」


朝のホームルーム前、またいつものが始まった。


竜牙が俺の机の前に立っている。

取り巻きの天野光輝も一緒だ。


「昨日のレベル測定、また1だったって?」


クラス中の視線が俺に集まる。

みんな興味深そうに見ている。


「ああ」


俺は小さく答えた。反抗しても意味がない。

どうせ俺はレベル1の落ちこぼれだ。


「すげーな。ある意味才能だよ」


天野が笑いながら言う。


「普通に生活してるだけでも簡単にレベルは上がるのに、どうやったらそんなに上がらないんだ?」


「まさか、経験値の吸収に欠陥があるんじゃないか?他の奴らに吸い取られてるかもな!」


竜牙が面白がっている。


「病院行った方がいいんじゃね?」


クラスメイトたちがくすくす笑う。

俺はただ黙って座っていた。


「そのくらいにしておきなさい」


教室に入ってきたのは、担任の御剣雷蔵先生だった。

元冒険者で、レベル50の実力者だ。


「神崎君のレベルのことをとやかく言うのは良くない」


「でも先生~」

竜牙が口を挟む。


「こいつがいると、クラスの平均レベルが下がるじゃないですか」


「レベルが全てではない」

御剣先生が竜牙を睨む。


「人の価値は、レベルだけで決まるものじゃないんだ」


竜牙は不満そうだったが、それ以上は言わなかった。


昼休み、俺は一人で屋上にいた。

いつものように弁当を食べながら、空を見上げる。


「神崎君」


振り返ると、白雪千夏が立っていた。

クラスの学級委員で、レベル25。

回復系のスキルを持つ優等生だ。

そして、俺に優しくしてくれる数少ないクラスメイトでもある。


「一人で食べてるの?」


「まあ、いつものことだから」

俺は苦笑いした。


「一緒に食べない?」

千夏が俺の隣に座る。


「いいのか?俺なんかと一緒にいると、君まで変な目で見られるぞ」


「そんなの気にしてないよ」

千夏が微笑む。


「レベルなんて、ただの数字でしょ?」


「でも、この世界ではその数字が全てだ」

俺は溜息をついた。


「レベルが低いと進学や就職もできないし、結婚もできない」


「そんなことない」

千夏が首を振る。


「神崎君は優しいし、思いやりもある、いい人だよ」


「レベル1の優しさなんて、何の役にも立たない」


「そんなことないよ」

千夏が俺の手を握った。


「私は、神崎君のそういうところが好きだから」


その言葉に、俺の胸が熱くなった。


でも同時に、申し訳ない気持ちにもなる。

こんな俺を好きになってくれる千夏が、可哀想で仕方なかった。

レベル1の俺なんかよりもっといい人がいるはずなのに。


午後の授業は魔物学だった。


この世界では、時々異空間から魔物が現れる。

それを討伐することで、経験値を得ることができるんだ。


「それでは、実際に魔物の生態について学びましょう」


御剣先生が教室の前に魔方陣を描く。

すると、小さなスライムが現れた。


「これは最弱の魔物、スライムです」


スライムがぷるぷると震えている。


「討伐すると10の経験値が得られます」


「先生、俺がやります」


竜牙が手を上げた。


「いや、今日は神崎にやらせてみよう」


「えっ?」


俺は驚いた。


「どうせこいつじゃ経験値入らないでしょ?」

天野が笑う。


「やってみろよ、神崎」


クラスメイトたちが興味深そうに見ている。

きっと俺がスライムにすら勝てない姿を見たがっているんだ。


「やってみるか、神崎君」

御剣先生が優しく言う。


「レベルは関係ない。君なりの戦い方があるはずだ」


俺は立ち上がって、スライムの前に立った。

スライムは俺を見上げている。なんだか可愛らしく見えた。


「ごめんな」


俺は小さくつぶやいてから、スライムを叩いた。

スライムはあっけなく消滅する。


「討伐完了。経験値10を獲得...」


システムの声が響く。

でも、俺のレベルは1のままだった。


「やっぱりな」


竜牙が鼻で笑う。


「こいつには経験値が入らないんだよ」


クラスメイトたちもがっかりしたような顔をしている。


俺は席に戻った。

いつものことだ。慣れている。


放課後、俺は一人で帰路についていた。

商店街を歩いていると、突然悲鳴が聞こえた。


「助けて!」


声のする方向を見ると、小さな女の子が大きな犬のような魔物に追われている。

ヘルハウンドだ。

レベル20以上はないと太刀打ちできない中級魔物。


周りの人たちは逃げ惑っている。

誰も助けようとしない。


俺は迷った。

レベル1の俺が行ったところで、何もできない。

むしろ邪魔になるだけだ。


でも、女の子が泣いている姿を見ていられなかった。


「くそっ」


俺は走り出した。

ヘルハウンドと女の子の間に割って入る。


「逃げろ!」


女の子に叫びながら、ヘルハウンドと向き合った。

ヘルハウンドが牙を剥いて俺に飛びかかってくる。

俺は必死に避けようとしたが、爪が肩をかすった。激痛が走る。


「神崎君!」


千夏の声が聞こえた。

いつの間にか駆けつけてきてくれていたようだ。


「ヒーリング!」

千夏のスキルで傷が癒される。


「ありがとう」


「でも、このままじゃ...」


ヘルハウンドがもう一度襲いかかってくる。


俺は女の子を庇って、ヘルハウンドの攻撃を受けた。

体が吹き飛ばされる。

意識が朦朧としてきた。


でも、女の子は無事だった。

それで良かった。


「神崎君、しっかりして!」


千夏が俺を抱き起こす。


その時、俺の体に異変が起こった。

突然、体中に熱いエネルギーが駆け巡る。


「えっ?」


俺のレベル表示が点滅し始めた。


Lv.1 → Lv.2 → Lv.5 → Lv.10 → Lv.15...


「何だこれ...」


レベルがどんどん上がっていく。


Lv.20 → Lv.25 → Lv.30 → Lv.35...


周りの人たちが驚いている。


「ありえない...」


「一気にレベル35まで...!?」


そして、ついにレベル50まで到達した。


俺は立ち上がった。

体が軽い。力がみなぎっている。


ヘルハウンドがもう一度襲いかかってきたが、今度は余裕で避けることができた。


「これで終わりだ」


俺は拳を握って、ヘルハウンドに立ち向かった。

一撃で、ヘルハウンドは消滅した。


静寂が辺りを包む。


「すげぇ...」


「一撃で倒した...」

人々が呟いている。


「神崎君...」


千夏が俺を見上げている。

その目には驚きと、そして何か別の感情が宿っていた。


俺は女の子の元に駆け寄った。


「大丈夫か?」


「お兄ちゃん、ありがとう」


女の子が涙ながらに礼を言う。


俺は女の子を両親の元に送り届けてから、千夏と一緒に帰路についた。


「神崎君、どうして急にレベルが...」


「俺にも分からない」


歩きながら、俺は考えていた。

3年間レベル1だった俺が、なぜ急にレベル50まで上がったのか。


そして、なぜ今のタイミングだったのか。


第二章 隠された真実


翌日、学校は大騒ぎだった。


「神崎が一夜でレベル50になった」という噂が広まっていたのだ。


「おい、神崎」


朝一番に竜牙がやってきた。

でも、昨日までとは態度が違う。


「本当にレベル50になったのか?」


「ああ」


俺は素直に答えた。

隠す理由もない。


「嘘だろ...」


天野が青ざめている。


「レベル35の俺より上じゃないか」


教室中がざわついている。

昨日まで馬鹿にしていた俺が、今では学校最高レベルの一人になっていたのだから。


「すごいじゃない、神崎君」

千夏が嬉しそうに言ってくれる。


「ありがとう」


でも、俺は複雑な気分だった。

確かに強くなった。

でも、これで本当に良いのだろうか?


「神崎君、職員室まで来なさい」


御剣先生が俺を呼んだ。

職員室では、校長の龍神院威厳先生が待っていた。


「君が神崎蒼真君だね」


龍神院校長は厳格そうなおじいさんだった。

校長先生は滅多に顔を生徒に合わせないので入学式以来に顔を見た。


「昨日の件、詳しく聞かせてもらおう」


俺は昨日の出来事を話した。


「なるほど...」


龍神院校長が頷く。


「やはりそうか」


「えっ?」


「実は、君のような例は過去にもあったんだ」


御剣先生が資料を見せてくれる。


「『経験値貯蓄体質』と呼ばれている」


「経験値貯蓄体質?」


「通常、経験値は得た瞬間にレベルアップに使われる」


龍神院校長が説明する。


「しかし、稀に経験値を体内に蓄積する体質の人間がいる」


「それが俺...」


「そうだ。君は3年間、経験値を貯め続けていた」


「じゃあ、俺はちゃんと経験値を得ていたんですか?」


「ああ。むしろ、普通の人より多く得ていた可能性すらある」


俺は驚いた。

自分が経験値を全く得られない体質だと思っていたのに。


「でも、どうして昨日突然...」


「それは、君の精神的な成長が関係している」


御剣先生が答える。


「他人のために自分を犠牲にする。その強い意志が、貯蓄されていた経験値を解放したんだ」


「つまり、俺は...」


「最初からレベル50相当の実力を持っていた」


龍神院校長が微笑む。


「ただ、それが表に現れていなかっただけだ」


俺は頭が混乱した。


今まで自分はダメな人間だと思っていた。

でも実際は、誰よりも多くの経験値を積んでいたというのか。


「神崎君」

御剣先生が俺の肩に手を置く。


「君は十分に強い。でも、本当の強さは数字じゃない」


「本当の強さ?」


「昨日、君は自分の身を犠牲にして女の子を助けた」


「それは当然のことだ」


「いや、当然じゃない」


龍神院校長が首を振る。


「レベル1で中級魔物に立ち向かう。普通なら絶対にやらない」


「君の優しさと勇気。それが君の本当の強さだ」


御剣先生の言葉に、俺の胸が温かくなった。


教室に戻ると、クラスメイトたちの視線が俺に集中した。

でも、昨日までとは違う。

尊敬の眼差しを感じる。


「神崎」


竜牙が俺の前に立った。


「昨日は...すまなかった」


「えっ?」


「俺が間違ってた。レベルで人を判断するなんて」


竜牙が頭を下げる。


「許してくれ」


「別に謝らなくても...」


「いや、謝らせてくれ」


竜牙の目が真剣だった。


「俺は君の本当の強さが見えていなかった」


昼休み、千夏と屋上で弁当を食べていた。


「神崎君、変わったね」


「変わった?」


「前よりも自信がついたというか...」


千夏が微笑む。


「でも、優しいところは変わらない」


「そりゃあ、俺は俺だから」


「そういうところが好きなの」


千夏が頬を赤らめる。


「千夏...」


俺も千夏の気持ちに応えたいと思った。

今の俺なら、千夏を守ることができる。


「俺も...千夏のことが好きだ」


「本当?」


「ああ」


俺たちは見つめ合った。


でも、その時、警報が鳴り響いた。

「緊急事態発生!大型魔物が学校に侵入!」


校内放送が響く。


「全生徒は避難してください!」


窓から外を見ると、巨大なドラゴンが校庭に降り立っていた。


「あれは...エンシェントドラゴン」


千夏が青ざめる。


「レベル80以上じゃないと太刀打ちできない上級魔物よ」


生徒たちが逃げ惑っている。

御剣先生を含めた教師陣が立ち向かおうとしているが、相手が強すぎる。


「くそっ」


俺は立ち上がった。


「神崎君、危険よ」


「でも、みんなが...」


俺は校庭に向かった。千夏もついてくる。


「神崎君、無理しないで」


「大丈夫。今の俺なら...」


エンシェントドラゴンが炎を吐いている。

校舎が燃え始めた。


「みんな、下がれ!」


俺は前に出た。


エンシェントドラゴンが俺を見下ろす。


「人間風情が...」


ドラゴンが喋った。


「面白い。レベル50程度で私に挑むとは」


「やってみなければ分からない」


俺は剣を抜いた。

いつの間にか、立派な剣が装備されていた。

レベルアップの恩恵だ。


戦闘が始まった。


ドラゴンの攻撃は強力だったが、俺は何とか避けることができた。


でも、攻撃が全く通じない。


「無駄だ。レベル50ごときの雑魚が。」


ドラゴンが嘲笑う。


その時、俺の体にまた異変が起こった。

この前と同じような熱いエネルギーが駆け巡る。


俺のレベル表示がまた点滅し始めた。


Lv.50 → Lv.60 → Lv.70 → Lv.80...


「まさか...また貯蓄されていた経験値が...」


ついに俺はレベル100に到達した。


「何だと...」


ドラゴンが驚いている。


「レベル100だと...」


俺の力が飛躍的に向上していた。


「これで対等だ!」

俺はドラゴンに向かっていった。


今度は俺の攻撃が通じた。

激しい戦闘が続く。


でも、俺には迷いがなかった。

みんなを守る。

その思いが俺を支えてくれた。


「終わりだ!」


俺は渾身の力を込めて剣を振るった。


「神聖剣技・光の剣!」


新しいスキルが発動した。


光がドラゴンを包み込む。


「ぐあああ...まさか、浄化魔法だと...」


ドラゴンが苦しんでいる。


でも、その時俺は気づいた。

このドラゴンは何かに操られている。


「待て」


俺は攻撃を止めた。


「君は本当は悪いドラゴンじゃないだろう」


「何...?」


「目を見れば分かる。君は苦しんでいる」

俺はドラゴンに歩み寄った。


「自分の意志で襲いに来たんじゃなくて、誰かに操られているんだろう?」


ドラゴンの目から涙が流れた。


「そうだ...私は...邪悪な魔導師に操られて...」


「大丈夫。今、助けてやるからな」


俺は浄化魔法を優しく使った。

今度は攻撃のためじゃない。

ドラゴンを苦しめている呪いを解くために。


「ありがとう...」


呪いが解けたドラゴンは、元の優しい目を取り戻していた。


「私は元々、この土地を守っていたドラゴンだった」


「そうだったのか」


「君の優しさに救われた」


ドラゴンが俺に頭を下げる。


「何かあったら、いつでも呼んでくれ」


そう言って、ドラゴンは空に舞い上がった。


校庭は静寂に包まれた。

そして、大きな拍手が響いた。


生徒たちが、先生たちが、俺を見つめている。


「すごい...」


「レベル100で、しかも浄化魔法まで...しかもドラゴンを手懐けたぞ!」


「神崎君...」


千夏が俺に駆け寄ってくる。

俺は千夏を抱きしめた。


「心配かけてごめん」


「大丈夫。神崎君を信じてたから」


第三章 本当の強さとは


それから一週間が経った。

俺のことは全国ニュースになり、「レベル100の高校生」として話題になった。


でも、俺自身はそれほど変わっていない。


相変わらず千夏と屋上で弁当を食べているし、クラスメイトたちとも普通に話している。


「神崎」


竜牙が俺に声をかけてきた。


「今度、一緒に冒険者ギルドに登録しないか?」


「冒険者ギルド?」


「ああ。クラスの奴らとパーティを組もうと思うんだ」

竜牙が照れくさそうに言う。


「君がリーダーで」


「俺がリーダー?」


「当然だろ。レベル100なんだから」


でも、俺は首を振った。


「リーダーは君がやってくれ」


「えっ?」


「レベルが高いからってリーダーになれるわけじゃない」

俺は竜牙を見つめた。


「君の方が、みんなをまとめる力がある」


「神崎...」


竜牙が感動している。


「分かった。でも、君にも意見は必ず聞くからな」


「もちろん」


昼休み、千夏と屋上で話していた。


「神崎君、本当に変わらないね」


「どういう意味?」


「レベル100になっても、前と変わらず謙虚で優しいままってこと」


千夏が微笑む。


「普通だったら、調子に乗っちゃいそうなのに」


「レベルなんて、ただの数字だよ」


俺は空を見上げた。


「本当に大切なのは、人を思いやる気持ちだ」


「そういうところが、神崎君の一番の魅力よ」

千夏が俺の手を握る。


「私、神崎君と一緒にいると安心するの」


「俺も同じだ」

俺も千夏の手を握り返した。


「君がいてくれるから、頑張れる」


放課後、俺は一人で街を歩いていた。

すると、公園で泣いている少年を見つけた。


「どうしたんだ?」


「おにいちゃん…」


少年が俺を見上げる。


「僕、レベルが全然上がらないんだ」


俺は少年の隣に座った。


「何歳?」


「10歳。でもレベル2しかないんだ」


「それがどうかしたのか?」


「みんなに馬鹿にされるんだ。『のろま』とか『落ちこぼれ』とか」


俺は少年の気持ちがよく分かった。


「レベルが低くても、君は君だ」


「でも...」


「俺もつい最近まで、レベル1だったんだ」


少年が驚く。


「嘘だよ。おにいちゃん、すごく強そうなのに」


「本当だよ」


俺は微笑んだ。


「でも、大切な人を守りたいと思った時、力が目覚めた」


「大切な人...」


「君にも、大切な人がいるだろう?」


少年が頷く。


「お母さん」


「その気持ちを大切にしろ」

俺は少年の頭を撫でた。


「レベルは必ず後からついてくる」


少年の顔が明るくなった。


「ありがとう、おにいちゃん」


「頑張れよ」


少年が走って帰っていく。

俺はその後ろ姿を見送った。


家に帰ると、両親が待っていた。


「蒼真、お疲れ様」


母親が笑顔で迎えてくれる。


「レベル100になったって聞いたけど、体は大丈夫?どこかおかしいところはない?」


「うん、問題ない」


父親も心配そうに俺を見ている。


「無理しちゃだめだぞ」


「分かってる」


俺は両親を安心させるように笑った。


夕食の時、テレビでニュースをやっていた。


「神崎蒼真さんの活躍により、魔物による被害が大幅に減少しています」


アナウンサーが俺のことを報道している。


「でも、神崎さん本人は『レベルよりも大切なものがある』とコメントしており...」


「蒼真らしいコメントね」


母親が嬉しそうに言う。


「私たちの息子は、昔から優しい子だったから」


「それは君たちが良い両親だったからだ」


俺は素直に感謝を伝えた。


翌日、学校で面白いことが起こった。


「神崎先輩!」


下級生たちが俺の周りに集まってきた。


「僕たちにも強くなる方法を教えてください」


「俺は特別なことなんてしてないよ」


「でも、レベル100まで...」


「大切なのは、誰かのために頑張る気持ちだ」

俺は下級生たちに説明した。


「レベルアップはその結果についてくるもの」


「誰かのために...」


「そう。自分のためじゃなく、大切な人のために」


下級生たちが真剣に聞いている。


「僕にも大切な人がいます」

一人の少年が手を上げた。


「妹なんです。病気で入院してて」


「それなら、妹さんのために頑張ってみろ」


「はい!」

少年の目が輝いていた。


午後の授業で、御剣先生が俺を呼んだ。


「神崎君、君に頼みがある」


「何ですか?」


「冒険者協会から依頼が来ている」


先生が資料を見せてくれる。

「古代遺跡に強力な魔物が現れた。討伐してほしいとのことだ」


「俺一人で?」


「いや、チームでの依頼だ」


「チーム?」


「君、竜牙君、千夏さん、それから他の生徒数人で」


俺は考えた。


「危険じゃないですか?」


「確かに危険だ。でも、君たちなら大丈夫だと思う」


先生が俺を見つめる。


「特に君がいれば」


「分かりました」


俺は依頼を受けることにした。


みんなで古代遺跡に向かった。

メンバーは俺、竜牙、千夏、天野、そして氷室静香の5人だ。


「すごい遺跡だな」

竜牙が感嘆の声を上げる。


古代の石造りの建物が、森の中に佇んでいた。

何百年も前のものだろう。


「気をつけて」

千夏が警告する。


「ここには強力な魔物がいるって聞いたわ」

遺跡の中に入ると、薄暗い通路が続いていた。


「明かりを」


俺が魔法の光を灯す。

レベル100になってから、色々な魔法が使えるようになった。


「便利だな、神崎。俺にも教えてくれよ。」

天野が羨ましそうに言う。


通路を進んでいくと、大きな部屋に出た。

そこには、巨大な石像が立っていた。


「これは...ゴーレム?」

静香が近づいて分析する。


「でも、動いていないわね」


その時、石像が動き出した。


「侵入者...排除する...」


低い声が響く。


「来るぞ!」


俺が叫ぶ。


ゴーレムが拳を振り下ろしてきた。

みんな散開する。


「レベル70くらいか」

竜牙が判断する。


「みんなで協力すれば倒せるな」


「任せて」


天野が攻撃魔法を放つ。

でも、ゴーレムの硬い体には効果が薄い。


「物理攻撃は効きにくいわ」


静香が氷魔法で足止めを試みる。


「神崎君、弱点を探して」


千夏が回復魔法の準備をしている。

俺はゴーレムを観察した。


「額に魔石がある。あれを狙えば...」


「分かった」


竜牙が俺に合図する。


「俺が注意を引く。神崎、その隙に頼む」


「危険だぞ」


「大丈夫。お前を信じてる」


竜牙がゴーレムに向かっていく。

ゴーレムの注意が竜牙に向いた。


「今だ!」

俺は跳躍して、ゴーレムの額を狙った。


「破砕拳!」

魔石が砕け、ゴーレムが崩れ落ちる。


「やった!」


みんなが喜んでいる。


でも、その時、遺跡全体が揺れ始めた。


「まずい、崩れる!」


「逃げるぞ」


俺たちは必死に出口へ向かった。

天井から石が落ちてくる。


「うわあ」


天野が躓いた。

落石が天野に向かって落ちてくる。


「天野!」


俺は天野を庇って、落石を受け止めた。


「神崎...」


「早く逃げろ」


みんなが無事に外に出た後、俺も遺跡から脱出した。

遺跡は完全に崩壊していた。


「危なかったな」

竜牙が肩で息をしている。


「でも、みんな無事で良かった」


「神崎君のおかげよ」

静香が感謝してくれる。


「天野を助けてくれて、ありがとう」


「当然のことをしただけだ」

俺は笑った。


「俺たち、仲間だろ?」


「ああ」


竜牙が俺の肩を叩く。


「本当に良い仲間だ」


帰り道、千夏が俺に寄り添ってきた。


「神崎君、怪我は大丈夫?」


「うん、平気」


「本当に?」

千夏が心配そうに俺を見る。


「君がいつも心配してくれるから、頑張れるんだ」


「私も、神崎君がいるから頑張れる」


千夏が微笑む。


「これからも、一緒にいてね」


「もちろん」

俺は千夏の手を握った。


学校に戻ると、御剣先生が待っていた。


「みんな無事だったか」


「はい、何とか」


「良かった」

先生が安堵の表情を見せる。


「君たちのチームワーク、素晴らしかったそうだな」


「みんなで協力しただけです」


「それが大切なんだ」


先生が俺を見つめる。


「神崎君、君はレベル100の力を持っている」


「はい」


「でも、君の本当の強さは別のところにある」


「別のところ?」


「仲間を信じ、守り、そして自分も信じてもらう」

先生が微笑む。


「それが君の最大の強さだ」

俺は先生の言葉を噛み締めた。


確かに、レベルだけが強さじゃない。

仲間との絆、信頼、そして優しさ。


それらが組み合わさって、本当の強さになるんだ。


その夜、俺は一人で星空を見上げていた。

レベル1だった頃を思い出す。

あの時は辛かったけれど、でも大切なことを学んだ。


諦めないこと。

人を信じること。

そして、誰かのために頑張ること。


「蒼真」


母親が声をかけてきた。


「まだ起きてたの?」


「うん、少し考え事してて」


「何を考えてたの?」


「これからのこと」


俺は母親を見た。


「俺、もっと強くなりたい」


「もう十分強いじゃない」


「レベルじゃなくて」

俺は言葉を選んだ。


「心の強さ。もっと人を守れる強さが欲しいんだ」


母親が優しく微笑む。


「蒼真は昔から優しい子だった」


「本当に?」


「ええ。小さい頃から、困っている人を放っておけない子だった」


「覚えてないな」


「それが蒼真の良いところよ」

母親が俺の頭を撫でる。


「自然に人を助けられる。それが本当の強さなんだから」


翌日、学校で龍神院校長に呼ばれた。


「神崎君、君に話がある」


校長室は重厚な雰囲気だった。


「実は、君にお願いしたいことがある」


「何でしょうか?」


「君に、後輩たちを指導してほしい」


「俺が?」


「そうだ」

校長が真剣な表情をする。


「君は強いだけじゃない。まだ若いが人を導く力がある」


「でも、俺はまだ学生で...」


「だからこそだ」


校長が立ち上がる。


「学生の気持ちが分かる君だからこそ、後輩たちに良い影響を与えられる」


俺は考えた。

自分が困っていた時、誰かに助けてもらった。

だから今度は、俺が誰かを助ける番なんだ。


「分かりました。やらせてください」


「ありがとう」

校長が満足そうに頷く。


「君なら、きっと素晴らしい指導者になれる」


それから、俺は週に2回、後輩たちの指導をすることになった。


「神崎先輩!」

後輩たちが集まってくる。


「今日は何を教えてくれるんですか?」


「今日は、レベルについて話そう」


俺は後輩たちを見回した。


「君たちは、レベルが全てだと思ってる?」


「えっと...」


一人の後輩が答える。


「でもレベルが高い方が強いですよね?」


「確かにそうだ。でも、それだけじゃない」


俺は自分の経験を話した。


「俺はずっとレベル1だった。でも、諦めなかった」


「どうしてですか?」


「大切な人を守りたかったから」


後輩たちが真剣に聞いている。


「レベルは手段であって、目的じゃない」


「手段...」


「そう。大切なのは、何のために強くなるか」


俺は微笑んだ。


「自分のためだけじゃなく、誰かのために」


「誰かのために...」

後輩たちの目が輝き始めた。


数ヶ月後、俺が指導した後輩たちの中から、急速にレベルが上がる生徒が現れた。


「先輩のおかげです」

その後輩が感謝してくれる。


「妹のために頑張ろうと思ったら、急にレベルが上がったんです」


「良かったな」

俺は後輩の頭を撫でた。


「その気持ちを大切にしろ」


そして、卒業式の日が来た。


「神崎蒼真君」

校長が俺の名前を呼ぶ。


「君は3年間、素晴らしい成長を見せてくれた」


「ありがとうございます」


「そして、後輩たちにも良い影響を与えてくれた」


校長が卒業証書を手渡す。


「これからも、その優しさを忘れずに」


「はい」


卒業式の後、千夏が俺に駆け寄ってきた。


「神崎君、卒業おめでとう」


「ありがとう。千夏も来年は卒業だね」


「うん。でも寂しくなるな」


「大丈夫」

俺は千夏の手を握った。


「俺、この街の冒険者ギルドに所属する」


「本当?」


「ああ。だから、いつでも会える」


「良かった」


千夏が安心した表情を見せる。


「じゃあ、来年私が卒業したら...」


「一緒に冒険者として活動しよう」


「うん!」


竜牙も卒業して、俺たちは一緒に冒険者ギルドに登録した。


「これから俺たち、プロの冒険者だな」

竜牙が嬉しそうに言う。


「頑張ろうぜ、相棒」


「相棒か。悪くないな」

俺たちは固い握手を交わした。


それから数年後。


俺はレベル100越えの冒険者として、多くの人々を助けていた。


でも、レベルはもう気にしていない。

大切なのは、どれだけ人の役に立てるか。


ある日、街で一人の少年と出会った。


「おじさん、教えてください」


少年が俺を見上げる。


「どうしたら強くなれますか?」


俺は少年に微笑んだ。


「大切な人はいるか?」


「います。お母さんです」


「それなら、お母さんのために頑張ってみろ」


「それだけでいいんですか?」


「ああ。本当の強さは、誰かを想う気持ちから生まれるんだ」


少年が目を輝かせる。


「分かりました。頑張ります!」

少年が走り去っていく。


俺はその後ろ姿を見送りながら、昔の自分を思い出していた。


レベル1で、誰にも認められなかった自分。

でも今は、多くの人に支えられて、多くの人を支えている。


レベルは確かに上がった。

でも、本当に成長したのは心の方だ。


「神崎君」


千夏が俺の隣に並ぶ。


「何考えてたの?」


「昔のことを思い出していた」


「レベル1だった頃?」


「ああ」


俺は千夏を見つめた。


「あの頃があったから、今の俺がある」


「そうね」

千夏が俺の腕を取る。


「あの頃から、私は神崎君の優しさを知っていたわ」


「ありがとう」


「これからも、一緒にいてね」


「もちろん」


俺たちは手を繋いで歩き出した。


レベルなんて、ただの数字だ。

本当に大切なのは、人を想う心。

それさえあれば、誰だって強くなれる。


俺はそれを学んだ。


レベル1から始まった俺の物語。


でも、それは終わりじゃない。

これからも続いていく、俺たちの物語だ。


―完―

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