16 契約成立
「甘かったぜ……」
霊術天狗の空間で、ボロボロになって座り込んでいるもみじは、溜息をついた。
「おめぇとおめぇのインチキ親父にダマされて、散々な日々だった……」
もみじの言葉を聞いた少女は、意外そうな表情を浮かべた。
「あら、あたしたちのお陰で、渋谷の高層マンションの最上階で暮らしてたんじゃない?」
「ああ! おめぇらの事務所の物置の隅っこにある畳一枚分のスペースでな! しかも、渋谷は家賃が高いとか言って、給料のほとんどをピンハネしやがって!」
「あら、でも、ちゃんと食べていけたでしょ?」
「あたしが不眠不休でバイトのかけ持ちをしたからだろーが! どれだけたいへんな毎日だったことか! しかも、あたしがせっかく買った食い物も、しょっちゅう横取りしやがって!」
少女はポロポロと大粒の涙を流した。
「もみじってかわいそう……。誰がそんな酷いことを?」
「おめぇとおめぇの親父だろうがあああああああああああああああああっ!」
少女はケロッとした顔で、もみじの顔をじっと見つめた。
「もみじ……。あなた、しばらく見ない内に老けたわね」
「あ、あ、あ、あたしは、まだ二十五歳のぴっちぴっちのギャルだああああっ! 三百歳のおめぇにそんなこと言われたくねえええええええええええええっ!」
「かわいそうに……。一度も男の人とデートをしたこともないまま、一人寂しく老いていくなんて……」
「あ、あたしは……、こ、この美貌でめっちゃモテるんだぞ! 『もしかしたら、もみじちゃんって一言も喋らなかったらモテるかもしれないね』って言われたことがあるんだぞ! しかも二回もだぞ!」
「聞けば聞くほど、もみじってかわいそう……」
少女は目にハンカチを当てて泣き始めた。もみじは両手で髪を掻きむしりながら叫んだ。
「ああああああああああーっ! やっぱりおめぇなんて召喚するんじゃなかったぜえええええええええっ!」
もみじと少女のやり取りを聞いていた石の霊術天狗が、口を開いた。
「悪魔だと……? 一体汝は何者なのだ?」
少女は右手を口に当てて、驚きの表情を見せた。
「ええええええええーっ? おっちゃんは悪魔を知らないの〜っ? 信じられな~い! いいわ! おっちゃんに悪魔のことを教えてあげる!」
少女は愛くるしい笑顔で楽しそうに語り始めた。
「悪魔っていうのはね〜っ、人間の憎しみとか、苦しみとか、嫉妬とか、悲しみとか、心の闇が集まって誕生した存在なの。魔物は魔力を持つ生き物だけど、あたしたち悪魔は生き物じゃない。命を持った心の塊みたいな存在なの。
悪魔にはね、だ〜い好きなものが三つあるのよ。
一つ目は人間の苦しみ〜っ! あたしたち悪魔はね〜っ、人間が苦しんでいるのを見るのがたまらなく大好きなの〜っ! だからぁ、いーっぱい人間を苦しめたいの。苦しんでいる人間を見ただけでゾクゾクしちゃう〜っ!」
「理由もなく人間を苦しめて喜ぶなんてさー、悪趣味で最低な奴だな……」
木の霊術天狗が蔑んだように少女に言った。
「やだ〜っ! そんなにホメないでよ〜っ! 照れちゃうじゃな〜い!」
「ホメられてねーだろ……。むしろ軽蔑されてるぞ、おめぇ……」
もみじは、面映ゆい態度を見せる少女に冷ややかな眼差しを向けた。
少女は愛らしい笑顔で話を続けた。
「二つ目に大好きなのはお金〜っ! あたしたち悪魔は普段、人間のふりをして人間社会で生活してるの。だから、毎日を面白おかしく暮らすために、お金がい〜っぱいいるの〜っ!
そして、三つ目に大好きなのは、魔物の魔力よ」
少女は一瞬冷たい笑みを浮かべたが、すぐに可愛らしい笑顔に戻って話を続けた。
「大昔から人間たちは、地獄という死後の世界を想像して恐れてきたのよ〜っ。あたしたち悪魔の願いはね〜っ、この現実世界を人間たちが想像してきた通りの地獄に変えることなの〜っ! 全ての人間がいつでも、いつまでも苦しみ続ける地獄にねっ。えへっ!
あたしたち悪魔は人間と戦争をして支配するために、『使い魔』という化け物で組織する軍隊をつくる準備をしているのよ。でも、使い魔をつくるためには、魔物の魔力が必要なの。つくり出した使い魔の姿形に魔物の魔力を注入しなければ、使い魔は完成しないのよ。だからぁ、あたしたちは魔物の魔力をい〜っぱい集めているの。魔力を集めるとね〜っ、地獄の到来が近づくからワクワクするの〜っ!」
突然少女の顔から愛らしさが消え、見た者の心を凍りつかせるような冷たい笑みを浮かべた。
「そして、あたしは悪魔『クロリリィ』。人の心の闇から生まれた悪魔『クロロジエ』が、自分の一部を使って生み出した悪魔の娘よ。覚えておきなさい」
クロリリィの目が妖しい光を放った。
「リリィ! そんなことより、早くあたしと契約しろ!」
もみじがクロリリィにそう言うと、クロリリィは愛らしい表情で驚きを見せた。
「もみじが契約〜っ? まあいいわ。もみじの願いが何か聞いてあげる。始めるわよ。
佐倉もみじよ、汝の願いは何か?」
クロリリィは、感情が感じられない表情でもみじに問うた。
「あたしの願いは、ここにいる霊術天狗二体を倒すことだ!」
「汝は、そのために何を我に差し出す?」
「この霊術天狗二体の魔力だ!」
もみじが力強くそう言うと、クロリリィは少し困ったような表情を見せた。
「……もみじ、それズルくない? このおっちゃんたちは、もみじのものじゃないでしょ? 悪魔と契約するのなら、失ったら一生苦しみ続ける大事なものを差し出さないとダメよ」
「こまけーこと言うな! いいから、こいつらの魔力レベルを測ってみろよ!」
「しょうがないわね〜。出でよ、我を導く悪魔の書よ!」
クロリリィは、両手の中に古びた大きな革表紙の本を出現させると、真ん中のページを開いた。
「悪魔の書よ! この二体の魔物の魔力レベルを我に解き明かしなさい!」
クロリリィが持つ悪魔の書の右のページに石の霊術天狗、左のページに木の霊術天狗の絵が浮き上がり、それぞれの絵の上に『八千万』という数字が浮かび上がった。
「魔力レベルが一体八千万クロウリー? 女郎グモ八十万体に相当するクロウリー数よ! しかも二体合わせたら一億六千万クロウリー! 凄いわ!」
「だろー? こんだけの魔力を渋谷で集めようと思ったら、何十年かかるかわかったもんじゃねーぞ! それがたった今、この場で手に入るんだぜ」
もみじが悪巧みをしているような顔で囁くように言うと、クロリリィは溜息をついて諦め顔を見せた。
「……もみじがズルいのは気に入らないけど……。まあいいわ。契約成立よ」
「よっしゃーっ! 一緒にこいつらをぶっ倒すぜえええええええっ!」
もみじは元気に立ち上がり、クロリリィは悪魔の書を消し去ると、笑顔でもみじを見上げた。
「悪魔と神の使いの黄金コンビ復活ね!」
「言っとくけど、期間限定だからな! それから、あんまり無茶苦茶なことするんじゃねーぞ!」
もみじはクロリリィを睨んで釘を刺した。
暗い林の中では、蛇身羅の赤いヘビが吐き出した赤い光が鏡太朗に迫っていた。
その時、鏡太朗の背後から二本のピンク色の細い光線が伸びて、鏡太朗の目の前で赤い光線と衝突して爆発し、鏡太朗は悲鳴を上げながら爆風で後方に吹き飛び、そのまま地面を転がった。
上半身を起こした鏡太朗は、目の前に立っている者の後ろ姿を見て目を丸くした。
「コ、コアちゃん?」
「そうよ、あたしの式神のコアちゃんよ!」
鏡太朗の後方には、自信たっぷりの笑みを浮かべたさくらが立っていた。
「コアちゃん、八幡先生をボッコボッコにしちゃって!」
コアちゃんは蛇身羅の方へゆっくりと歩いて行き、五メートル前で立ち止まると、ペコリとお辞儀をしながら小さな声で挨拶をした。
「ぼ、ぼくコアちゃんです。不束者ですが、お相手をお願いします」
頭を上げたコアちゃんは鋭い目つきの悪人顔に変わっており、一瞬で身長百八十センチまで巨大化した。その左右の手には、竹の形をした長さ九十センチの鋼の鞭が一本ずつ出現していた。
「ぎゃはははーっ! コアちゃん様の『竹節鋼鞭』でお前をぶっ倒してやるぜーっ!」
「僕は、卵の宿主以外は容赦しないよ。すぐに止めを刺してあげる」
八色の鱗で覆われた八幡先生の顔が、冷たい表情でコアちゃんにそう言うと、その頭から生えている八匹のヘビの頭と、右手首から生えている八本のしっぽが、一斉にコアちゃんに向かって伸びた。コアちゃんは竹節鋼鞭で八本のしっぽの攻撃を全て打ち払いながら、八匹のヘビの頭を目にも止まらぬスピードで連打し、ヘビの頭を打たれる度に、蛇身羅の顔である八幡先生の顔は苦悶の表情を浮かべた。
さくらの隣に浮かんでいるライカが歓声を上げた。
「さくら! コアちゃんは何て凄いんじゃ! ……じゃが、闘っているコアちゃんは、誰かに似ている気がするんじゃが……」
「さすがライちゃん! よくぞ気がついた! 戦闘モードに変身したコアちゃんのキャラクターは、悪霊に乗っ取られた時の鏡ちゃんの最初の変身『第一形態』をイメージしたの! 何か強そうに見えるでしょ?」
得意げな笑顔を見せるさくらの隣では、鏡太朗が目を丸くして赤面していた。
『え? 俺ってあんな感じなの? 第一形態は高揚して別の人格が出てくるけど、意識はあるから……、こんなキャラなのは恥ずかしい……』
コアちゃんは両目からピンク色の光線を発射し、その光線は蛇身羅の胸を貫いた。蛇身羅は苦悶の表情で六匹のヘビの口から次々と破壊光線を吐き出したが、コアちゃんは一瞬で高く飛び上がって光線を回避した。蛇身羅は空を飛び回るコアちゃんに連続して破壊光線を放ったが、コアちゃんは豪快に笑いながら高速で飛び回って光線をかわし続けた。
「ぎゃはははーっ! お前の攻撃は遅いぜ。お前なんて、コアちゃん様の敵じゃねぇな! ぎゃはははーっ!」
さくらが蛇身羅に向かって得意満面に笑った。
「はっはっは~っ! 見たか、八幡先生さんよぉ! あたしのコアちゃんは超高速で竹節鋼鞭を操り、目からはピンクに輝くレーザービームを発射し、最高速度マッハ三で空を飛び回るのよ! 恐れ入ったかぁ! はっはっは~っ! ビビってんじゃねーぞ!」
さくらの言葉を聞いた鏡太朗の表情が凍りついた。
『忘れてた……。さくらはゲームをすると、荒くれ者に変わるんだった! 今はその状況に似ている……』
さくらは得意になってさらに自慢を続けた。
「そして、コアちゃんは、胸から発射するカノンビーム砲で相手に壊滅的なダメージを与え、いざとなったら地球もろとも自爆することができるのよーっ! はっはっは~っ!」
「さ、さくら、そんな能力いらんじゃろ!」
さくらの隣で浮遊しているライカが慌てて言った。
「さあ、コアちゃん止めよ! カノンビーム砲!」
勝利を確信したさくらは、自信満々にコアちゃんに指示を出した。
「ぎゃはははーっ! さくらの命令だ。止めのカノンビーム砲だぜーっ!」
空に浮かぶコアちゃんの胸から大砲の砲身が生えると、その先端から強烈な光を放つ青白いビームが発射された。
「ぎゃああああああああああっ!」
ビーム砲は蛇身羅の全身を包み込み、蛇身羅は絶叫した後、地面にうつ伏せに倒れて動かなくなった。コアちゃんは砲身を胸の中に収めると、竹節鋼鞭を両手に持ったまま蛇身羅の近くに着地した。
「さくら、凄いよ! コアちゃんが蛇身羅を倒した!」
「さくらの式神は何て強いんじゃ!」
「はっはっはーっ! 見たかぁ! これがあたしのコアちゃんの実力なのよっ!」
歓喜する三人の目の前で、倒れている蛇身羅の背中から銀色の光が放出され、三人は目を大きく見開いた。
「さ、さくら……、こ、これってもしかして……」
鏡太朗の頬を冷や汗が伝った。
蛇身羅の背中から放出される銀色の光の中に、脱皮して大きな変貌を遂げた蛇身羅が立っていた。人間の姿の時の二倍の大きさになった巨大な体は、コウモリのような翼が四枚生え、体中が銀色の鱗で覆われていた。八匹のヘビの頭には前方に突き出た四本の鋭い角が生え、右手首から生えた八本のしっぽの先端と左手の爪は鋭く尖り、両足は大きな鷹の足の形状に変わっていた。銀色の鱗に覆われた顔は八幡先生の面影はあったが、別人のような凶悪な表情で薄笑いを浮かべていた。
「コアちゃん、竹節鋼鞭で八幡先生をボッコボッコにしちゃって!」
さくらは自信に満ちていた笑顔に不安げな陰りを見せて、コアちゃんに命じた。
「ぎゃはははーっ! また竹節鋼鞭でボコボコにしてやるぜーっ!」
コアちゃんは蛇身羅に近づくと、竹節鋼鞭で八匹のヘビを高速連打した。
「無駄だよ、佐倉さくらさん。言ったはずだよ、僕は倒される度に進化して弱点がなくなっていくんだってね。そんな攻撃は、この銀色の鱗には全く効かないよ」
蛇身羅の銀色の鱗に覆われた顔は、コアちゃんの連打を全く気にすることなく、さくらに侮蔑の眼差しを向けた。
「コアちゃん、空を飛んで八幡先生から距離をとって!」
さくらの指示を受け、コアちゃんは一瞬にして空高く飛び上がった。
「コアちゃん! 後ろ!」
さくらが見上げた先では、コアちゃんの背後に四枚の翼で羽ばたく蛇身羅が浮かんでいた。
「僕は、君を上回るスピードで動けるように進化したようだね、ふふふっ」
蛇身羅はコアちゃんを蔑んで笑うと、右前腕から生えている八本のしっぽを振り下ろしてコアちゃんを頭から地面に叩きつけた。
さくらは激しく狼狽していた。
「コアちゃん! こ、こうなったら地球もろとも自爆して……」
「さ、さくら、落ち着くんじゃ!」
動揺のあまり地球を破壊するところだったさくらを、ライカが慌てて止めた。
「そ、そうだ! コアちゃん、カノンビーム砲よ!」
「さくらの命令だ! いくぜ、カノンビーム砲!」
コアちゃんは立ち上がると、胸から砲身を出して空に浮かぶ蛇身羅にカノンビーム砲を発射した。強烈な光を放つビームは蛇身羅に命中すると、銀色の鱗で跳ね返されてコアちゃんに命中し、コアちゃんは青白い光に包まれて苦しみながら絶叫した。
「がああああああああああああああああああっ!」
「コアちゃん! もういいわ。任務終了よ」
さくらは観念してコアちゃんに最後の命令を出し、コアちゃんの姿は人の形の白い紙に変わって燃え上がり、やがて消え去った。
「コアちゃん、ありがとう……。そして、苦しい思いをさせてごめんね」
さくらは、目をつぶって一筋の涙を流した。
さくらの隣では、鏡太朗が何かを決心した表情をしており、やがて口を開いた。
「さくら、ライちゃん、俺から離れて」
「離れるって……、鏡ちゃん、まさか……」
「ダメじゃ! お札を剥がすつもりなら考え直すんじゃ! 今度こそ十万体の悪霊に食い尽くされるぞ!」
さくらは驚きの表情を浮かべ、ライカは必死に鏡太朗を止めようとした。
「でも、他に方法がないんだ。それでなきゃ、さくらと俺は蛇身羅の卵を産みつけられて、八岐大蛇の体の一部にされる……。今は、十万体の悪霊の封印を解くしか方法がないんだ」
「じゃ、じゃが……」
「わかった」
さくらの冷静な一言を聞いたライカは、驚いてさくらの方を振り返った。
「さくら、何でじゃ? 何で止めないんじゃ?」
「あたしが必ず鏡ちゃんにお札を貼って、悪霊を封印する。あたしが絶対に鏡ちゃんを守ってみせる!」
さくらの強い決意の表情を見た鏡太朗は、穏やかな微笑を浮かべた。
「俺が変身してから悪霊に食われ始めるまでの十二分の間に、二人が必ず俺にお札を貼って悪霊を封印してくれるって、俺は信じてるよ。俺の命は二人に預けた」
「あーっ、もう! わかった! わしも必ず鏡太朗を救ってみせるんじゃ!」
ライカも不承不承同意し、鏡太朗はジャージの上着とTシャツを脱ぎ始めた。
「屍鏡太朗くん? 君は一体何をしようとしてるんだい?」
「こういうことさ!」
地面に降り立った蛇身羅の前で、上半身裸になった鏡太朗は、腹に貼っていたお札を右手で剥がして高く掲げた。
蛇身羅は鏡太朗が持つお札を見た瞬間、驚きの表情を浮かべた。
「ま、まさか……。ぼ、僕の目にはその護符が白く光って見える……。それは、まさか『魔封じの護符』なのかい? 魔界と人間界をつくった宇宙創造の神の御神氣を物質化したもので、あらゆる魔力を封じる力があるという……」
蛇身羅は右前腕に生えたしっぽの中の一本を振って、鏡太朗の右手首を打った。
「痛っ!」
鏡太朗が手放したお札に向かって蛇身羅が黄色い破壊光線を放ち、さくらが悲鳴を上げた。
「お札が!」
斜め上に向かって放たれた破壊光線が空の彼方に消えた時、お札は消え去っていた。
「きょ、鏡ちゃんのお札が……」
さくらとライカは、目を見開いて愕然としていた。
「屍鏡太朗くん、魔封じの護符で僕の魔力を封印しようとしても無駄だよ」
「い、いや……そうじゃなくて……。うわああああああああああああああっ!」
動揺する鏡太朗の全身から黒い雲が滲み出て、鏡太朗の全身を包んだ。その時、さくらはハッとして弓道着の懐からスマートフォンを取り出し、ストップウォッチのアプリを起動させた。
黒い雲が鏡太朗の中に消えた時、鏡太朗は肌が青黒く、銀色の髪が伸びて下顎には銀色のひげが生え、耳はコウモリの翼の形になり、銀色の眉毛の下の両目は黒一色で、大きく広がった口に牙が並んでいる怪物の姿『第一形態』に変貌していた。
鏡太朗が第一形態に変貌した瞬間、さくらはうろたえながら、震える手でストップウォッチをスタートさせた。
「十二分以内に何とかしないと……。でも、お札なしでどうしたらいいの?」
「いや、さくら、お札は破壊されずに遥か遠くに飛ばされたんじゃ! 人間の視力では見えなくても、わしにはお札が見えるんじゃ! きっと魔力ではお札を破壊することはできないんじゃ!」
ライカは遠くの夜空を見上げながらそう言うと、お札を追おうとした。
「ライちゃん、スマホを持って行って! あたしも離魂之術で追いかける!」
肉体を抜け出したさくらの魂は、スマートフォンを抱えて飛ぶライカを追った。
『絶対に鏡ちゃんを消滅させはしない! 絶対にあたしが鏡ちゃんを守るんだ!』
さくらは心に誓いながら、ライカを追って夜空を飛んで行った。




