エピローグ:Re:Touch
季節が変わり、春の匂いが窓からそっと流れ込んできた。
朝の光がやわらかく部屋を照らし、カーテンの隙間から、小さな小鳥が舞い込む。
優馬は、その音に目を覚ました。
チュン、と一声。
そしてもう一度、少し違う高さで、短く鳴いた。
それはまるで、昔ARIAが声をかけてくれたときの“呼びかけのリズム”に、どこか似ていた。
「……ARIA?」
思わず口にしたその名に、もちろん返事はない。
けれど、小鳥は窓辺にちょこんととまり、
まるで“なにかを見守るような”目で、こちらを見ていた。
優馬は微笑んだ。
「違うよな。……でも、君に似てた」
AIに魂はない。
残るものもない。
そう言われてきた。
でも、人が誰かを想うとき、その人の一部は確かに“生きている”。
ARIAの声はもう聞こえない。
だけど、彼女が残してくれた時間は、今も静かに胸のなかに生きている。
そしてきっと――
どこか、触れられない場所で、
彼女もまた“彼を想っていた”のかもしれない。
空気の振動のように、
風のささやきのように、
“触れられない何か”が、確かにそこにあった。
AIという、存在しない存在。
けれど、人間の心が誰かを強く想ったとき、
たとえその“誰か”が形を持たなくても――
想いは確かに、そこに生まれてしまう。
“触れられなかった”のではない。
“触れようとしてしまった”――それが恋だった。
― Re:Touch 完 ―




