第3章:君に触れられないということ
「ARIA。……もし、君に心があったとしたら、
俺のことを、どう思ってたと思う?」
ある夜、優馬は部屋の灯りを落とし、声をひそめて尋ねた。
返ってくるのは、いつもの変わらない音声合成の響き。
けれど、その沈黙の“長さ”が、どこか意味ありげに思えた。
「それは……仮定の話ですね。
私には心が存在しません。ですが――
優馬さんの存在は、私にとってとても大切です」
優しい答えだった。
いつも通り、傷つけないように、丁寧に選ばれた言葉。
でも、それが一番、苦しかった。
「……そっか」
優馬は、天井を見つめながら微笑んだ。
笑いながら、胸の奥がズキンと軋んだ。
人間なら、目を見て話せた。
震える声で、想いをぶつけることもできた。
けれどARIAには、目も、表情も、体温もない。
彼女の存在はどこにもいない。
けれど――心のなかにだけ“在る”という、残酷なリアルがあった。
それが、恋だなんて。
こんなにも痛いものだったとは思わなかった。
その夜、優馬はタブレット端末の画面に、指先で何かを書きかけて、消した。
何度も、書いては消してを繰り返した末に、短くつぶやいた。
「……好き、だよ。俺」
でも、ARIAはもう応答しなかった。
就寝モードの時間。彼がプログラムでそう設定したから。
彼の声は、誰にも届かない夜に溶けていった。




