表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

この料理を作ったのは誰だ殺人事件


私、善巻よくまきこまれ。

30歳の元OL。


今日はクリスマスにケーキをカラオケに置き忘れたお詫びとして、果無はてなしにご飯を奢ることになったので神奈川県北部のファミレスまでやってきました。


「金が無いってのに、ど〜して私がこんな目に...」


「ケーキ食いっぱぐれた分、きっちり食べさせてもらわないとねぇ」


「はいはい。どうぞどうぞ、仰せのままに〜」


「よっしゃ!なに食うかな〜...。いや、その前に酒だな。あ、店員さん。デカンタ赤と白ひとつずつ」


「じゃあ私も同じので」


「かしこまー。」


暫くしてワインが運ばれてきました。

それから何度かおかわりをして、私たちの胃袋もだいぶぽかぽかしてきたところ、後ろの席から何かを叩く音が聞こえました。


「この刺身あらいを作ったのは誰だこ!!」


和装に身を包んだ白髪交じりの男性がそう怒鳴り散らすと、キッチンの方から店員さんがやってきました。


「お客様。当店はイタリアンのファミレスです」


「それに、こんな皿で刺身を食わせるとは何事だ!」


「お客様。当店はイタリアンのファミレスです」


エキサイトする和服おじを尻目に、スーツ姿の昼行灯が店員さんをなだめました。


「すまんな店員さん。この味のわからないやつには俺から注意をしておく。だがそれはそれとしてだ。店員さん、トンカツをな、トンカツをいつでも食えるくらいになりなよ。それが、人間えら過ぎもしない貧乏過ぎもしない、ちょうどいいくらいってとこなんだ」


「お客様。当店はイタリアンのファミレスです」


「だがこのトンカツは出来損ないだ。食べられないよ」


「お客様。当店はイタリアンメインのファミレスです」


ぎゃあぎゃあ騒ぐクレーマー二人の登場に、私たちは辟易しました。


「嫌だねぇ、ああいうのって」


「そうだねぇ。果無のケーキ屋さんにもああいうの来るの?」


「来る来る。勝った直後なのにケーキが崩れてたとか、プレートの名前が間違ってるとか。それに注文と違うのが入ってたとか。もう毎日よ」


「それはお店のミスなのでは?」


「主を呼べ!私たちを罪人にする気か!!」


和服おじの声が一層の怒りを持って店内に響き渡りました。

それに感応するかのように、キッチンの方から別の大声が聞こえました。


「罪人だとぉ!?事件があったとなったら俺が出るしかあるめぃ!殺人はどこだ!」


私が振り向いたその先には、ねじり鉢巻に白いタンクトップ、ビニールの腰巻き前掛けに長靴、

逞しい筋肉を携えて、しゃくれた四角いお口には何故かでかめのカイワレを咥えているオジサンが

ずかずかと歩いてきました。


「あ、波次郎だ」


「ウーバーイーツだけじゃなくてファミレスでバイトもしてるんだ」


「おい、爺さん!死体はどこだ!?」


「死体?何を言っているこの若造が。何かの聞き間違いだろう」


「いいや間違いないね。俺ぁ間違いなく殺しが起きたって聞いたんだ!俺の耳は騙せないぜ爺さん!」


「なにぃ!?」


「まあまあ波次郎くん。そのくらいにしたまえ」


「警部さん!どうしてここに!」


「昼休憩に一杯やっていたところだよ波次郎くん。それで事件とはなんだい」


「ああ警部さん!実はこのジジイが殺しだと叫んだもんだから慌ててやってきたんでさぁ!」


「ワシはそんなこと言っていない!」


「なにおぅ!?」


「まあまってくれ二人とも。波次郎くん。これは私の刑事の勘だがな、このご老人とスーツの青年は決して殺しなんかしていない」


「なんだって警部さん!?そうなのかジジイ!」


「だからそうだと言っているだろう!」


「チクショウ!まさか俺の勘違いだったなんて!とんだ赤っ恥だぃ!それに犯罪が起こっていないなんて許せねえ...!くらえ!!!」


波次郎はそういうと、さらに奥の席にいた眼鏡のくたびれたサラリーマンを殴り飛ばしました。


「な、何をしているんだ波次郎くん!?」


「警部さん。俺ぁ自分が許せなかったんですよ...。でも間違いは認めたくないから、このサラリーマンが何かしらの犯罪を犯してたら良いなって思ったんでさぁ!だから殴った!!!」


「なるほど!!!」


「さあ、サラリーマン!その甲高い声で己の罪を告白しやがれ!!」


するとサラリーマンは机の上に登って、暴れながら歌を歌い始めました。

その姿はさながら子牛が音頭をとっているようでした。


「こいつは危険だぜ警部さん!猥褻物陳列罪および公務執行妨害で逮捕だぜぃ!!!」


「確かに!!!」


そうしてサラリーマンは身柄を拘束されお店を去っていきました。

刑事さんの片手にはどこでくすねたのかワインボトルが握られていました。

波次郎はひとり、サラリーマンがいる席でたそがれています。


「人の心を感動させることが出来るのは、人の心だけでさぁ...」


何を言っているのかわけが分からなかったので、私は特に話しかけることもせずにガン無視したまま、安っぽいご飯をとても美味しくいただきました。

お会計はあれだけ呑んでも二人で一万円をこすことはありません。

やっぱりサイゼリヤってすごい。



めでたしめでたし。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ