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クリスマスのカラオケ殺人事件

何も考えずに呼んでいただけたら幸いです。

私、善巻こまれ。

30歳の元OL。


雪山から帰宅してはや3日。

今日は珍しく朝8時には起きて健康に酒を飲んでいます。

どうしてそんなに早起きかというと、今日はクリスマス。お昼くらいには予約したケーキを取りに行こうという算段なのです。

ご存じない方もいるでしょうが、神奈川県北部では年の瀬にケーキを食うのが慣わしなのです。


景気づけに500mlを7缶ほど煽っていたらあっという間に9時前ですから、私は急いでお顔を作り始めました。


ぴったり正午、私は馴染みのケーキ屋さんへと訪れました。


「いらっしゃいま...なんだ、こまれか」


「お客さんに向かって何だはないんじゃない?」


サンタの格好をしてクリスマスのポップを持っているのは学生時代からの悪友、果無はてなしです。


「ところで果無さぁ、流石にミニスカートはないんじゃない?」


「しょうがないだろ?私の趣味なんだから」


「お店の方針じゃないんだ」


「てか、こまれはどうしてケーキなんか?家で一人さみしいお前にケーキなんて似合わないよ」


「ひどいなあ。いいでしょクリスマスなんだから」


「クリスマスなんだからよくないと思うんだけど」


「ふ〜ん、そんな事言うんだ。せっかく仲の良いお友達を呼んで一緒に飲み明かそうとしたのにな〜」


「友達いるの?」


「あぁ?」


「冗談冗談、仕事終わったらな。それまでは暇つぶししててくれや」


「じゃあその辺でうろうろしてるから。終わったら電話してね」


私は大通りを抜けて、飲み屋街を散策していました。

途中、黄色地に黒い一本線の入ったトラックスーツの方がアベックにキムチを投げつけたりなんて光景も見ましたがそれはそれ。ああ、平和だななんて思いました。

ちょい飲みを繰り返しに繰り返し、風が一層冷たくなった頃、アベックもそろそろ鬱陶しく思い始めた私はカラオケボックスに入ることにしました。

決して大声を出してストレスを発散しようというわけではありません。


カラオケボックスもやはりアベックまみれ。

ストレスはそろそろ鶏冠に達しそうでしたので、私はすぐさまアルコール類を注文し、別れの歌ばかり熱唱しくさりました。


ひとしきり歌って飲んで、小便でもするかと席を立ったところ、隣の部屋で揉め事か何かがあったらしく警察の方が数名ほど出入りしているようでした。

青ジャケットに蝶ネクタイでめかしこんだガキや、私より10は若い肌艶の女どもがわんわんと騒いでいますが、小便が先です。


便所までもう少しというところで、受付の方から悲鳴が聞こえました。


「きゃー。店長がお亡くなりあそばせですわー。」


「店長ぉぉぉおお!なんてこった!誰がこんな事を!!許せねえ!!俺がかたきを討ってやるぜ店長ぉぉおお!!!!」


「俺は、俺はこいつが憎かったんだ...!許せなかったんだ!クリスマスには予定があるって言ったのにシフトに入れやがって!だからオレが殺した...!!」


慌てふためく店員さん3名に、私は声をかけました。


「どうかなさいました?」


「店長がお亡くなりなんですー。」


「っぉおお!店長っ、店長ぉぉ!ぉうっぁ、店、店長!刺されて、って店長っぉぅ!店長ぉぉぉぉおお!」


「クリスマスだけは絶対に駄目だと言ったのに...!入院中の母親との面会に、行方知れずになった親父との久々の再開...、それに妹のピアノの発表会と祖母の誕生日と、爺さんの命日と目の見えなくなった彼女の手術に商店街の福引が重なっているから絶体に、絶体に出れないと言ったのに...!くそぉ...!」


状況把握もままなりませんが、どうやら店長さんが誰かに殺されてしまったようです。

私は亡骸を見てびっくらこいていると、うしろから声がしました。


「なにぃ!?事件だと!こうしちゃいられねえ!」


ねじり鉢巻に白いタンクトップ、ビニールの腰巻き前掛けに長靴。逞しい筋肉を携えて、しゃくれた四角いお口には何故かでかめのカイワレを咥えているオジサンがドリンクバーからメロンソーダを直飲みしていました。


「てやんでぃ!俺は神奈川県北部の名探偵、人呼んでゴリ押し探偵、寿司の波次郎だぃ!」


「波次郎さん!?」


「またあったなお嬢ちゃん!それはともかくこれは事件だぜ!どう思う警部さん!」


波次郎さんは横にあるアイスクリームサーバーからバニラソフトを直飲みする茶色いコートの大柄な男性に声をかけました。


「そうだな波次郎くん。これは刑事の勘だが...、今日バイトに来ている3人のうちの誰かの怨恨ではないかと私は思うね。例えば、入院中の母親との面会に、行方知れずになった父親との久々の再開、妹のピアノの発表会と祖母の誕生日と、お爺さんの命日と目の見えなくなった彼女の手術に商店街の福引が重なっていたのにも関わらずにバイトに駆り出されたとか...」


「警部さん、流石にそれは出来すぎですぜぃ。この事件はもっと根っこが深いと俺ぁ思うんだ!なぜなら今日は正月の一週間前。これの意味するところ、わかりますでしょ...」


「正月の一週間前...?ま、まさか波次郎くん、それは...!!」


「ああ、そういうことですぜ警部さん。正月の一週間前ってことは、一週間後は正月!!!そろそろ門松を出す時期でさぁ!!」


「確かに!!!」


「う〜す、う〜す〜う〜すっす〜」


「てめえが犯人だ!くらえ!!!」


「ぅう〜っす!?」


波次郎さんは会話途中に割り込んできたウーバーイーツの鞄を抱えた青年を問答無用で殴り飛ばしました。

驚いた私は波次郎さんに食ってかかります。


「関係ありますその人?」


「見てくれが気に入らねえ!」


「それは好みの問題では...?」


「お嬢ちゃん、わかっただろう?俺が言ったことがよぉ。正月、つまり門松は冥土の旅の一里塚。いくら門松がめでたくとも、俺たちは死に一歩ずつ近付いているんでぃ...。今という時間を無駄にしちゃいけねえ...。それがたとえクリスマスだとしてもな!!!」


「何言ってるんですか?」


「警部さん!つれてってやってくれぃ!」


「ああ、何か言い残すことはあるか?」


「う〜っす」


「言い訳は地獄でするんだな!!!!」


そういって警部さんはアイスクリームサーバー片手に去っていきました。

波次郎さんは店舗の台所を無断使用しサバの押し寿司を作り、101号室から70119号室までの皆さんで美味しくいただきました。

亡骸だと思われていた店長さんはただ凄く痩せこけていただけで、とても喜んで寿司を頬張っていました。

私もめいいっぱい食べられて満足の後に帰宅しました。

ちなみにケーキはカラオケに忘れてきました。



めでたしめでたし。








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