雪山遭難殺人事件
何も考えずに呼んでいただけたら幸いです。
私、善巻こまれ。
神奈川県北部で働くピッチピチの29歳OLです。
先日、友人の果無の家で酒を飲み飲まれ無断欠勤73日の記録を叩き出したことで、会社をクビになりました。
今朝も120Lのゴミ袋たちと700本くらいある缶を避けながら、ワンルームでひっそりと酒に溺れています。
ですが、こんな夏空の天気の良い日にお外に出かけないというのもあれなので、お気に入りのワンピースに着替えて神奈川県北部にある豪雪地帯のあばら屋までお散歩をしたところ、なんと遭難してしまったのでした。
「くっそぉ!夏の陽気なのについてないぜ!」
「ワシはこんなところにいられるか!部屋に戻らせてもらう!」
「まー。ワタクシはここで死ぬんですわー。」
私の他にもスキー客が何人か遭難していたようで、かき集めた板切れを暖炉にくべて暖まっています。
寒さで凍えそうな中、少しでも元気が出るようにと、私は皆さんとお話することにしました。
「あの、皆さんはどういった経緯でここに?」
夏の陽気なのについてなかった人は答えました。
「オレは半煮者っていうんだぜ!昆虫採集途中に迷い込んじまったんだぜ!」
次に部屋に戻らせてもらいたそうな人が答えました。
「ワシは部屋戻。部屋に戻ろうとしてたらこんな雪山に迷い込んでしまったんじゃ!部屋に戻らせてもらうぞ!」
最後に死にそうな女の人が答えました。
「ワタクシは吉田。八王子から逃げてきましたんですのー。それなのにこんな。運命って残酷ですわー。」
彼女の自己紹介が終わると、ドアとしての役割をギリギリで果たしていないドアが勢いよく開きました。
「てやんでぃ!神奈川県北部の名探偵とはおれのことだぜぃ!」
「波次郎さん!?」
「おっとお嬢ちゃん、もう安心しな。犯人はわかってるぜ!」
「なにぃ!?ほんとか波次郎くん!?」
あばら屋の奥から他の遭難客7284人をかき分けて、茶色いコートの刑事さんが現れました。
「ああ警部さん、中々の難事件だったがこの俺の中落ち色の脳細胞にかかったらイクラの手をひねるようなもんだぜ」
「なるほど!!!!!」
「だけどな、一応なんだが警部さんの考えも聞いておきたいんだ。いいかぃ?」
「あ、ああ。私の考えとしてはまず凶器が問題だ。これは私の勘だが極寒の中で行われた殺人事件では往々にしてツララで刺したりだとかそういった犯行が起きがちだ。それに、あの冷蔵庫に仕掛けてあった謎のトラップ...。それに被害者の残したダイイングメッセージ...。第二、第三の殺人...。『闇夜の復讐者』と書かれた差出人不明の手紙...。さらにいえば夜毎に聞こえた何かを引きずるような音...。それらを加味すると犯人は...!」
「おっと、刑事さん。そこまでだぜぃ!こっからは俺に任せてもらおう!」
波次郎さんは額のねじり鉢巻を巻き直してから、パンっとビニールの腰巻きを叩きました。
「中尾さん。おめえが犯人なんだろう?」
「な、中尾さん...?」
私は首を傾げました。
ですが私以外の7283人の14576の瞳が中尾さんとかいうよく知らない人に集中しました。
「お、おれですか!?知りませんよ!第一殺人があったことだって知らな...」
「うるせえ!」
波次郎さんは約43mほど助走をつけて中尾さんと呼ばれた方にドロップキックをぶちかましました。
「寒さってのは人を惑わすもんだ...。それはな心の殺人なんだよ!!!!」
「「「なるほど!!!!」」」
中尾さんに手錠がかけられ、刑事さんに連れられていきます。
「なにか言い残すことはあるかね?」
「...あの、」
「言い訳は地獄で聞きましょう!!」
去っていく中尾さんの背中はとても小さく見えました。
「...波次郎さん」
「お嬢ちゃん。罪は憎んで人は憎まずだぜ。それが俺たち探偵、いや人間の正しい道ってもんだぜ...」
「いや、そうじゃなくて犯人も何も、まず殺人事件自体起きてたんですか?」
「うるせえ!!!!」
残った7282人は波次郎さんの寿司で腹を満たし、152日後無事に救助されました。
ビンタされて腫れた顔でも、ご飯はとっても美味しかったです。
ちなみに殺人はおきていませんでした。
めでたしめでたし。