出会い
三題噺もどき―ろっぴゃくじゅうろく。
雨粒が地面を叩く。
傘をさしてこればよかったと少し思ったが、この程度の雨なら大したことはないだろう。
そうでなくても、手がふさがるのはあまり好きではないので、土砂降りではない限り傘は使わないだろう。……土砂降りならそもそも出ない。
「……」
日課の散歩に出たはいいものの、今日は少し冷える。
吐く息が少しだけ白く染まって消えていく。
雨が降っているのもあって、いつも以上に人の気配がない。ときおり聞こえる小動物の気配もあまりしない。
「……」
おかげで傘をささずに歩けるのかもしれないが。
雨の中で傘をささずに歩いていると、それだけで変なものを見るような目で見られることはあるからな。そうでなくとも、真黒なのがよくないんだろうけど。
「……」
細身の、ぴったりとしたズボンをはいている。厚手のパーカーを着ていたのだが、濡れる事前提なので、その上に撥水加工のされているジャケットを着ている。
それについているフードを被り、頭が濡れないようにもしている……頭くらいは別に濡れてもいいかとは思っているのだが、濡れて帰ると面倒な小姑みたいなのがいるので……濡らすのはジャケットだけにしておかないといけない。
「……」
そこまで気にするなら、散歩に行かなければいいと言う感じだが。
これが、私なりのストレス発散にもなっているし息抜きの一環なので、外出困難でない限りは許されて欲しい。その辺もアイツは分かっているので、雨の中でもとめはしないんだろう。見送りの時に嫌そうな顔はするが。
「……」
雨音の中に響く自分の足音を聞きながら、アスファルトの上を歩いていく。
ぽつぽつと立っている街灯の明かりが、雨のおかげでぼんやりとしている。
大き目の通りから、少し外れ、更に街灯の数が減っていく。
「……」
夜の気配がさらに強くなり。
闇の色がさらに色濃くなる。
「……」
道の先には、草木が生い茂っている。
時期になれば、美しい花でも咲くのだろうかこの木は。
のれんのように、垂れたその木の枝を掻い潜り、更に奥へと進んでいく。
「……」
その先にある場所には。
「……」
死の気配が。
充満している。
「……」
心地のいいこの場所は。最近見つけたお気にいりの場所だ。
ならぶ石の間をゆっくりと歩いていく。
茶碗に雨粒が跳ねている。
枯れた花に、雨粒が垂れる。
「……」
季節外れの桜の枝があった。
今の時期はあるとすれば梅だろうと勝手に想っていたのだけれど……。
しかしよく見れば、造花だった。
「……」
時折聞こえる声に、反応でもしてやろうかと思ったが。
先日、公園の声に応えた後に憑いてこられたことを咎められたので、今日はやめておこう。
ちなみにそのブランコはその後返しに行った。
「……」
しかし。
あれは。
「……」
進んでいった道の先に、少々新しめの石が立っていた。
その近くに、何かがかがんでいるのが見えた。気づかれぬようにと、離れた所から見やると、それは幼い子供だった。雨が降っていることも気にせずに、地面に何かをかいていた。
「……」
いや、アレは紙に書いているのか。
近くに、ケースのようなものが落ちているので、あれは色鉛筆のようなものを握っているんだろう。使った色をそのあたりに置いているあたり、子供らしい。
「……」
ふむ。
声を掛けるべきか、否か。
こんなあからさまな不審者に声を掛けられて、怖がりはしないのか……考えたところでなぁ、あれはな。
「……」
どうしたものかと考えていると、あちらが気づいたのか。
ぱち―と目が合った。
慌てたように散らかしていた色鉛筆を片付け、紙を腕に抱え。
消えていった。
「……」
まぁ、いいか。
また来れば会うことがあるだろう。
「戻った」
「おかえり……なさい」
「……なんだ、今日は何も連れて帰ってないぞ」
「……濡れすぎです」
「ん?あぁ、すまん。フードが取れてたのか」
「……タオルを持ってくるのでそこから動かないでください。
お題:桜・色鉛筆・のれん