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三題噺もどき4

出会い

作者: 狐彪

三題噺もどき―ろっぴゃくじゅうろく。

 




 雨粒が地面を叩く。

 傘をさしてこればよかったと少し思ったが、この程度の雨なら大したことはないだろう。

 そうでなくても、手がふさがるのはあまり好きではないので、土砂降りではない限り傘は使わないだろう。……土砂降りならそもそも出ない。

「……」

 日課の散歩に出たはいいものの、今日は少し冷える。

 吐く息が少しだけ白く染まって消えていく。

 雨が降っているのもあって、いつも以上に人の気配がない。ときおり聞こえる小動物の気配もあまりしない。

「……」

 おかげで傘をささずに歩けるのかもしれないが。

 雨の中で傘をささずに歩いていると、それだけで変なものを見るような目で見られることはあるからな。そうでなくとも、真黒なのがよくないんだろうけど。

「……」

 細身の、ぴったりとしたズボンをはいている。厚手のパーカーを着ていたのだが、濡れる事前提なので、その上に撥水加工のされているジャケットを着ている。

 それについているフードを被り、頭が濡れないようにもしている……頭くらいは別に濡れてもいいかとは思っているのだが、濡れて帰ると面倒な小姑みたいなのがいるので……濡らすのはジャケットだけにしておかないといけない。

「……」

 そこまで気にするなら、散歩に行かなければいいと言う感じだが。

 これが、私なりのストレス発散にもなっているし息抜きの一環なので、外出困難でない限りは許されて欲しい。その辺もアイツは分かっているので、雨の中でもとめはしないんだろう。見送りの時に嫌そうな顔はするが。

「……」

 雨音の中に響く自分の足音を聞きながら、アスファルトの上を歩いていく。

 ぽつぽつと立っている街灯の明かりが、雨のおかげでぼんやりとしている。

 大き目の通りから、少し外れ、更に街灯の数が減っていく。

「……」

 夜の気配がさらに強くなり。

 闇の色がさらに色濃くなる。

「……」

 道の先には、草木が生い茂っている。

 時期になれば、美しい花でも咲くのだろうかこの木は。

 のれんのように、垂れたその木の枝を掻い潜り、更に奥へと進んでいく。

「……」

 その先にある場所には。

「……」

 死の気配が。

 充満している。

「……」

 心地のいいこの場所は。最近見つけたお気にいりの場所だ。

 ならぶ石の間をゆっくりと歩いていく。

 茶碗に雨粒が跳ねている。

 枯れた花に、雨粒が垂れる。

「……」

 季節外れの桜の枝があった。

 今の時期はあるとすれば梅だろうと勝手に想っていたのだけれど……。

 しかしよく見れば、造花だった。

「……」

 時折聞こえる声に、反応でもしてやろうかと思ったが。

 先日、公園の声に応えた後に憑いてこられたことを咎められたので、今日はやめておこう。

 ちなみにそのブランコはその後返しに行った。

「……」

 しかし。

 あれは。

「……」

 進んでいった道の先に、少々新しめの石が立っていた。

 その近くに、何かがかがんでいるのが見えた。気づかれぬようにと、離れた所から見やると、それは幼い子供だった。雨が降っていることも気にせずに、地面に何かをかいていた。

「……」

 いや、アレは紙に書いているのか。

 近くに、ケースのようなものが落ちているので、あれは色鉛筆のようなものを握っているんだろう。使った色をそのあたりに置いているあたり、子供らしい。

「……」

 ふむ。

 声を掛けるべきか、否か。

 こんなあからさまな不審者に声を掛けられて、怖がりはしないのか……考えたところでなぁ、あれはな。

「……」

 どうしたものかと考えていると、あちらが気づいたのか。

 ぱち―と目が合った。

 慌てたように散らかしていた色鉛筆を片付け、紙を腕に抱え。

 消えていった。

「……」

 まぁ、いいか。

 また来れば会うことがあるだろう。




「戻った」

「おかえり……なさい」

「……なんだ、今日は何も連れて帰ってないぞ」

「……濡れすぎです」

「ん?あぁ、すまん。フードが取れてたのか」

「……タオルを持ってくるのでそこから動かないでください。










 お題:桜・色鉛筆・のれん

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