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第一章 はじまりの村


 その村は世界の片隅に静かに息づいていた。

 外の世界とほとんど交わることのない場所で、古くからの風習が守られていた。

 それは一五歳になった者が「見聞を広めるために村を出発する」というもので、リズもその日を迎えようとしていた。


 彼女は小さい頃から「外の世界」に強い興味を抱いていた。

 それは偉大な魔女である母親から毎日のように外の世界のお話を聞いていたこともあるが、それ以上に彼女の心に深く刻まれていたのは、母が外の世界から未だ戻ってきていないからだった。

 文字通り誰からも尊敬される立派な人だった。トラブルを起こしているところなんてリズは見たことがない。

 その為、母の行方を探すことが、リズの旅のもう一つの大きな目的となっていた。


 一五歳の誕生日が近づくにつれ、リズは着々と成長していた。もちろん母に少しでも近づく為である。

 村の図書館で古代の魔法書を読み漁り、村長のお婆さんからもさまざまな魔法の基礎を教わった。

 だが、その心の奥には行方不明の母に対する不安と、外の世界に対する恐怖がずっと潜んでいた。



 村を出発する数日前、リズはあることで村長と口論になった。

 それは「お母さんは探すな」と厳しく言われたことだった。

 リズの過去、現状を知っていて尚、そう言われたことに彼女の心は整理が追いつかず、ただ背中を向けて走り去るしか出来なかった。

 村長は自分の大切な母のことを知っているはずなのに、なぜ探すなと言うのか。

 理解が出来なかった。

 そんなお婆さんもまた、目を伏せて何も言えずにいた。


 今は誰も住んでいない空き家へと駆け込んだリズは、扉を勢いよく閉めて鍵をかけた。

 

「お母さんは...お母さんはまだ生きているかもしれないのに!」


 そのまま扉を背にしてしゃがみ込むと、自然とその瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちる。

 なぜ誰も探しに行ってくれないのだろう。なぜ母は出ていってしまったのだろう。

 答えの出ない疑問が一気に押し寄せ、彼女を押し潰そうとする。

 あと数日で村を旅立たなければならない。本当に生きていけるのか。 

 自分の中に渦巻く不安と恐怖、そして母を探したいという強い意志に揺れ動く。

 そんな時だった。

 換気のために開いていた小窓から、鈴の音が聞こえた。

 驚いた彼女が顔を上げると、そこには昔からずっと一緒にいてくれた大事な友達の姿があった。


「ベル......」


 にゃ、と短く鳴くと、相棒は彼女の側へと寄り、"私がついている"と言わんばかりにリズの目をじっと見つめていた。

 ベルはいつもリズを近くで支えてくれた。

 彼女が孤独を感じないように優しく寄り添い、つまづいた時にはその柔らかな瞳で励ましてくれた。

 そう、彼女は一人ではない。いつも隣で励ましてくれる大切な家族がいる。


「そっか、そうだよね......。行かなきゃならない、全てを知りたいから…」


 そうして彼女は前を向いた。

 自分の心に従うことが、母親への思いを貫くための唯一の道だと信じていたから。

 


 そして迎えた一五歳の誕生日。

 村の中央広場では、村人たちがリズの出発を見送るために集まっていた。

 リズは育ててくれた村長のお婆さんとしっかりと目を合わせた。

 そこには迷いは不安といったものはなく、あるのは希望と決意に満ち溢れたものだけだった。


「リズ、気をつけて行っておいで…母さんのことは、忘れなくていい。ただ、無理だけはしないでね」


 リズは絶対泣かないつもりだった。自信はあった。

 しかし、どこまでいっても育ての親からの一言には抗えない。

 リズは涙をこらえて、静かに頷いた。

 

 村の門が開かれ、リズは母から託されたという杖を村長から受け取り、相棒ベルと共に一歩を踏み出した。

 今はまだ半人前だが、彼女は将来、母のような偉大な魔女になる。その為にはこの旅は欠かせない。

 外の世界にはまだ見ぬ冒険が待っている。心の中に恐怖を覚えながらも、それ以上に強い決意と希望が彼女を支えていた。


 「お母さん、私もきっと強くなるから。ベルと一緒に…」


 静かな「はじまりの村」を背に、リズの新たな冒険が今、始まった。


第一章の補完です。

よろしければ動画と合わせてご覧ください。

【巡りの世界と見習い魔女の旅 第一章 はじまりの村】

https://youtu.be/qK_GftGjgto

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