ヲタッキーズ194 秋葉原ホットドッグ戦争
ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!
異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!
秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。
ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。
ヲトナのジュブナイル第194話「秋葉原ホットドッグ戦争」。さて、今回はパーツ通りでしのぎを削るホットドッグ屋の鉄板で生首が焼かれますw
ライバル店同士の熾烈な競争の果ての殺人が疑われる中、伝説の"秋葉原最大の恐怖 セーラーギャラクティカ"が"覚醒剤"の密売人殺しを再開して…
お楽しみいただければ幸いです
第1章 舞台は裏アキバ
インバウンド全盛のアキバ。市場の頃は夜の早い街だったが、今では真夜中でも派手なネオンが点灯。
「正真正銘」「真っ当派」「絶対絶命」…4文字ネオンに囲まれて男女がキス。遊び人風の男に金髪女」
「ツイートしなきゃ!今、閉店後の"真っ当派マチガイダ"にいるって」
「"真っ当派"じゃないょ。ウチは"正真正銘マチガイダ"さ」
「そっか」
せっかちな男のキスに、緩く唇を許しながら、空いた片手では器用にツイートしている金髪メイド。
「スゴい良い匂い!」
「ホントだ。確かに良い匂いだ。誰かいる?親父、肉を焼いてるのか?」
「バーベキュードッグ?」
フフンと鼻で笑う男。
「ウチは、そんな邪道なドッグは出さない。"正統派"じゃあるまいし」
キッチンに回る。何と焼けた鉄板の上に男の生首。死んだ魚の目ならぬ男の目だ。金髪メイドの悲鳴w
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
熱々鉄板の上でカリカリのベーコンひっくり返す。
「お待たせ!スピアの好きなカリカリベーコンだぞ!ベスト焼き加減だ」
「今朝は要らない。お腹空いてナイから」
「大好物のターキーベーコンだ。コレを食べナイなんて…コロナ?」
御屋敷のバックヤードをスチームパンク風に改装したら居心地良くて常連が沈殿、収益率は低迷中だw
今もカウンターに居座るスピア。彼女はハッカー。
「別に」
「教えないとコレで鼻をつまむぞ」
「そう」
トングを見せておどけるも空振りw
「笑顔はナシか。随分深刻そうだな」
「ロレンのお誕生日会、行かない」
「え。"最高のパーティになる"ってメッチャ盛り上がってたのに」
視線を落とし、語り出すスピア。
「昨日、ロレンから、みんなの前で貴女は来ないでって言われた。屈辱だった」
「あれ?ロレンって親友だったょね?」
「私は、そう思ってたけど、なんでこんなコトするのかわかんない。"シン彼"のシュリは招待されてるのに、私だけ仲間はずれ」
無難なコメントを脳内選択。
「シュリは行くべきじゃないな」
「でも、止められないわ」
「対抗して、スピアもパーティを開いて、ゲストをみんな総ざらいしちゃえ」
首を横に振るスピア。
「向こうはバンド演奏まである。しかも今宵なの」
「JAZZのビッグバンドなら…」
「ヤメて。元カレに告げ口したと思われる。大丈夫。自分でなんとかスルから」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
中央通りと平行して走るパーツ通りは、昔は裏アキバとか呼ばれる寂しい裏通りだったが今は賑やか。
インバウンドを避けながら真っ直ぐ歩けないw
「たまらないよ。元カノを守りたい気持ちでいっぱいになる」
「あの年頃なら、自分の身は自分で守れるわ。彼女には意地悪に負けない賢さがある」
「どうかな。殺人を犯しそうな顔してた」
雑居ビルの前に張られた黄色い規制線のテープをくぐり、2Fに上がり原色ネオンが賑やかな店の中へ。
「殺人と言えば、パーツ通りの向かいにも同じようなホットドッグ屋があったわょね?」
「いや。アレは"真っ当派マチガイダ"だ」
「ココは違うの?」
あれ?何も知らないのか?
「ココは"正真正銘"だ。向かいは"真っ当派マチガイダ"だ」
「何が違うの?」
「"正真正銘"は、鉄板の上で生首が焼けてる」
僕のタブレットから声。ラボからハッキングし"リモート鑑識"で僕達を手伝ってくれる超天才の登場だ。
「クールな指摘をthank you」
「ウェルダンね」
「いいえ、まだミディアムレアよ。40代半ばの男性としか今はわからないわ。鉄板の温度設定と気温からして焼き始めたのは午前2時以降ね」
溜め息をつくラギィ。
「聞きたくないけど、死因は?」
「胸の刺傷。その後で首だけ切断されて鉄板で焼かれてるみたい」
「侵入の痕は無いけど、一応、鑑識がドアの指紋を調べてる」
先に現場に着いたヲタッキーズのエアリ。因みに彼女はメイド服だ。だってココはアキバだからね。
「鉄板回りの指紋もとって。発見者は誰?」
「店の倅だ」
「彼?」
エアリが指差す先にヲタッキーズのマリレの前で色々まくしたててる色男。因みにマリレもメイド服w
「知らない!ホントに見覚えがないンだ、あの生首とは。キッチンに行ったら、いた…」
「彼は"真っ当派"ではなく"正真正銘マチガイダ"の倅ょ」
「昨日最後まで店にいたのは?」
勢いよく答える倅。
「23時頃まで俺と親父がいた。俺はその後、メイドバーで出会ったメイドと店に戻って来た。その、少し楽しもうかと」
「何時のこと?」
「多分4時半」
"正真正銘"の窓際席。陽光降り注ぐパーツ通りを2Fから見下ろす。倅は、青ジャケに赤アロハ。
「そのメイドは?」
「ゲーゲー吐きまくって"外神田ER"に運ばれた。でも、救急隊員から電話番号はゲットした」
「どれ?」
アロハの胸ポケットからメモを見せる。ラギィがそのメモを取ろうとすると、アロハは手を離さないw
「もう貴方にチャンスはナイわょ」
「それもそうだな。しかし、惜しかった。残念だ」
「はい、渡して」
手を離す。メモを没収w
「従業員のリストも欲しいわ」
「あの生首は従業員の誰かだと思ってるのか?」
「先ずはリストを頂戴。それから調べるわ」
そこへデブッチョ登場。顔で倅の父親とワカル。
「おいおい、ウソだろ!信じられない」
「親父。コチラが万世橋の警部さんだ」
「貴方が"正真正銘マチガイダ"のオーナー?」
胸を張る優男。
「そうだ。店長のYUI」
「あら?オーナーの名前は、ラフル・カボンとなってるけど?」
「そうだが、みんなからYUIと呼ばれてる」
何でだ?
「なぜです?」
「昔からマチガイダと言えばYUI店長と相場が決まってるからだ」←
「そーゆーモンなの?」
当惑するラギィを尻目に、苦虫を噛み潰したような顔をしているラフル。
「あの馬鹿野郎ども。うちの鉄板で生首を焼きやがって!」
「誰の仕業か知ってるの?」
「当然だ。あそこにいる男だ」
ラフルは、窓の外を指差す。眼下のパーツ通りの角に白いエプロンをした男が立っている。
「"真っ当派マチガイダ"のYUI店長?」
「YES。本名はサール・ラボル。以前はウチの店で働いていたのに、店を辞めるや、何と目の前に店を出しやがった」
「この生首、サールの仕業に違いない」
倅に続き親父も吐き捨てるように語る。親子そろって恨み骨髄って感じだ。今度はラギィが指差す。
「他にも誰かいるわ。あそこにいる赤シャツの男も、もしかしてYUIさんなのかしら」
「YES。奴の名はビニィ・ラマラ」
「彼も"絶品何ちゃら系"?」
親父が応えるより先に、パーツ通りを急進して来た黒いバンが急ブレーキで止まって男が降り立つ。
「奴は"絶対絶命マチガイダ"だ。ルカス・サリニ。コレで俺の店を真似した泥棒3人組が揃い踏みだ。みんな本名は違うのに、全員YUIを名乗ってる。ちくしょう、モノホンは俺なのに」
「君はラフルだろ?」
「そうだ…何年も互いに足を引っ張り合い、挙句にこんなコトまでしやがって。もうウチのピザを売れねぇ。満足か?おい!俺は廃業するぞ!」
後半は、窓から身を乗り出し、パーツ通りに向かって、大声で叫ぶ太っちょ親父。
「元祖YUIさん。なぜ彼等の仕業だと思うの?」
「ソレは、2~3週間前、アイツらの誰かがウチの"正真正銘チリソース"に洗剤を入れやがったからだ。ドッグが大量返品されて大騒ぎさ。まぁそんなコトもあって、俺もささやかな仕返しをしたが、連中は、さらに仕返しとして人体模型を持ち込みやがったワケだ」
「YUIさん。アレ、模型じゃナイから」
マジで驚く親父。
「頭蓋骨の標本か何かだろ?医大か何処かからもらって来たンだ」
「あのね。これはイタズラじゃないの。殺人ょ」
「何だって?!」
絶句スル親父。窓の外のパーツ通りには、白エプロンのYUI、黒ジャケのYUI、赤TシャツのYUIw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ストレッチャーで遺体(首だけw)が搬出される。ビル前の黄色い規制線の向こうは野次馬だらけだ。
勘違いしたインバウンドが行列をつくる。警官が交通整理に走る。コレもオーバーツーリズムなのか?
「被害者は従業員じゃなさそうよ。今、目撃情報を集めてる」
「店の鍵を持ってる人達を中心に話を聞いて。失踪届やシフト記録も当たってね」
「おいおい。ライバル達を忘れるな」
僕は窓の外を指差す。3人のYUI店長が、それぞれ腕を組みながら、3方向から現場を見上げてる。
「ねぇねぇ。コレは、ホットドッグをめぐる殺人だと思うの?」
「そりゃそーさ。アキバNo.1ホットドッグの座を賭けた熾烈な競争だ。現場への侵入も辞さない」
「確かにホットドッグをナメちゃいけないわ」
珍しいコトに、ヲタッキーズのマリレが味方をしてくれる。ところが…
「じゃ貴女が聞き込みして」
ラギィに仕事をフられて推し黙るw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋に捜査本部が立ち上がる。
「ホットドッグ屋の鉄板で生首を焼くとは猟奇的だわ。そもそも本体は何処へ消えたのかしら」
「僕の初期のSF"自由金星ばんざい"では、死体を反応炉で焼いて灰にするシーンがある。ファンのラギィなら知ってると思うけど」
「犯人は、生首を灰したかったの?」
ホットドッグ屋の誰かがか?エアリが割り込む。
「ねぇ"正真正銘マチガイダ"の従業員のアリバイを確認。全員シロだったわ」
「となると、ライバル店のYUI達が全員怪しいな」
「訴訟合戦してるの?」
データを見ながらラギィは驚く。
「4人のYUI達は、お互いに訴訟を繰り返してる。窓を割ったり、タイヤをパンクさせたり、店先に排泄物を置いたり…」
「ラギィ、コレでもしないのか?」
「店先に排泄物って…学生みたいなイタズラだわ。そこからいきなり殺人には発展しない…はい、ラギィ」
スマホが鳴り検視局に呼ばれる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の検視局は地下にアル。モニターいっぱいに"リモート鑑識"のルイナの画像。
「やっぱり指紋とかは出なかったけど、頭蓋骨の一部にチタンプレートが入ってたの」
「おお!コレは、未来から送り込まれた殺人サイボーグで人類解放軍によって破壊されたんだ」
「ホットドッグ屋の鉄板の上で?」
良い指摘だw
「そのチタンプレートの製造番号から身元が判明したわ。名前はゴドン・バンス」
「ゴドン・バンス?」
「YES。言うと思った。burnに引っ掛けて"萌える"ジョークを言いたいんでしょ?」
違うょ超天才。
「"ワラッタ・ワールドワイド・メディア"の記者のバンスか?」
「あら。お知り合い?」
「知り合いというか…彼の調査記事の個人的なファンだった。視点が秀逸ナンだ。僕みたいに」
ラギィの大きな溜め息w
「ルイナ。他には何か?」
「スマホのホルダーはあったけど、中身が入ってなかった」
「現場にもなかったわね。何処かしら」
証拠品用のビニール袋に入ったスマホホルダーの焼けた残骸が回って来る。
「財布の残骸も混ざってるわ。入ってたクレジットカードも免許証も全部溶けてるけど…」
四方が焦げた1枚のフォト。焼けたせいかセピア色に見える。はにかみながら微笑む黒髪の美人。
「奥さんかしら?」
「まさか!」
「何でまさかなの?でも、彼は離婚してる。身内はいないみたい」
モニター画像の中のルイナにたしなめられるw
「経験豊かな従軍記者で調査報道が得意だって」
「にしても、何で生首を焼かれたのかな?」
「編集者に話を聞きましょう」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
"ワラッタ・ワールドワイド・メディア"はアキバ発の巨大メディアだ。僕は、ソレこそ彼等がこのパーツ通りでミニコミ誌を配ってた頃から知ってる。
「あ、テリィたん。社長がよろしくと…私が初めて編集を担当したのがバンスの記事でした」
「あーゆー記事だと敵は多かったでしょ?」
「ソレが…最近の彼は執筆から離れてたの」
末広町にそびえる高層タワーが1本丸ごと"ワラッタ"のビルになっている。
編集のスマイ・リールは、青ジャケに黒ワイシャツ。ブランドのプレスかw
「記事を描いてなかった?どうして?」
「10才の娘を事故で亡くして…ソレからアルコールに溺れるようになりました」
「でも、解雇はしなかった?」
渋い顔で首を振るスマイ。
「あの才能をクビには出来ない…タマに暮らしに関する記事とか描いてもらってました。食いっぱぐれナイように」
「最近彼はどんな記事を描いてたの?」
「先週から提灯記事をお願いしてまして」
誰かにコビへつらう記事を"提灯記事"と呼ぶ。
「何の記事?」
「ホットドッグ。正真正銘だの、正統派だの、最近ヤタラと競り合ってるでしょ?末広町界隈で」
「ホットドッグ?!」
顔を見合わせる僕とラギィ。
「バカバカしい内容でしたが、彼は手を抜かなかったわ…そうそう。何日か前にタイヘンなコトになりそうだと言ってました」
「タイヘンなコト?何でしょう?」
「聞いてません。でも、たかがホットドッグの話です。なんてコトはアリません」
ことココにおよび僕とラギィはうなずき合う。
「コレは、秋葉原パーツ通りのホットドッグをめぐる殺人事件だ」
第2章 黒髪は魔性の女
捜査本部のホワイトボードの前。
「4人のYUI店長を隅々まで調べて。"正真正銘"も"真っ当派"も"絶体絶命"も。従業員も全員、
身元調査もね!」
「バンスは、取材で(アフガニ)スタンや天安門にも行った。ガザ侵攻も経験してる。なのにホットドッグ屋の記事で殺されるのか?」
「スーパーヒロインも同じょ。科学ギャングとの銃撃戦では無傷だったのに、買い物帰りの交通事故で命を落としたヒロインもいる」
マリレがボヤく。
「バンスのスマホを追跡出来ないわ。電源が入ってナイみたい」
「昨夜、バンスが何処で何をしてたかを調べて。経済状況もね」
「何かデカいコトが隠されてそうだな」
僕の直感。
「ソコに取材メモとか執筆途中の記事が残ってれば昨夜の行動がワカルかも」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
神田元佐久間町。バンスの安アパート。扉が薄く開いている。
「ドアが蹴破られてるわ」
ヲタッキーズが音波銃を抜き、突入!
「クリア!」
「奥のキッチンもクリア!」
「誰かに荒らされた後ね」
後から拳銃を構えて入って来るラギィ。
「ラギィ。私達は近所の人に話を聞いて来るわ」
「お願い」
「…引き出しは空っぽだ。恐らく取材メモも盗まれてる。犯人は、彼が取材してた内容を知られたくナイのね」
僕は、ハンカチでつまむように、フロアに落ちてた写真立てを取る。バンスと笑顔の…死んだ彼の娘。
「テリィたん。どうしたの?大丈夫?」
「娘さんを見たコトがアル。彼のサイン会に来てたんだ。バンスがサインしてる間、隣で塗り絵をしてた」
「テリィたんがサイン会で並ぶほど、良い記事を描く記者だったのね」
ヘンな感心をするラギィ。
「ま、そーゆーコトだな」
「鑑識を呼ぶわ」
「ねぇラギィ。妙なコトを聞いたわ。近所の人がバンスの郵便物を預かってたンだけど、バンスは彼女に海外に行くからって頼んだそうょ」
何だソレ?
「バンスはアキバを出てナイだろう」
「彼は、地下に潜ろうとしてたのょ」
「きっと、何処かのホテルに引きこもりだ。あの編集者に聞いてみよう。彼なら知ってるかも」
呆れるマリレ。
「たかがホットドッグの取材のために地下に潜るの?」
「潜っても殺されたのょ」
「ねぇラギィ。ルイナからだけど、現場のドアノブはキレイに指紋が拭き取られてたけど、鉄板からYUI店長の指紋がたっぷり出たって」
顔をしかめるラギィ。
「そりゃそうでしょ?オーナーなんだから当然よ」
「ソレが"正真正銘"じゃナイの。向かいにアル"真っ当派マチガイダ"の方のYUI店長ょ」
「あら」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の取調室。ラギィはバンスの写真を示す。
「YUI店長。本名はサール・ラボルね?彼を知ってる?"ワラッタ"の記者ナンだけど」
「知ってるさ!でも"ワラッタ"の記者だったのか?てっきり何処ぞのミニコミ誌かと…俺達の記事を書いてる記者さ」
「彼とは、どんなコトを話したの?」
身を乗り出すサール。
「誰がモノホンのYUIかって話さ。モチロン、俺がリアルのYUI店長だと話した。うちのYUIじいさんは、マルチバースの果てから"リアルの裂け目"を通って来た次元移民で、この秋葉原に来た日から、ソーセージを焼いてた。ソレが何よりの証拠だ」
「(証拠になってナイわw)他には?」
「以上だ。何で?」
呆れるラギィに代わって僕が突っ込む。
「未だバンスを殺した理由を歌ってナイな」
「鉄板から貴方の指紋が出たの」
「俺の指紋が?」
絶句スル"真っ当派マチガイダ"のYUI店長。
「諦めて歌った方が利口ょ。なぜバンスを殺したかを歌って」
「もう嘘は禁止だ」
「…わかった。確かにラフルの店には行ったが、誰も殺してない。それは説明できる。あいつは、ウチの店に潜入して電気ブレーカーを盗んだ。ソレは、俺が奴のソースに洗剤を混ぜたと思ってるからだ。だから、仕返しに奴の店の鉄板で…」
え。自供?
「生首を焼いたのか?」
「まさか。排泄物をブチまけようとしただけだ。数日前、下見に行った」
「冗談ょね?」
なぜかドヤ顔のサール。
「昨夜は、パーツ通りのガールズバーに閉店までいた。証人ならゴマンといる。ダーツ大会で3位になったからな。怪しいのは俺じゃない。ラフルだ」
「どうして?」
「俺がラフルの店を辞めたのは、あの店はストリートマフィアと繋がってるからだ。ラフルは、マフィアのためにマネーロンダリングをしている」
何だって?マフィア案件か?
「そのコトをバンスに話してナイょな?」
「何でだ?モチロン、話したさ。悪いか?」
「先に警察に話してょ。市民の義務でしょ?」
ラギィがブーたれる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
取調室。ブーたれる"正真正銘マチガイダ"のYUI店長ことラフル・カボン。
「何だって?ウチがマネーロンダリング?」
「2010年代に桜田門が貴方の店を捜査した。貴方がストリートギャングに関与しているとの容疑で」
「関与だ?」
鼻で笑うラフル。
「5年に1度しか会わない再従兄弟のガキがストリートギャングをやってただけだ。モチロン、捜査じゃ何も出なくて、警視庁は手ぶらで帰った。起訴もされてナイ」
「ところが、調査報道の名手バンスは、何かをつかんだんじゃないの?」
「そして、彼に秘密をバラすと脅されたので、逆に殺した。証拠の生首を灰にしようとしたが、残念ながら君の放蕩息子のせいで失敗した。さぁ首ナシの胴体は何処にある?白状しろ!」
呆れるラフル。
「アンタら"妄想力"が半端ねぇな。だが、俺は真面目にホットドッグを売って稼いでる。店の帳簿でも何でも調べろ。どーせ無駄骨を折るだけだ…アンタら、サールの出まかせを信じてるな?アイツは、ウチで見習いしてた時にも通報しやがった。怪しいのはサールさ!」
「サールは犯人じゃない。昨夜はアリバイがある。ダーツ大会で3位と言ってたけど、実はブービー賞だったけど。貴方はどうなの?」
「家で寝てた。女房に聞け。死んだ記者とは、ホットドッグの話しかしてナイ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
やたら堂々と取調室を出て逝く"正真正銘マチガイダ"のYUI店長。コイツらには背番号が必要だ。
「あのYUI店長は、絶対に何か隠してるな」
「でも、証拠がナイわ。昨夜の被害者の行動だけど何かわかった?」
「銀行からの連絡待ちだけど…何処にも電話はかけてナイ。通話記録によると、ここ数日は担当の編集者にしかかけてナイ」
ヲタッキーズのマリレが振り向き答える。
「調査取材をしてる記者なら、色んな人に電話スルハズだけど」
「潜伏してたホテルで別の電話を使った可能性がアルわ。写真の女性は?誰かわかった?」
「離婚した元妻じゃナイことは確認した。もう何年も会ってナイって」
ソコへエアリが駆け込んで来る。
「進展よ!バンスは物静かな男だとみんな思ってるけど、アパートで聞き込みをしたら、彼が大声で喧嘩してるのを隣人が目撃してた」
「やった!喧嘩の内容は?」
「ソレがね…相手の男は、こう言ってたそうよ"ソレを記事にしたら、お前を殺してヤル"」
エアリは、そう逝いながら僕を指差す。何で?
「その男の特徴は?テリィたんに似てるの?」
「いいえ。ヒントは"絶対絶命"」
「じゃソイツを指差せよ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
取調室。"絶対絶命マチガイダ"のYUI店長ことルカス・サリニ。4人の店長の中では1番お洒落だ。
「確かにバンスと喧嘩した。いくらヲタクの街だとはいえ、喧嘩ぐらいはしても良いだろう?」
「良いけど、ソレは脅迫罪なのょルカスさん」
「あと殺人罪もな」
溜め息をつくルカス。
「昨夜は家にいたさ」
「うーん奥さんは別のコトを言ってたぞ。昨夜は奥さんが眠るのを確認してから、12時前にコッソリとベッドを抜け出した」
「そして、神田山本町に住んでるクソ女のトコロに貴方が行った、と気づいた奥さんは、今朝、貴方を問い詰めた。すると、貴方は店の警報機が鳴ったと苦しい抗弁をした」
やっと僕の番だ。あぁ楽しいなー。
「でも、店の警報機は鳴ってナイ」
「さ、ルカスさん。貴方は誰にウソをついてるの?私?それとも奥さん?」
「モチロン、妻にだ。愛人のアジィに聞いてくれ」
鮮やかに即断するルカス。きっと幾多の修羅場を潜り抜けて来たに違いない。男として尊敬に価スルw
「でも、愛人ちゃんもウソをつくかもしれないわ。どうして、バンスと喧嘩したの?」
「アイツの記事で、俺は、危うく全てを失うトコロだったんだ」
「え。どんな記事なの?」
急に声をヒソめ、小声になるルカス。
「ウチの看板メニューのダイエットピザだが、なぜアレほど美味いかわかるか?…ソレはな、実は普通のチーズを使ってるからだ。ダイエットでも何でもない」
「だから、殺したのか?」
「だから、殺してナイ」
あれれ1枚上手か?ますます嫌な奴w
「昨日、あるコトに俺が協力すれば、記事にはしないと電話があった」
「協力って?」
「詳しくは今日聞くハズだった」
ホント手強い。キメ台詞でタイに持ち込む。
「解決するまで、アキバを出るな」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の捜査本部。
昨日、バンスはルカスに何処から電話して来たのだろう。捜査本部でエアリがスマホを切る。
「ROG。どうもね…バンスが電話したのは神田リバー沿いのホテル"アキバエンペラー"」
「エンペラー?ラブホじゃナイか?!」
「何で知ってるの?」
しまったw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
掃除の人と思ったらオーナーのおばちゃんでラギィがバッジを出すとマスターキー持参で来てくれる。
「うーんマトモな部屋だ」
「何を考えてたの?木馬とかハリツケとか?」
「…現金払いか。署名は偽名のメルビル。バンスはこんなトコロに身を潜めてたンだな」
興味津々のおばちゃんにチップを渡して追い払う。
「PCが手つかズだ。どれどれ?"秋葉原ホットドッグ戦争 authentic terrific hot dog wars"か。文章は、鋭く優美だ。しかし、内容は平凡」
「いわゆる提灯記事ね」
「ニンニクの香りがしてきそうな、食欲をそそる記事だが、マジでホットドッグのコトしか描いてナイ」
ラギィと速読で目を通す。
「殺された理由も描いてナイわ」
「お?最近の取材メモ、発見。ホットドッグのコトやレシピや…ん?コレは!」
「何?」
手にした手描きのメモ帳を見せる。
「見ろょ。昨夜誰かと会ってたみたいだ。ココに描いてアル電話番号が相手だな。死ぬ直前だぞ」
「調べてみるわ」
「え。アプリで?」
ドヤ顔のラギィ。
「万世橋専用のAIアプリょ」
「おおっ!ちょっち見せてょ」
「ダメょ」
何と見せてくれないw
「取材メモには、ミチル・フレルとかセツナ・アダソの名前がアル…何処かで聞き覚えがアル名だな」
「見て。彼女を覚えてる?」
「お!バンスが持ってた写真の女子だ」
ドヤ顔+上から目線のラギィw
「モニカ・ワアトだって」
「バンスと最後に会ったのは彼女だ」
「2人でホットドッグでも食べたのかしら」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
高級タワマンの中層階。広い廊下のアチコチに、ムダにソファとか置いてアル。誰が座ルンだょ?
「ずいぶんと高級ね」
「こりゃ絶対マネーロンダリングに関与してるな。
スイスの銀行口座に金を移動させてたンだ。ミチルとかセツナとか名乗って」
「ソレか調べた通り、タダの不動産業者カモ?」
ラギィは、余り期待してナイw
「不動産業は絶対に隠れミノだな」
「テリィたん。貴方、ヲタクになる前は妄想の友達がたくさんいたでしょ?」
「今でも、たくさんいるけど」
ドアが薄く開く。
「何か御用?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
黒髪。知的な美人だ。クラスの委員長タイプw
「未だ持ってたなんて…初デートの時です」
「交際期間は?」
「数ヶ月。コレは3年前に撮ったものだわ」
ラギィに写真を返すモニカ。どストライクだょ←
「彼の娘が亡くなって…その後も何回か会ったけど、どんどん別人になって…そのうち疎遠になったの」
「昨日の夜、彼と会いましたね?」
「昨日の夜は会ってないわ」
どーゆーコト?
「でも、彼の取材メモに、夜22時に貴女と会うと走り描きがあったわ」
「デートの約束をしてたけど、彼は現れなかった」
「…何年も会ってなかったのに、どーやって会う約束をしたのかな?」
澱みなく反応w
「先日、ばったり道で会ったの。不思議だったわ。会ったのは、私も彼も普段は行かない神田松住町だったから。彼は、記事を描いてたみたい」
「何の記事でした?」
「さぁ」
完璧な受け応え。うなずくラギィ。
「バンスの様子は?不安そうだった?」
「いいえ。昔のママだった。ゴドンらしい。何かを追ってたわ。図書館で調べモノをしていたそうょ。何か重大な発見をしたみたいで、子供みたいに興奮してた」
「バンスが図書館?ミチル・フレル、セツナ・アダナ。この2つの名前に何か聞き覚えは?」
ユックリと首を振る。
「聞いたコトもナイわ」
第3章 ハレー彗星が外部太陽系である理由
捜査本部にとって返す。
「モニカはシロだわ。不動産の仲介業者仲間では、彼女は手数料にうるさい女と思われてるみたいね。テリィたん、取材メモには何かあった?」
「何もない。ホットドッグのネタだけだ」
「ねぇバンスの口座を洗ってみたの」
マリレが話に加わる。
「昨夜は動きはあった?」
「妙なコトがあった。夜の23時15分にATMを使ってルンだけど…」
「どこのATM?」
ラギィが関心を示す。
「"正真正銘マチガイダ"から15ブロックあまり。治安が良くない場所ね。ソレに変なのは、彼は取引を終えてナイの」
「キャンセルしたのか?」
「うーんキャンセルではなくて、1分間操作をしなかった。で、取引は自動キャンセルになった。まるで…」
僕の妄想!
「オペレーション中に何かあったんだ!月の光が差して狼男に変身しちゃったとか」
「…明日、ATM界隈の防犯カメラを調べてみる」
「私は、明日の朝、図書館に行って来るわ。バンスが何を調べていたのかを知りたい」
完璧なる無視w
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜の"潜り酒場"。スピアが…泣いてるw
「どうしたんだ?」
「スピアがロレンのお誕生日会に乗り込んだんです。私は、ヤメとけば良かったと思いますが」
「ソレで?あくまで予想だけど、乗り込みには失敗したのかな?」
メイド長のミユリさんが、カウンターから出てソファ席で泣きじゃくるスピアを慰めている。
「全部ロレンのせいよ。ロレンがビッチだからいけないのよっ!」
「おいおい。ビッチって…」
「テリィ様、仕方ありません」
ミユリさんは、片手を挙げて僕を制スルw
「バンドの演奏中に、私のシン彼のシュリをステージに上げてキスしたんだよっ?」
「そりゃ確かにビッチだなw」
「ナゼあんなコトが出来るの?ヒド過ぎるわ」
またまた大泣きのスピア。だが、パーティドレスで泣きじゃくるスピア…萌えるな。何で別れたのか←
「で、シュリは?」
「驚いてステージから逃げた。私と2人で帰ったわ。帰り道、何度も不意打ちだったと謝られた…ロレンは、私とシュリを別れさせようとしてる。今までズッと親友だと思ってたのに!」
「でも、別れなかった。ソレどころか、スピアとシュリの絆は深まって、ロレンはバカにされるハズ」
膝の上のスピアの髪を撫でるミユリさん。
「ミユリ姉様!ソレが、みんなはシュリが浮気したと思ってる。だって、ビッチなロレンがキスの画像をSNSで拡散してるから。悪夢ょ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
翌朝。オレンジ色の朝焼けが神田リバーの川面と和泉ブリッジを染め上げる。新しい24時間の始まり。
「ヲハヨー!」
両手にコーヒーのベンティカップを2つ持ち、万世橋の捜査本部に、口笛を吹きながら登場スル僕。
「エアリ、ラギィは?」
「図書館で何か調べモノだって」
「バンスが何を調べてたかを調べてルンだ」
ココで、いつもはラギィに買って来るコーヒーのベンティカップを恭しくエアリに手渡す。効果は覿面。
「エアリ。確か南秋葉原条約機構のハッカーチームに友達がいたょな。ソイツにお願いして、ネットに流れた画像全数を追跡削除して欲しいんだ」
「またテリィたんと何処かの若いメイドとの絡みの写真?ミユリ姉様は知ってるの?」
「今回は知ってる。ってか、今回は僕じゃなくてスピアなんだ」
エアリのウンザリ顔は変わらない。
「元カノのためってコト?ちょっと怖くなってきたんだけど、何?」
「意地悪な子がスピアのシン彼にキスした画像がネットに流れたンだ」
「あら。そーなの?姉様も御承知なのね?わかった。レイカ司令官にバレないよう、コッソリ頼んでおくわ」
コロリと態度が変わるエアリ。レイカは、SATOの司令官で傭兵集団であるヲタッキーズの雇主だw
「助かるよ。レイカはともかく、ラギィには黙っててくれ。こーゆーのガミガミうるさい…」
エアリが愉快そうに笑い、口をつけようとしたベンティカップをヒョイと取り上げてラギィの登場だw
「捜査中に個人的なお願いゴト?」
「なんだって?何のコトだょ?そんなバカなコトを逝うな。な?エアリ」
「え。まぁね」
慌ててメアドのメモをメイド服に隠すw
「ソレで、何か図書館で発見はあった?」
「バンスが調べていたのは、2010年代に殺されたハレー・ロメロって"覚醒剤"の密売人についてだった。彼女は"リアルの裂け目"が開いて、腐女子の"覚醒"が始まった頃の"覚醒剤"の密売人の草分け。売人になる前は、秋葉原の地下でコスプレプロレスをやってて、リングネームは"ハレー彗星から来たセーラー戦士 ハレー・ロメロ"。宣材写真を見る限り冗談じゃないけど」
「当時、地球に接近してたハレー彗星に因んだセーラー戦士か。やっぱり外部太陽系戦士なのかな?しかし、ホットドッグとの関係が不明だね」
確かにセーラー戦士のプロレスは数あるが、彗星系は盲点だな。白色彗星戦士とか悪役に良いカモw
「…ねぇエアリ。4軒の従業員を調べた?特に麻薬犯罪歴だけど」
「概ね。いずれも重罪を犯した奴はいないわ」
「ロメロという名前からしてストリートマフィア関係かもな。うわ!ハレーって、トンでもなく恨まれてたんだな。音波銃で何発も撃たれ、最後はドラム缶に詰められ萌やされたらしいぞ」
ラギィが"図書館"で調べて来たデータを転送してもらって読む。しかしドンな"図書館"ナンだょ?
「縄張りをめぐって殺されたみたいね。密売人にアリがちな最後ね」
「何でバンスは、こんな奴を調べてたんだろう?コスプレプロレスのコアなファン?」
「ねぇATMの防犯カメラ映像が届いたわ。見て」
マリレのPC界隈に集まる。動画スタート。
「何かから逃げてる?」
「ココからがヤバいのょ」
「あ、カメラを意識した」
何かメモしながらチラリとカメラ目線w
「コレは…ATMに用事があるンじゃナイ。この画像を見る誰かに何かを訴えてルンだ」
「確かに。ソレに何かを描いてる。何かしら?」
「あっ!」
突然!必死にメモを描くバンスに凶器を持ったセーラー戦士が襲いかかり、瞬時に2人は画面から消える!
「巻き戻して!…ソコで止めて!凶器ょ!レフリー、反則攻撃!」
「まさか犯行の瞬間を捉えるとはな。セーラー戦士を拡大出来るか?」
「テリィたん。この顔を見て」
激しい動きに画像はブレているが…
「彼女だ。"ハレー彗星から来たセーラー戦士 ハレー・ロメロ"。やはり外惑星系だったのか」
「外部太陽系戦士。死んでなかったのね」
「死んでないドコロか…生きてる」
呆気にとられる僕達。
「逃げ続ければ助かったカモしれないのに」
「逆に逃げ切れないと覚悟してアキバに戻ったのカモ。で、奴はメモに何て描いてるのかな」
「今、鑑識が解像度を上げて調べてる。でも、いずれにせょホットドッグとは何の関係もナイわ」
結論を急ぐラギィ。
「今回の事件自体が、ホットドッグとは無関係ナンじゃナイの?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
アキバ発の巨大メディア企業"ワラッタ・ワールドワイド・メディア"のベッドオフィス。
「さぁ見覚えは無いわ」
「彼が記事の中でハレーに触れたコトは?」
「ハレーの事件の時、バンスは湾岸戦争の取材で中近東にいたハズょ」
ソレもそーだ。
「ミチル・フレルとセツナ・アソナという名前に聞き覚えは?」
「アルわ。いずれも映画版セーラー戦士に出て来る外部太陽系ヒロインの本名と同じ」
「そっか!ミチルは天王星系、セツナは冥王星系だ。当時は惑星だったからな」
海王星は、男子的に人気がナイのでカットだ。
「バンスは、その名前をメモしてたの?」
「YES」
「実は、バンスは"覚醒剤"の密売シンジケートを追っていた。秋葉原で"覚醒剤"が欲しい時に使われるコードネームは、いずれも映画版セーラー戦士に出て来る登場人物の名前ナンだって。ソレを取材してたせいで、彼は死んだのょ」
"リアルの裂け目"の影響で腐女子が超能力に"覚醒"スル例が相次ぐ今日、"覚醒"を焦る腐女子相手に売られる廃人化の危険がある麻薬。ソレが"覚醒剤"だ。
「バンスは、提灯記事ライターに成り下がったンじゃナイのか?」
「そのフリをしながら、彼は"覚醒剤"のシンジケートを追っていた。フリをしていたのは、シンジケートのリーダーが"秋葉原最大の恐怖セーラーギャラクティカ"だったからょ」
「え?誰?ギャラクシアじゃなくてギャラクティカかょ?ギャラクティカってセーラー戦士だっけ?so say we all?」
頭が混乱。が、ヲタク的に許せない誤りカモ…
「とにかく!バンスは"秋葉原最大の恐怖 セーラーギャラクティカを追って殺されたのょ!」
「あのさ、ギャラクシア…」
「待って。"セーラーギャラクティカ"ナンて実在しない。都市伝説ょ。"覚醒剤"の密売人が殺される度に"ギャラクティカ"の仕業だと噂が流れる。でも、リアルで見た人は誰もいないの」
あぁとうとうギャラクティカになっちゃったょw
「"ギャラクティカ"は、最初は中華の国のアヘン王が仕切るコスプレプロレスのリーグに所属していた。アヘン王は彼女を愛したが、ある日、彼女はアヘン王を殺して、その子供達のノドを切り裂き、リーグを乗っ取った」
「だ・か・ら!ソンなの、タダの作り話だって!」
「でも、バンスはそうは思わなかった。先日、彼は"ギャラクティカ"に近づいたと私に言って来た。ところが、その翌日、彼と娘が歩いているトコロに車が突っ込み、バンスの脚は粉々に砕け、何メートルか先で血だらけになっている娘を抱き起こすコトさえ出来なかったの」
僕達は息を飲み、声も出ない。
「"秋葉原最大の恐怖セーラーギャラクティカ"は実在スル。都市伝説ナンかじゃナイの。so say we all」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
捜査本部のホワイトボード。バンスの横にハレーの画像を張る。僕は溜め息をつく。
「バンスは、エイハブ船長。"セーラーギャラクティカ"は白鯨だ。そー逝えばラブホのサインもメルビルをモジッてたな。バンスはそーゆーイタズラっぽいユーモアが好きナンだ…ラギィは"セーラーギャラクティカ"については、いつ知ったの?」
「確か"覚醒剤"の密売人が大勢殺された2010年代の中盤ね…あら?ハレーが消えた時期と同じだわ」
「ハレーは、死んだフリをしてライバルの密売人達を殺してた。そして、実在しない架空の"セーラーギャラクティカ"のせいにしてたんだ。ソレが都市伝説の始まりさ」
エアリが呼びに来る。
「ねぇATM映像の拡大が出来たわ…うーん未だ文字は見えないわね」
「もう1度…繰り返して。映像を逆さに出来るか?」
「ROG」
僕は、メモを描くバンスの手の動きをマネる。
「テリィたん。何やってンの?」
「僕は描くコトが商売だ。同じ手の動きで何を描いたかをナゾってる。良いな。こんな感じ?」
「テリィたん。5カモょ?」
OK。S、もしくは5だ。127?
「住所ね?BS…」
「ベースメント。地下だわ。西127丁目365の地下室?」
「例のATMの直ぐ近くだ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
突入!
「万世橋警察署!万世橋警察署!」
「警察ょ!動かないで!」
「アキバP.D.!」
ライトと音波銃を片手に、地下室へ飛び込む!
「クリア!」
「コッチもクリア…モヌケの空か」
「コーヒーミルに包み紙。"覚醒剤"の製造所に間違いナイわ。鑑識を呼んで調べてもらって。ココで、誰が何を見たのか、何でも良いから情報が欲しい」
僕が続ける。
「エイハブ船長は、白鯨を見つけた。そして…殺されたンだ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜。"潜り酒場"に御帰宅スルと慌ててお出掛けして逝くスピア。何だ?
「じゃね。姉様」
「おいおいおい。スピア、何処逝く…わ、その顔はどーしたの?」
「…別に」
何と右目の横に…引っ掻き傷。乙女の顔に…
「何だょ話せって」
「ロレンょ。絡まれた。パーティを台無しにしたとか、彼女のアカウントにハッキングして、SNS中を総ざらいしてキス画像を削除したって。私、ハッカーだからワカル。国家権力でもなければソンなコトは不可能ょ」
「(そーでもナイけどw)で、スピアは何て?」
因みにSATOは国連直属の超法規・超国家組織だ。何しろ人類が地球上で進化する根幹に関わってる…
「裏切り者って言ったら引っ掻いてきた。だから…」
「だから?」
「ロメロ・スペシャルをキメた」
あぁ神田明神も照覧あれ。
「ソレ駄目でしょ」
「わかってる。確かに私らしくない。自分が自分じゃナイみたい。パーティに乗り込んだり、プロレスごっこしたり…でもね、テリィたん。あんなヒドいコトされたんだょ?」
「気持ちはワカル。でも、報復は良くない。やり返せばまたヤラれるだけだ。最終的には、どちらかが鉄板で生首を焼かれる」
思わズ首をさするスピア。
「つまりさ。きっと、今後も裏切り者や意地悪な子は現れるけど、そのためにも、お前は賢くなきゃ。そして乗り越えルンだ。OK?」
「…わかった」
「じゃハグだ」
両手を広がるがスピアは来ないw
「で。結局、勝ったの?」
「ギブさせた」
「自慢の元カノだ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
翌日の捜査本部。
「もっと早くから僕が間に入れば良かったな」
「テリィたんが何をしたってロレンは意地悪を止めなかったでしょ。目的を持った女は怖いの」
「多彩な元推し達で充分懲りてる」
ラギィとコーヒーのマグカップ片手に話してたら、エアリが顔をのぞかせる。
「あの製造所で作られたは"覚醒剤"が東秋葉原で流通してた。"セーラーギャラクティカ"の件は、も少し情報が集まるまで、指名手配はやめといた方が無難カモ」
「そっか。ハレーは"ギャラクティカ"の恐怖を利用する一方で"覚醒剤"密売の隠れ蓑にホットドッグ屋を使って儲けてたンだ」
「そうね。店に家探しをかけたいけど、具体的な証拠を集めないと捜索令状が出ないわ」
マリレも割り込んで来る。
「製造所からは意味アル指紋は出なかったわ」
「やっぱり?バンスが襲われるのを目撃した人は?」
「もともと治安が悪い場所で、誰も見てないの。でもね。コレを見つけた。ATMの近くの排水溝に落ちてたわ」
証拠品袋入りのスマホを示すマリレ。
「バンスの?」
「YES」
「おいおいおい。ソレって変じゃないか?従軍記者だった彼が誰かに追われている時にスマホを落とすようなドジを踏むか?」
すると、ラギィも同じ思考を口にスル。
「ワザと落としたとか?」
「奪われては困るからな。誰かに拾われるのを期待して捨てたんだ。ATMのメモの時みたいに」
「命に代えた情報が入ってるカモね」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋に持ち帰り、技術チームがパスワードを解析すると、スマホは溜め込んだ情報を吐き出す。
「110番を押した形跡がアルけど発信はしてないわ」
「どーせ役に立たない。"覚醒剤"の製造所を調べてたンだ」
「はい。お待ちかねの写メ画像ょ」
ラギィがスマホを操作すると、工場らしい街角の写真がたくさん出てくる。その1枚に女。拡大スル。
「モニカ・ワアト?彼女が関与してるの?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「モニカ!モニカ・ワアト!万世橋警察署ょ!」
高級タワマンのドアを乱打するラギィ。同時に中から悲鳴が上がり、何かモノが割れて、壊れる音w
「モニカ?」
「下がって。マスターキー!」
「アキバP.D.だ!」
ショットガンで鍵を撃ち抜き、突入スル。モニカは床に倒れている。額からは赤い血が1筋。
「バックをとられてロメロ・スペシャルをキメられた。ギブするしかなかったわ!」
「窓から逃げた?"覚醒"したスーパーヒロインなの?行くわょ!」
「誰にヤラれたんだ?」
激しく首を振るモニカ。
「ダメ。言えば殺される」
「そんな場合じゃナイってワカッテル?他にいつ話すの?今でしょ」
「…私を襲ったのは"ハレー彗星から来たセーラー戦士 ハレー・ロメロ"」
開け放たれた窓。風に揺れるカーテン。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
額の傷に濡れタオルを当て、応急処置ながら止血したモニカに話を聞く。
「確かに、私はバンスと交際してた。私は真剣だったけど、彼は違った。全ては、私を通じて"セーラーギャラクティカ"に近づくためだったの。ショックだったわ」
「モニカ。貴女は不動産業者だろう?なぜ密売人と関わるんだ?」
「テリィたん。あーゆー製造所ってね、月に1度は移動させないとダメなの。移動先の情報は、いつも私が提供してた。でも、ホントはソンなコトはしたくなかった。しかも、こんなコトにナルなんて」
腫れた目に涙を滲ませるモニカ。
「なら、なぜ始めたの?」
「問題が起きた。数年前、借金を作っちゃって。すると、ある男が助けてやると言って来た。条件は、タマに力を貸すコト。その時は、害がないように思えたの。だけど、その男は知ってた。誰も知らないハズの私の秘密まで。だから、怖くても逃げられなかった。ゴドンの娘も殺された。先日、ゴドンに協力してくれと頼まれたわ。こんな生活から君は自由になるべきだと言われた。だから、製造所に連れて行ったの。そしたら、ゴドンは死んだ。次は、きっと私の番ょ!」
「"秋葉原最大の恐怖 セーラーギャラクティカ"って誰なの?」
涙が飛ぶほど激しく首を振るモニカ。
「会ったコト無いわ」
「今、バックをとられ、ロメロ・スペシャルをキメられたンでしょ?」
「知ってたら、とっくにゴドンに歌ってる。私にロメロをキメたのは、彼女のタッグパートナーょ」
コレは、タッグマッチだったのか?!
「タッグパートナーは誰?」
「名前はハレー。"ハレー彗星から来たセーラー戦士 ハレー・ロメロ"ょ」
「彼女?」
セーラー戦士のコスプレ写真。うなずくモニカ。
「やっぱりハレーがギャラクティカなんだ。伝説の"秋葉原最大の恐怖"は意外と身近にいた」
「彼女は何処?」
「知らないわ」
傷に当てたタオルで涙をぬぐう。
「貴女だって、こんな生活は終わらせたいでしょ?協力して。ハレーがホットドッグ店を使って"覚醒剤"を密売してたコトはわかってる。4軒あるマチガイダの内、どのマチガイダかを教えて」
「わからない。悪いけど私は知らないのょ!」
「ねぇ上空を探して来たわ。でも、逃げられちゃったみたい」
ヲタッキーズの2人が続々戻る。エアリは飛行呪文で、マリレはロケットガール装備で空を飛ぶのだ。
「モニカを"外神田ER"へ連れて行って。その後、ウチの麻薬課に引き渡して。話してもらうわ」
「モニカ。最後に聞きたいンだけど、ミチル・フレルとセツナ・アソナの名前に聞き覚えは?」
「ソレは"ギャラクティカ"が使う暗号よ。ゴドンは、その名前をホットドッグ屋で聞いたと言ってた。でも、コードネームは毎週変わる」
ソレは厄介だ。
「今週の暗号は?」
「確か映画版の最終話でセーラー戦士を担当スル声優だと言っていたわ」
「最終話は"セーラーコスプレモス 後編"じゃナイか。名作だぞ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
捜査本部でホットドッグ戦争が勃発だ!
「この"正真正銘"野郎!」
「なにを!"絶体絶命"め!」
「良いから落ち着いて!離れて!」
大の男が4人。捜査本部で取っ組み合いの喧嘩を始める。ソレを必死で止める2人のメイド。
「ラギィ!このママだと、本部で死人が出るわ!何してるの?早くして!まさか、テリィたんとデート気分?あのね、貴女は元カノなのょ!」
「落ち着いて。もうちょっとだから。あと2軒。待ってて…うふふ。腕、組む?」
「(もう組んでるしw)しかし、ムーンの声ってアラ還だったのか。どーしたら、あんな声が…」
赤白チェックの洒落た制服に、およそ似つかわしくないイカツい顔の店員がヤタラとドスを効かせるw
「ご注文は?」
「いや。予約してたハシバ・ノコトだけど」
「にしては、お若い。そもそも男だし…わかりました。お待ちください」
赤白チェックの、絶対に元ギャングに違いない顔の男は店の中に消え、テイクアウト用の紙袋を持参。
「お待たせしました。オーナーから聞いてます。お代の方はツケで」
「そっか。ありがとう」
「毎度ありがとうございました」
紙袋を受け取る。パーツ通りに出て中を見ると…果たして、小袋入り白い粉。ズッシリ詰まってるw
「出たょ。大当たりが出ましたょ」
微笑みを交わす僕とラギィ。何だか昔みたいだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の取調室。"真っ当派マチガイダ"のYUI店長ことサール・ラボル。
「"覚醒剤"の所持、密売。そして"覚醒剤"取引の共謀。もうコレだけで軽く懲役30年は確実ょサール。もちろん、その間"真っ当派"のホットドッグは焼けないわ。人生を諦めて」
「ソレにバンス殺害も入れたら良くて終身刑、悪けりゃもしかして…」
「ヤメてくれ!バンスの生首には関係してない。絶対にな!」
サール、絶叫w
「ホントかしら?生首をライバル店の鉄板で焼いたのはハレーの独断だったと言うの?」
「鉄板に生首だぜ?あくまで、ホットドッグにこだわるアンタの案だろ?」
「違う!全部こいつだ!」
机上のハレーのコスプレ写真を指差す。
「あら。自分は被害者だと言いたいの?」
「諸手を挙げてYES, YES, YES。俺の店の経営がヤバい時にハレーが話を持って来たのさ。その代わりに何に使うか知らんが、一晩だけ店を貸せば俺の夢を叶えるって言われた」
「お前の夢?世界平和か?」
まさかなw
「…ハレーのボスが"正真正銘マチガイダ"を萌やしてくれるコトになっていた…俺らしくナイ!そもそも、俺はソンなコトをスル人間じゃなかったンだ。ただ、他の店から年中嫌がらせをされて、頭がおかしくなってたんだ!」
「生首を鉄板で焼いたのはなぜ?」
「ハレーがウチの鉄板で何かを萌やしたいと言って来た。何を萌やしたいのかは、あくまで知らなかった」
僕は首を振る。
「でも、生首だと知ってたょな?」
「俺は断ったさ。ウチの鉄板で焼くナンて、トンでもナイって。でも、まさかラフルの鉄板で焼くとは思わなかった!」
「あのね。幸いなコトに、ウチの署は最高検察庁の次長検事ドノに大きな貸しがアルの。貴方が望むなら、彼女に口添えしてあげても良いわ」
元カノのミクスに貸しがアルのは"署"じゃなくて"僕"だが、サールはラギィの方に手を合わせるw
「頼みます」←
「じゃ協力して。"秋葉原最大の恐怖 セーラーギャラクティカ"の逮捕に」
「ソンな…用があれば"ギャラクティカ"の方から降臨スル」
心底残念そうな顔をスル僕達。大袈裟に溜め息w
「あら?全然協力になってナイわ」
「"覚醒剤"がなくなった時は、電話をすれば"ギャラクティカ"が補充に来るシステムなんだ」
「(ソレってシステム?)じゃ電話して」
泣きそうな顔になるサール。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
"真っ当派マチガイダ"の前に流行りの水素カーを乗り付け手錠付きのアタッシュを持ち、降車スル。
彼女は…セーラー戦士のコスプレw
店のテイクアウトカウンターにアタッシュを置く。店内には…ムーンライトセレナーダー!
セーラー戦士 vs 秋葉原メイド。いや秋葉原最大の恐怖 vs アキバ最強スーパーヒロインだ。
「ムーンライトセレナーダー?!なぜ?」
"セーラーギャラクティカ"ことハレーが振り向くと、左右にヲタッキーズ。そのままバックをとられツープラトン・ロメロ・スペシャルで吊り上げられる。
絶叫。たまらずギブアップ。
第4章 延髄切りからの生首騒動だった件
伝説の"秋葉原最大の恐怖 セーラーギャラクティカ"こと"ハレー・ロメロ"容疑者は隣の部屋だ。
彼女をマジックミラー越しに見る隣室で小声で話す。
「弁護士を呼べって言ってます」
「うーんATMの映像やら証言やらアルから弁護士もタイヘンだな。しかし、良く考えたな。"ギャラクティカ伝説"でアキバの恐怖を煽り、みんなの注意がソッチに向いてる隙に自分は"覚醒剤"の密売を繰り返してた」
「確かに、私達警察の関心は"ギャラクティカ逮捕"だった。でも、奴は永遠に捕まらないわ。だって、実在しないンだから」
溜め息をつくラギィ。
「とにかく、ハレーの有罪は確実だな」
「ねぇラギィにテリィたん(呼ぶ順が逆だw)!モニカの話を聞いたわ。とても協力的だったわ」
「そう。じゃモニカは釈放ょ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
"セーラーギャラクティカ"が"秋葉原最大の恐怖"なので、念のためミユリさんにスーパーヒロインに変身してもらったけど、どーやら事件も終幕だ。
「しかし、バンスは気の毒だな。娘を殺した犯人に近づいたのに、逆に殺されるナンて」
「でも、その犯人は裁きを受けるのですから」
「うん。でも、何か変ナンだょ」
変身を解いたミユリさんと@ポエムでデート中。国民的メイドのヒロミが挨拶に来る(ミユリさんにw)。
「バンスは必死に逃げてた。なぜスマホを落としたんだろう?」
「テリィ様は、自分が殺されるとわかったから、誰かに真相を伝えたかったからだと仰ってましたけど?」
「でもさ。真相って何だょ?だって、結局、あのスマホのデータには"セーラーギャラクティカ"の画像はなかったンだぜ?」
すると、何とミユリさんは小首を傾げる。いつもはオネダリの時にしか見せない"必殺ポーズ"だ。
勝負口紅"真実の言葉"の赤い唇がゆっくり動く。
「確かに。だって、スマホに写っていた画像は…」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
昼下がりの昭和通り。不貞腐れた表情で肩を怒らせ歩くのはモニカ。炎熱空気の中を泳ぐように歩く。
肩をつかまれる。
「モニカ・ワアトさん」
「何?自衛隊の勧誘?…え。ムーンライトセレナーダー?モノホン?」
「ごめんなさい。いくつか質問を」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
SATO司令部は、パーツ通りにあるゲーセンの地下深く秘密裡に作られ、日夜敢然と立ち向かってる…
何に?
「ムーンライトセレナーダー!もう1時間以上も待ってルンだけど!」
「"ハレー・ロメロ"こと"セーラーギャラクティカ"こと"モニカ・ワアト"さん。実に、不思議な事件だったわ。この事件では、誰もが裏の顔を持っていた」
「先ず"モニカ・ワアト"だ。君は2019年に池袋の乙女ロードから引っ越して来たね?」
清潔な白い部屋だが、実は"捕虜尋問室"w
「えっと。アンタは国民的SF作家のテリィたんだっけ?YESょ。でも、ソレが何?」
「調べたら、モノホンのモニカ・ワアトは去年"覚醒剤"漬けで至近距離から音波銃で射殺され、神田リバーに捨てられてたわ」
「"秋葉原最大の恐怖 セーラーギャラクティカ"の都市伝説が始まったのは、その半年後。セーラー戦士の"覚醒剤"の密売人が、縄張り無視で他の密売人を殺しまくってるって"ウワサ"が広まった」
美しい顔を醜く歪め、鼻で笑うモニカ。せっかくの黒髪で知的な委員長タイプが台無しじゃナイか!
「ソレが私の仕業だと言うの?ねぇ私は不動産業者なのょ?」
「ええ、知ってるわ。でも、貴女の不動産はどれもネットでしか確認するコトが出来ないの」
「だから、何?」
淡々と語るムーンライトセレナーダー。
「貴女の顧客名は、モルガにバームにフラウ。みんなセーラー戦士の映画版で敵方の登場人物の名前ね」
「リフレッーシュ!」←僕w
「貴女は"覚醒剤"で大金を稼ぎ、ソレを不動産で稼いだ金だと偽り、マネーロンダリングしてた」
彼女の収益をグラフ化して示す。右肩上がりw
「"秋葉原最大の恐怖 セーラーギャラクティカ"の伝説も、君自身がプロデュースした」
「伝説?でも、秋葉原のヲタク達は信じてたわ。モチロン、バンスも」
「そうだ。バンス。彼は、貴女の恋人ナンかじゃなかった。ソレどころか、鋭い直感で貴女のウソを見破り、取材で色々嗅ぎ回って…そして、彼は知り過ぎてしまった」
ミユリさん、じゃなかった、ムーンライトセレナーダーと"妄想"が完全に"シンクロ"しているw
「だから!貴女は、彼の娘を車で轢き殺した。ソレは彼への警告だったのね」
「愛娘を失ったバンスは、しばらくは大人しくなった。だけど、また、ホットドッグ戦争を取材スル内に、その鋭い"調査力"で再び貴女に行き着いた。ソレを知った貴女は、彼を殺すコトにした。そして、例によって誰かに罪を着せるコトにした。つまり、今回はハレー・ロメロにね」
「待って。私は奴に襲われたのよ?」
笑顔で反論するモニカ。
「あの状況で、ハレーが逃げ切れると思う? 2人の優秀なスーパーヒロインが奴を捕まえられなかった。ソレどころか姿さえ見てないの。あり得ないわ」
「自分を殴るとは、よくやったな。あ。今、気づいた。セーラー戦士の古い映画版には共通点がアル。ソレは…魔性の女幹部だ」
「…」
委員長は沈黙。やがて、その微笑が狂気に歪む。
「弁護士を呼ばせて」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜の"潜り酒場"。
「スピア!ちょうど良かった、御帰宅してるね?」
「眠りたくても眠れナイ…でも、ソレは"ヒートアップライス"?清澄白河までワザワザ買いに行ったの?」
「僕の元カノ会の会長のためさ。トッピングはバジルとソーセージ」
満面の笑顔が返って来る。カウンターの中では(変身してナイ)ミユリさんが小分けのお皿を並べる。
「例の問題は?」
「今日、思い切ってロレンと話してみたの。ロレンは、私が友達より彼氏を優先してると思って嫉妬してたみたい(当然だけどw)」
「(そりゃ当然w)で、どーしたの?」
"ヒートアップライス"を前に肩をスボめるスピア。
「うーんソレが…まぁハグして終わりって感じ?」
「え。仲直りしたのか?」
「(何その残念そうな顔w)未だ良くワカラナイわ」
うっとり目を閉じ、僕の肩に頭を乗せるスピア。
「(突っ込むなってコトか?)まぁ傷が癒えるには時間も必要だしな。とにかく、こーゆーのは先に謝った方が勝ちでもアルし…」
「うわっ美味しそう!」
「セネガルカレーver.だ。コレこそ正統派」
あ。ミユリさん、もう食べ始めてるw
おしまい
今回は、海外ドラマによく登場する"ホットドッグ屋"をテーマに、4人の個性的なホットドッグ屋の店長達、落ちぶれた巨大メディアの記者、その娘、彼を見守る編集者、猟奇的な殺人鬼を追う超天才や相棒のハッカー、ヲタッキーズ、敏腕警部などが登場しました。
さらに、主人公の元カノと嫉妬にかられた親友のお誕生会騒動などもサイドストーリー的に描いてみました。
海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、すっかり海外リゾート気分でハイセンスなファッションのインバウンドが増えた秋葉原に当てはめて展開してみました。
秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。