表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

田舎暮らしはじめました。~都会育ちOLの畑と猫とパン作り~

作者: kuni

煌々と明かりが灯る研究室。机に突っ伏したまま、セラフィナ・ウィズライトは目を覚ました。


「……あれ、ここは?」


見慣れない天井。薄暗い部屋。彼女は慌てて身を起こした。


「まさか、また徹夜……?」


しかし、視界に入ったのは、使い慣れた研究机ではなく、木製の質素なベッドだった。部屋には見慣れない衣服や装飾品が置かれている。窓の外には、見たこともない植物が生い茂る森が広がっていた。


「……ここは、一体?」


混乱するセラフィナ。彼女は、王宮付き魔導師として、日夜魔法薬の研究に明け暮れていた。過労で倒れたことは覚えているが、まさかこんな場所に……。


その時、ドアが開き、一人の女性が入ってきた。


「あら、起きたのね。気分はどう?」


女性は、温かい笑みを浮かべながら、セラフィナに近づいた。


「あなたは……?」


「私はエルマよ。このフローリア村に住んでいるの。あなたは、森の中で倒れていたところを、うちの息子が見つけたのよ」


エルマの説明によると、セラフィナは、森の中で倒れていたところを村人に発見されたらしい。怪我はなかったが、気を失っていたため、エルマの家で介抱されていたのだ。


「ここは、フローリア村……?」


セラフィナは、記憶を辿るが、そんな地名を聞いたことはなかった。


「そうよ。ここは、辺境にある小さな村なの。あなたは、どこから来たの?」


エルマの問いに、セラフィナは正直に答えることができなかった。自分が異世界に転生してしまったことを、まだ受け入れられずにいたのだ。


「私は……覚えていないんです。どこから来たのかも、なぜここにいるのかも……」


セラフィナの言葉に、エルマは驚いた様子を見せたが、すぐに優しい笑みを浮かべた。


「そうなのね。無理に思い出さなくてもいいのよ。とりあえず、ゆっくり休んで。何か困ったことがあったら、いつでも言ってね」


エルマは、セラフィナに温かいスープとパンを手渡し、部屋を出て行った。


一人残されたセラフィナは、窓の外を眺めながら、自分の置かれた状況を整理しようとした。


「異世界……転生……?」


信じられない思いだったが、目の前の光景は、紛れもなく現実だった。


「私は、これからどうすればいいんだろう……」


不安と孤独がセラフィナを襲う。しかし、同時に、どこかで期待感も芽生えていた。


「もしかしたら、この世界で、新しい人生を始めることができるかもしれない……」


セラフィナは、ゆっくりと深呼吸をし、決意を新たにした。


「まずは、この村の人たちに恩返しをしよう。そして、この世界について、もっと知りたい」


過労魔法使いセラフィナの、異世界スローライフが、今始まる。


エルマの家で数日過ごした後、セラフィナは村長に挨拶に行った。


「ようこそ、フローリア村へ。セラフィナさん、村の暮らしには慣れましたか?」


「はい、おかげさまで。村の皆さんはとても親切で、感謝しています」


「それはよかった。ところで、セラフィナさんは、これからどうするつもりなんです?」


村長の問いに、セラフィナは少し戸惑った。異世界での生活はまだ始まったばかりで、先のことは何も考えていなかったのだ。


「実は、まだ何も決めていなくて……」


「でしたら、こんな提案はどうでしょう?」


村長は、村はずれにある空き家と畑をセラフィナに紹介した。


「ここは、以前村人が住んでいた家ですが、今は誰もいません。畑も手入れができていないので、もしよければ、セラフィナさんに使ってもらいたいのですが」


セラフィナは、村長の申し出に驚きながらも、嬉しさがこみ上げてきた。


「ありがとうございます!ぜひ、使わせてください」


こうして、セラフィナは、異世界での新生活をスタートさせることになった。


空き家は、こぢんまりとしていたが、掃除をすると、日の光が差し込む明るい空間になった。家の裏には、広々とした畑が広がっていた。


「よし、まずは畑を耕すことから始めよう」


セラフィナは、魔法を使って土を耕し、種を蒔いた。


「育ってくれますように……」


セラフィナは、植物に語りかけながら、魔法の力を注いだ。すると、みるみるうちに芽が出て、葉が茂り、花が咲き始めた。


「すごい……魔法でこんなに簡単に作物が育つなんて!」


セラフィナは、魔法の力を実感し、興奮した。


畑仕事に夢中になるセラフィナ。ある日、薬草を探しに森へ入った彼女は、珍しい植物を発見した。


「これは……もしかして、この世界にしかない薬草?」


セラフィナは、植物図鑑で調べた知識を総動員し、薬草を鑑定した。


「間違いない。これは、傷を癒す効果がある貴重な薬草だわ!」


セラフィナは、薬草を大切に持ち帰り、魔法薬の調合を試みた。


試行錯誤の末、ついに魔法薬が完成した。


「これで、村の人たちの役に立てるかもしれない」


セラフィナは、魔法薬を持って村長の家を訪ねた。


「村長、これは私が作った魔法薬です。怪我や病気で苦しんでいる人がいたら、使ってください」


村長は、セラフィナの申し出に深く感謝し、魔法薬を受け取った。


翌日、村長の息子が怪我をした時に、セラフィナの魔法薬が使われた。すると、息子の傷はみるみるうちに治り、村人たちは驚いた。


「セラフィナさんの魔法薬はすごい!」


「本当に助かりました!」


村人たちは、セラフィナの魔法の力に感謝し、彼女を尊敬のまなざしで見つめた。


セラフィナは、自分の魔法が誰かの役に立てることに喜びを感じ、異世界での生活に希望を見出した。


「この世界で、私にできることを精一杯やろう」


セラフィナは、魔法の畑と薬草の恵みに支えられながら、異世界でのスローライフを歩み始めた。


魔法薬の効果は、たちまち村中に広まった。セラフィナのもとには、怪我や病気に悩む村人たちが次々と訪れるようになった。


「セラフィナさん、おかげで熱が下がりました」


「腰の痛みが嘘みたいに消えたよ!」


感謝の言葉がセラフィナを包み込み、彼女は心から嬉しかった。


ある日、村の広場では、子供たちが楽しそうに遊んでいた。セラフィナは、子供たちに魔法を教えることを思いついた。


「みんな、魔法に興味はある?」


セラフィナの問いかけに、子供たちは目を輝かせた。


「あるー!」


「魔法を使ってみたい!」


セラフィナは、子供たちに簡単な魔法を教えた。最初は上手くいかないこともあったが、子供たちはすぐにコツを掴み、楽しそうに魔法を使っていた。


「セラフィナ先生、すごい!」


「魔法って楽しい!」


子供たちの笑顔を見て、セラフィナは心が温かくなった。


そんなある日、村で夏祭りが開催されることになった。セラフィナは、村人たちと一緒に祭りの準備を手伝った。


祭りの当日、セラフィナは、魔法を使った出し物を披露した。色とりどりの光が夜空を舞い、幻想的な音楽が村中に響き渡った。村人たちは、セラフィナの魔法に魅了され、歓声を上げた。


「セラフィナさんの魔法は、本当に素晴らしい!」


「まるで夢を見ているみたい!」


祭りの後、村人たちはセラフィナを囲んで感謝の気持ちを伝えた。


「セラフィナさんのおかげで、今年の夏祭りは最高の思い出になりました」


「あなたは、私たちの誇りです」


村人たちの言葉に、セラフィナは胸がいっぱいになった。


そんな中、一人の青年がセラフィナに近づいてきた。


「セラフィナさん、あなたの魔法は本当にすごかった。僕は、ルークと言います」


ルークは、村長の息子で、狩人として村を守っていた。


「ルークさん、ありがとうございます。あなたの弓の腕前も素晴らしいですね」


二人は、魔法や狩りの話で盛り上がり、意気投合した。


後日、セラフィナは、ルークと一緒に森へ薬草を採りに行った。


「セラフィナさん、あなたは、なぜそんなに魔法に詳しいんですか?」


「実は、私は元々は別の世界の人間で……」


セラフィナは、ルークに自分の過去を打ち明けた。ルークは、驚いた様子を見せたが、すぐにセラフィナを受け入れた。


「セラフィナさん、あなたは、どこから来たとしても、もうこの村の一員です」


ルークの言葉に、セラフィナは安堵した。


しかし、その日の帰り道、二人は魔物に襲われた。ルークは、セラフィナを守ろうとして、重傷を負ってしまった。


「ルークさん!」


セラフィナは、必死でルークを村まで運び、魔法で応急処置をした。しかし、ルークの容態は悪化するばかりだった。


「ルークさんを助けるには、もっと強力な魔法薬が必要だ……」


セラフィナは、ルークを救うため、新たな魔法薬の開発を決意した。


ルークは、村で唯一の医者であるマーサの治療を受けていたが、容態は一向に回復しなかった。魔物の毒は深く、傷口は化膿し、高熱が続いていた。


「ルークさん……」


セラフィナは、ルークの苦しむ姿を見るたびに、胸が張り裂けそうだった。


「必ずあなたを助ける。だから、諦めないで」


セラフィナは、ルークの手を握りしめ、決意を新たにした。


彼女は、昼夜を問わず、薬草を集め、魔法薬の調合に没頭した。森の奥深くまで足を運び、希少な薬草を探し求めた。寝る間も惜しんで、古書を読み漁り、知識を深めた。


しかし、どんな魔法薬を試しても、ルークの容態は改善しない。セラフィナは、焦りと不安で押しつぶされそうになった。


「どうして……どうして治らないの?」


セラフィナは、涙を流しながら、ルークの枕元に座り込んだ。


「諦めないで、セラフィナ」


弱いながらも、ルークの声が聞こえた。


「僕が諦めるわけないだろう。君がそばにいてくれるだけで、僕は幸せなんだ」


ルークの言葉に、セラフィナはハッとした。


「そうだ、私は一人じゃない。ルークさんがいる。村の人たちがいる」


セラフィナは、ルークの言葉を胸に刻み、再び立ち上がった。


「絶対に諦めない。必ずルークさんを助ける」


セラフィナは、最後の望みを託し、村はずれの古代遺跡に向かった。そこには、伝説の薬草「生命の雫」が眠っているという言い伝えがあった。


遺跡は、魔物たちが巣食う危険な場所だった。セラフィナは、幾度となく魔物に襲われながらも、魔法で撃退し、奥へと進んでいった。


そしてついに、セラフィナは「生命の雫」を発見した。それは、淡い光を放つ、神秘的な植物だった。


「やっと見つけた……」


セラフィナは、生命の雫を大切に持ち帰り、ルークのために魔法薬を調合した。


「どうか、効いてください」


セラフィナは、祈るような気持ちで、ルークに魔法薬を飲ませた。


すると、ルークの体は、みるみるうちに回復していった。熱は下がり、傷口は塞がり、意識もはっきりしてきた。


「セラフィナ……」


ルークは、弱々しいながらも、セラフィナの名を呼んだ。


「ルークさん、よかった……」


セラフィナは、安堵の涙を流しながら、ルークを抱きしめた。


「ありがとう、セラフィナ。君が僕を救ってくれた」


ルークは、セラフィナの頬に手を添え、優しく微笑んだ。


「ルークさん……」


セラフィナは、ルークの温かい眼差しに、愛おしさがこみ上げてきた。


二人は、互いの気持ちを確かめ合い、深くキスをした。


それは、愛と魔法が織りなす、奇跡の瞬間だった。


ルークが回復したという知らせは、村中に喜びをもたらした。村人たちは、セラフィナの家を訪れ、感謝の言葉を伝えた。


「セラフィナさん、本当にありがとう。ルークを助けてくれて」


「あなたは、私たちの命の恩人です」


村人たちの温かい言葉に、セラフィナは胸がいっぱいになった。


「いえ、私はただ、自分の出来ることをしただけです」


ルークの回復を祝って、村では盛大な宴が開かれた。村人たちは、歌い、踊り、美味しい料理を囲んで、楽しい時間を過ごした。


宴の席で、ルークはセラフィナにプロポーズした。


「セラフィナ、僕は君を愛している。僕と結婚してください」


突然のプロポーズに、セラフィナは驚きながらも、心から嬉しかった。


「はい、喜んで」


二人は、村人たちの祝福を受け、晴れて夫婦となった。


セラフィナは、ルークと共に、小さな家で暮らし始めた。朝は、畑に出て作物の世話をし、昼は、魔法薬の研究を続け、夜は、ルークと温かい食事を囲んだ。


そんな穏やかな日々の中で、セラフィナは、ある決意をした。


「ルークさん、私は、この村で、魔法薬の診療所を開きたいの」


ルークは、セラフィナの夢を応援した。


「そうだね。セラフィナなら、きっと素晴らしい診療所を作れるよ」


二人は、力を合わせて診療所の準備を進めた。村人たちも、セラフィナの夢を応援し、材料や資金を提供してくれた。


そして、ついに「セラフィナ魔法薬診療所」が完成した。診療所には、セラフィナが開発した様々な魔法薬が並べられ、村人たちは安心して治療を受けることができるようになった。


セラフィナは、診療所の仕事に忙しくも充実した日々を送っていた。ルークも、狩りの傍ら、診療所の運営を手伝った。


ある日、セラフィナは、診療所の庭で薬草の手入れをしていると、ルークが近づいてきた。


「セラフィナ、もうすぐ赤ちゃんが生まれるね」


ルークは、セラフィナのお腹に優しく手を当てた。


「そうね。楽しみだわ」


セラフィナは、ルークの手に自分の手を重ね、幸せそうに微笑んだ。


二人は、新しい家族が増える喜びを分かち合い、未来への希望に胸を膨らませた。


異世界での生活は、決して楽ではなかった。しかし、セラフィナは、愛する夫と村人たちに支えられ、困難を乗り越え、幸せを掴んだ。


そして今、セラフィナの新しい物語が、この異世界で始まろうとしていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ