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97 ワタクシが最後に望むもの。

 お別れパーティーは終わり、皆様が続々と転移の宝石で故郷メロンディックへ帰って行きます。

 グレゴリー殿下はコニー嬢と抱き合いながら、お兄様はサキと手を繋ぎながら。


「僕たちも行こうか」


 当然のような顔をして、ルイス殿下がワタクシの手を取ろうとします。

 セイヤにフラれた以上は仕方ないと、ワタクシは婚約者になることを選びました。ですから当然、こうして共に行くべきなのでしょうけれど……。


 それがわかっていながら、ワタクシはかぶりを振りましたの。


「ルイス殿下、申し訳ございません。ワタクシ諸用を思い出しましたわ。一足先にメロンディックへお戻りくださいませ」


「……ダニエラ嬢? まさか帰らないなんてつもりじゃないだろうね」


「そのような愚かな選択はいたしませんわ。すぐに向かいますので。それともワタクシをお疑いになるのですか?」


「わかった。貴女の言葉を信じるよ」


「ありがとう存じます」


 最後まで彼に傍にいられては、困るのです。

 ワタクシの強い意志を見て取ったのか、ルイス殿下は渋々といった様子ながら引き下がってくださいましたわ。


 ルイス殿下が宝石を手に取り、消えてしまうと、この世界に残された異邦人はワタクシたった一人。


 走馬灯のように――などと縁起の悪い言い方をしてはいけませんわね――この世界で過ごした思い出が次々と頭を過って行きます。


 先程まであれほど話したはずですのに、言いたいことはまだまだあり過ぎるほどありますわね。

 けれど、それを一つずつ語っている時間はないので、何を言うべきかと考えました。


 帰りたくありませんわ、なんて言ったらきっと、セイヤを困らせてしまうでしょう。

 所詮ワタクシは余所者。グレゴリー殿下に異界送りにされたが故に出会っただけの、本来は互いの存在すら知らないままに一生を終えていたであろう関係。


 ですからワタクシは、この未練を断ち切ることに決めました。

 しかしどうしても、たった一つだけ、諦め切れないことがございましたの。


 それは――。


「……セイヤ、最後に口付けをさせていただいてもよろしくて?」


 そんな、この上なく図々しい望みでした。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ワタクシは今やルイス殿下に絡め取られてしまった身。

 いつか彼と結ばれ、ゆくゆくは閨を共にしなければなりません。

 彼に救われたところもあるのでそれ自体は嫌ではございませんけれど、最初の相手がルイス殿下というのは、やはり納得できませんでした。


 初めての口付けは、せめて愛した方と交わしたい。


 アキ様という婚約者がいるセイヤに口付けするなんて、コニー嬢と同程度の愚かな行いです。淑女として恥じるべきことですわ。

 一度敗北を認めた身、おとなしく引き下がるのが最善ということももちろん理解しています。


 それでもやはりこの機会を逃すと一生後悔してしまいそうで。

 それだけは絶対に、嫌でしたの。


 もちろん断られるのを承知の上で口にしたのではありません。セイヤはワタクシのわがままを聞いてくださるに違いないという確信がワタクシにはございました。

 当然ながら彼の優しさも理由の一つですけれど、それよりも大きいのは彼の未練。セイヤも心の底にはワタクシへの想いがまだ残っているのは丸わかりですもの。

 だからこそ、最後にワタクシの存在を鮮明に思い出に焼き付けてしまいたい。そう、思ってしまいましたのよ。


 ――ああ、ワタクシはなんとずるい女なのでしょう。


 グレゴリー殿下がかつて婚約破棄を宣言なさった際、ワタクシを悪魔のような女と称していらっしゃいましたけれど、あながち間違いでもなかったようですわね。

 ごめんなさい、アキ様。あなたの婚約者を奪うつもりはございませんの。ですからどうか今だけはお許しくださいませ。

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