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96 お別れパーティーを開く。【後編】

 テーブルの上に大きなケーキの皿が置かれ、パーティー後半戦が幕を開ける。

 切り分けたケーキを食べ始めると同時に俺たちからのプレゼントを贈ることになった。


「貴方たちは僕とダニエラ嬢に何をくれるというのかな」


 大して期待していなさそうな顔でルイス王子が言う。

 今日の彼は派手な礼服を着こなした王子様スタイルで、しかもその言葉だから、こちらを馬鹿にしているように見える。『貴方たち庶民にはどうせ碌なものは用意できないだろう』という嘲笑が丸見えだ。


 確かに、明希はともかく、俺のプレゼントは大それたものではない。

 彼女から計画を話され、一週間ほどかけてサプライズプレゼントに相応しいものを考えたが、なかなかいいものは用意できなかった。


 既製品を渡すのはなんだか嫌で、自分に作れるものは何かと考えた結果、思いついたのはやはり料理だった。

 料理。それもこの世界でしか食べられないだろうもの――ズバリ和菓子である。


 ファンシーなピンクの袋に詰められた和菓子を、俺は異世界人たち全員に手渡した。


「普段和菓子なんて作らないからめちゃくちゃ拙いし、今あるケーキの方が絶対美味しいと思うから、なんだか申し訳ないんだけど。まあこれは俺の気持ちってことで」


 自分が情けなくて、わざとぶっきらぼうに言った。

 そんな俺の隣、明希は手作りのハンカチ、もちろん刺繍入りを全員に配っている。刺繍はとても繊細で可愛らしく、目を惹かれた。


 実は彼女はコスプレなどのため、密かに裁縫を趣味としているらしいのだ。

 それを聞かされたのはつい数日前で、その時はかなり驚いたのを覚えている。


 ――それはさておき。


 サキとコニーが明希のハンカチを見てきゃあ、と女子らしく黄色い声を上げ、グレゴリー王子とイワンが興味深げに和菓子の袋に見入った。

 少なくとも拒絶されるということは、ないらしい。小馬鹿にしていたルイス王子でさえ明希のハンカチをまじまじと眺めているし。


 そして肝心のダニエラはというと――。


「セイヤらしいですわね」


 袋を開け、俺の手作り和菓子を見て可笑しそうに笑った。


「……どういうことだよ?」


「アキ様へ求婚される際も、メガネを渡していらっしゃいましたでしょう? 通常、指輪を渡すのが通例ですのに。

 どこまでも庶民的というか飾らないというか。そんなところがセイヤの魅力ですけれど。

 セイヤのワガシ、きちんと受け取りましたわ」


 褒められたのだろうが、あまり褒められたようには思わない。

 けれど喜ばれたのは間違いのない事実で、悪い気はしなかったが。


「もちろんアキ様のハンカチもとても嬉しいですわ。この世界に滞在していたことが現実だと確かめられる物が欲しいと考えておりましたの。これがあれば忘れないでいられますもの」


 忘れないための品というともう一つ。

 その後すぐに行われた撮影会で、集合写真を撮った。

 それを準備してあったらしい専用の機械でその場で人数分プリントアウトされた。


 ダニエラを中心として全員が写った写真を見る。

 何の変哲もない写真――というには写っている人物があまりに個性的過ぎるではあるけれど――だが、これがダニエラがこの世界に存在した証となるのだ。

 帰ったら机の奥にでも大切に仕舞っておこう。俺はそう思った。


 そのままパーティーは和やかに進み、ケーキを食べ終えると同時に終了したのだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 パーティーが終われば当然、異世界人たちがこの世界に留まる理由はいよいよ何もなくなる。

 つまり――。


「私たちはそろそろ帰るとしようか」


 この時を待っていたとばかりにそう言いながら、異界渡りの魔道具を取り出したのはイワンだった。

 一見するとただの赤い宝石に見える、コンパクトサイズの魔道具。それで世界を超えられてしまうというのだから驚きだ。


「これを抱えれば簡単に戻れる。この世界で入手できる魔道具の材料が少なかったので作るのに苦労してしまったが、効果は確実だ」


 淡々とした口調で彼は語る。

 そして最後に言った。


「一応聞いておくが、未練はないな?」


 誰も答えない。無言は肯定と同義とよく言うから、そういうことなのだろう。

 当然俺も何も言わなかった。


「では、始めようか」




 思い返せば、濃過ぎるほどに濃い一年間だったと思う。


 偶然家の前に落ちていた謎の美少女――ダニエラ・セデカンテを拾ったのが、全ての始まりだった。

 異世界人と名乗る彼女に戸惑ったものの、明希のおかげもあってダニエラの言葉を信じることにして。

 彼女の戸籍を取得するため頭を捻り、そしてその後戸籍が手に入るまでの間ダニエラを家に泊めていたのを思い出すと懐かしくなる。

 一緒に学校へ行き、部活を選び、クラスメートとして共に高校生活を送った日々。ゴールデンウィークの旅行。イワンやサキたちと出会ったこと。

 それから明希に初めて告白された夏休みや、生徒会長銭田麗花が絡んできて大変だった文化祭も、今となっては大切な思い出の一つ。


 ――本当に、楽しかった。


「じゃあ、行くぞ」

「お先に失礼しますねぇ」


 先陣を切ったのはグレゴリー王子たちだった。

 グレゴリー王子はコニーを抱きしめたまま、魔道具である宝石を抱え込む。それからすぐに彼らの姿は霞み、やがて見えなくなった。


「…………幻じゃない、よな?」


「うん、ちゃんと現実だよ」


 事前に知らされていたことではあるが、いざ目の前にすると驚愕を隠せない。

 唖然としてしまう俺だったが、その間にも帰郷は行われていく。


 続いてはサキとイワンの二人だった。


 グレゴリー王子たちとはあまり付き合いがなかったので特に思い入れはないが、この二人に関しては違う。

 話す機会もそれなりにあったし、困らせられることも、その反面助かることも何度かはあったから。


「ダニエラ、私とサキとの三人で帰らないか。たまにはダニエラに触れたい」

「もぅ、ダメですよイワン様ー。ルイス第二王子殿下に嫉妬されちゃったら困るんですから、サキと二人で行きましょう?」


 こちらもベタベタで、まるでこちらのことなんて見ていない。

 そんな自由勝手さが彼ららしくて、なんだか笑ってしまった。


「元気でね、二人とも! アニメ部に入ってくれてありがとう。私、すっごく楽しかったよ!! お幸せに!」


 明希が大声で叫ぶ。

 サキはにっこり笑いそれに頷いて、魔道具を発動させた。


 そして数秒後、二人もいなくなった。

 後には、まるで最初から何もなかったかのような虚空が広がるだけだ。


 次は、ダニエラとルイス王子の番。

 二人と別れを告げれば――終わりだった。


 その、はずだったのに。


「ルイス殿下、申し訳ございません。ワタクシ諸用を思い出しましたわ。一足先にメロンディックへお戻りくださいませ」


 突如、ダニエラがそんなことを言い出した。

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