95 お別れパーティーを開く。【前編】
「お別れパーティーですの?」
「そう。ダニエラさんたちを送り出すためのパーティー。私の家に来てほしいんだけど、いいかな?」
終業式を終えた帰り道、明希がダニエラを含む異世界人たちを誘った。
パーティーは前々から彼女が計画していたもの。ギリギリまで黙っていた理由は、「その方がサプライズ感があって面白いし楽しいでしょ?」とのことだった。
断られたらどうするんだと俺は懸念していたが、ここ数日で明希との仲を深めたダニエラが断るはずもなく、「もちろんですわ」とあっさり頷いてくれた。
彼女さえ首を縦に振れば、後の異世界人たちは自ずと集まってくるだろう。
俺たちはパーティーのための身支度を整えるために、一度各自の家に帰った。
生徒会選の時の祝いやら正月パーティーなど、今まではダニエラとの催しは全て俺の家で行われていたが、最後は豪華な方がいいだろうということで明希の家が開催場所に決まっていた。
日比野家はそこそこのお金持ちとだけあって、俺の家よりずっと広いのだ。
「いらっしゃい。ダニエラさんたち、もう来てるよ」
色々な準備で遅くなってしまったせいで、一番家が近いにも関わらず俺が最後だったらしい。
「さあ、入って入って」
明希の彼氏になってから頻繁にこの家を訪れていたので、別に久しぶりというわけではない。
だがその内装はあまりにいつもと違い過ぎて、全く別の場所に迷い込んだかのような錯覚を覚えてしまう。
窓という窓を覆う金銀の刺繍が入った煌びやかなカーテン。テーブルクロスが敷かれた長机にはご馳走と美しい花が生けられた花瓶が置かれ、照明は一眼で高級とわかるシャンデリアである。
……流れているクラシックな曲もあいまって、まるで西洋の舞踏会のようだった。
「ふふっ、すごいでしょ」
「よくここまでできたな」
「一週間以上かかってどうにかね」
そんなことを話しながら俺たちが見つめる先、そこにはティーカップを傾ける異世界人たちの姿があった。
あのクリスマスイブの夜と同じ、青のロングドレスを纏うダニエラ。そして彼女の隣で仲良さげにしているルイス王子、真面目な顔でこれからの話をしているらしいイワンとサキ、そしてコニーを膝に乗せてキスをしまくっているグレゴリー王子。総勢六人だ。
「待たせて悪い。ちょっと遅れた」
「別に構いませんわ。紅茶をいただいていただけですもの」
ふわりと微笑むダニエラは、今日も美しい。
彼女の姿もこれで見納めだ。――そのことに、まだあまり現実味を感じられていない自分がいる。
「セイヤも来たことですし、お別れパーティーを楽しみましょう。ご馳走、早くいただきたいですわ」
ダニエラの一言を皮切りに、パーティーが始まった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「この料理はちゃんとした料理人に頼んで作ってもらったの。だから味は格別だよ」
大きなテーブルいっぱいに並べられた皿は全て洋食。
さすが社長令嬢とだけあって、料理人――それもかなり有名な人物を雇ったらしく、ご馳走の数々は俺なんかが作る料理と比べ物にならないくらいの絶品揃いだった。
「料理といえばブカツのことを思い出しますわ。結局最後まで上手くならなくて――」
「聞いてくださいよイワン様。メイドカフェでワショクというのを作ってみたんですけど――」
「グレゴリー殿下ぁ。今度はわたしが――」
この世界での思い出を語る者、きゃいきゃいはしゃぐ者、黙々と食べ続ける者。
異世界人たちはそれぞれに食事を楽しんでいる。
いつまでもこうしていられたらいいのに、と俺は思った。
しかし食事はどんどん減ってしまい、パーティーも後半戦に入っていく。
「次はデザート、撮影会に、それからサプライズプレゼントもあるよ!」
「ぷれぜんと……ですの?」
「プレゼントってのは贈り物のことね。手土産が何もなしで元の世界に帰るのは寂しいでしょ? だから私と誠哉が用意してたの」
さて、ここからがパーティーの大詰めだ。
――刻一刻と別れの時間は近づいていた。
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