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94 最後の思い出に。

「ねえ、ダニエラさん。期末テストも終わったことだし、今日の放課後にちょっとついて来てほしい場所があるの」


「何ですの? アキ様にはセイヤがいらっしゃるではございませんの。それにワタクシ、ルイス殿下と――」


「いいからいいから。塁くん、ちょっとダニエラさん借りるから!」


 ダニエラにとって、ここでの最後を一生忘れられないような楽しい思い出にする。

 先日言った通り、明希は終業式までの数日をダニエラにめいっぱい遊ばせることにしたようだ。


 普通の女子高生らしく街を遊び歩いたり、可愛いグッズを買ったり、ゆるふわなスイーツを食べたり。

 ダニエラは戸惑いつつも楽しんでいたと後で明希から聞いた。本当は俺もついて行きたかったが、それではダニエラの失恋の傷をほじり返すことになる可能性を考えて留守番をしていたので、詳細は知らないが。


 一方、ダニエラ以外の異世界人たちもそれぞれ思い思いに過ごし、グレゴリー王子たちなどは一泊二日の旅行にまで行って、この世界を存分に楽しんだらしい。


 しかしそんな時間はすぐに終わりを迎えるものだ。

 そうこうしているうちに、あっという間に終業式の日が訪れた。




「今日で最後ですのね……」


 高校の敷地内に足を踏み入れた時、ダニエラは感慨深そうに呟いた。


 今日はルイス王子と一緒ではなく、久々に、本当に久々に俺と明希との三人で登校した。

 ダニエラと共に歩く最後の通学路、彼女と一緒の最後の高校。そう思うと俺まで寂しくなってしまう。


「二人とも、何うかない顔してるの。せっかくの終業式――それにダニエラさんにとっては卒業式も同然なんだから、気合い入れていかなくちゃでしょ!」


 だから、軽く背中を叩き、元気づけてくれる明希の存在はありがたかった。

 彼女とて色々思っているだろうに、内心を見せない可愛い笑顔はとても朗らかで、気持ちいい。

 今日も明希は俺の自慢の彼女だった。


「その通りですわね。ワタクシの美しさ、最後の最後までとくとご覧に入れましょう」


 その後、終業式に参加したダニエラは、まるで――いや、主役そのものだった。

 二年生の中で三学期連続成績一位。そしてこれほどの美貌であるし、それより何よりファンが多い。

 他の女子生徒と同じセーラー服を着ているのに一人だけ輝いて見えた。


「セデカンテ先輩、行かないでください……!」

「あの、メールとかできますか。手紙でも何でもいいから――」


 学校四大美少女の一人、そして生徒会選で多くの支持を集めたおかげで、ダニエラとの別れを惜しむ者は多くいた。


 ダニエラの引っ越し――表向きにはそういうことにしてある――の話は、H高校2年C組はもちろん、それ以外の生徒たちにも広まっていたらしい。

 ダニエラ様ファンクラブの男子生徒たちが殺到し、誰が言い出したわけでもなく、いつしか終業式はダニエラとの別れを惜しむ会に変わってしまっていた。


「……まあ、皆様これほどまでにワタクシを大切に思ってくださいますのね。感謝いたしますわ。

 けれど引っ越しはもう決まったことですので。それにめーる、というものはワタクシ、苦手ですのよ」


 少し申し訳なさそうな顔を見せていたが、ダニエラはきっと内心ではこれだけ味方を作れた自分の手腕を誇らしく思っているに違いない。


 教師たちが注意しに来るまで、別れを惜しむ会は続いた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 高校生になりすましていた異世界人三人――イワン、サキ、ルイス王子――もダニエラと同等くらい人気があったにも関わらず、別れを惜しまれたのがダニエラだけだったのにはきちんと意味がある。


 彼らは退学手続きをとって引っ越しという形で消える必要がないからだ。


 彼らはダニエラと違って魔道具の力でこの世界に無理矢理存在している状態である。

 それ故に、イワンやサキ、ルイス王子、おまけにグレゴリー王子やコニーも、一度異世界へ渡ってしまえば、この世界から跡形もなく消えてしまうのだとか。

 彼らがいた痕跡、そして記憶も、全て。


「ダニエラを匿ってくれたお礼として君たち二人の記憶だけは特例として残しておくことにする。だが、メロンディックのことは誰にも話さないでほしい」


 魔道具の開発者であるイワンは、俺と明希にそんなことを言っていた。

 数ヶ月前に自ら魔道具騒ぎを起こした口で何を言うんだ、と言いたくなったが、グッと我慢する。


 ダニエラだけがこの学校に在籍していた過去を残して、いなくなることになるのだ。

 彼女は最後まで、兄の魔道具に頼らなかった。元シスコン野郎とは和解したはずだが、彼女なりの矜持だったのだろうと思う。


 ダニエラは終業式を最後の思い出にし、笑顔で学校を後にしていた。

 彼女が高校へ足を踏み入れることは、二度となかったのだった。

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