93 終業式まで後わずか。
もしも、俺があのクリスマスイブの日、明希ではなくダニエラを選んでいたとしたら、彼女はこの世界に留まってくれたのだろうか。
俺のせいで、ダニエラはルイス王子とくっつき、故郷へ――異世界へ帰ってしまうのだろうか。
突然の帰郷話を聞かされてから数日、俺は悩み続けている。
明希と付き合ったことを後悔するなんてことは絶対にしない。それだけは自信を持って言える。
しかし、どうしても思ってしまうのだ。ダニエラが帰郷するのは本意ではなく、単に失恋を誤魔化すためなのでは、と。
彼女らが異世界へ旅立つ日は刻々と迫っていた。
もうすぐ行われる期末テストも手につかず、暇さえあればダニエラのことばかり考えている。
帰ってほしくない。
そう馬鹿正直に言えたとしたら、どれだけ良かっただろう。
だが今の俺はダニエラの友人。それ以上でも以下でもない。
だから彼女を引き止めることは、俺にはできなかった。無理にでもそうすればそれこそきっと後悔するに違いないし。
「――――てる? 誠哉、聞いてる?」
「んあ?」
「最近魂の抜け落ちたような顔ばっかりしてるよ。私と二人じゃもう楽しくないの?」
揶揄うような、それでいて少し心配そうな声に振り返ると、そこにはセーラー服姿の明希がいた。
彼女と二人で下校途中だったことを思い出し、「悪い」と謝罪する。最近、ぼぅっとしてしまいがちだった。
「……そんなことは。ただ」
「ダニエラさんに未練があるだけ?」
「そう、だな」
未練がないと言ってしまえば嘘になるだろう。
俺にとってダニエラは、近くにいるのが当たり前過ぎるほど当たり前の存在になっていた。……だから、急にいなくなると聞いてもその事実を受け止め切れず、心の整理がつかないのだ。
「そっか。実は私も、そうなの。ダニエラさんがいたから毎日が楽しかったし、誠哉と付き合えたのもダニエラさんのおかげだもん」
「一年弱だったけど、あまりにも俺たちにとって存在感が大き過ぎたんだよな、ダニエラは」
「ほんとほんと。なのに、私たちに相談もなしに帰るのを勝手に決めちゃってさ。……なんで、なのかなぁ」
明希は泣きそうな声でそう言いながら、静かにため息を吐く。
彼女は悔しいのだ。今まで散々協力してきたというのに、直前になるまで異世界へ戻ることについて一切話してもらえなかったことが。
そして俺も同じ気持ちだった。
一度異世界に戻ったら、ダニエラはもうこちらの世界には来ないつもりだと言っていた。
ダニエラがルイス王子の妃になるための諸々が忙しいのと、何度も異界を渡るのは意外と危険な行為のようで、顔見せ程度のために行き来はできないらしいのだ。
他のメンバーも、こちらの世界に渡る理由がない。故に、一度別れたらそれが最後になってしまうわけだった。
――でも。
「こうなった以上、俺たちにできるのは、精一杯の全力でダニエラたちを送り出すことだけなんだよな」
ダニエラとの思い出をできるだけ残し、彼女らを笑顔で異世界まで送る。
悩んで悩んで悩み抜いた末、俺が出した答えはそれだけだった。
「うん。やっぱりそうだよね。泣いてたって仕方がないもんね。
よし、決まり! ダニエラさんに、この世界に来て良かったって思わせて、ここでの最後を一生忘れられないような楽しい思い出にしてあげよう!」
「明希は割り切りがいいよな。羨ましい……」
「誠哉がウジウジし過ぎなの。もっとスパッとしなくちゃ、スパッと」
先ほどと一転、笑顔の明希の瞳にはもはや躊躇いは見られなかった。
その日の話し合いをきっかけに、行動力の高い明希によって、ダニエラの送迎会の日程、そして内容がとんとん拍子に決められていった。
そうしていつしか、終業式まで後わずかとなっていた。
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