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92 突然の帰郷話と、戸惑い。

 三学期は短い。

 気づけば一月が終わり、二月が過ぎていた。


 その間に行われた中間テストの結果は散々だった。

 近頃明希と遊ぶことばかりだったせいである。


「もう。しっかり勉強しなきゃダメじゃん。学生の本分は勉強でしょ。それに誠哉には将来、うちの会社の手伝いをしてもらうんだし」


 俺の家は財力がない。なので、将来は俺が婿入りすることになるだろう。

 確かにそのことを考えればいつまでも遊んではいられないという明希の言い分もわかる。


 学生の時分くらいはのんびり過ごしたいものだが、彼女に言われてしまっては仕方がない。


 毎日、放課後にダニエラを誘い、当然のようについてきた塁も一緒に四人で勉強会を開くことにした。

 ダニエラに教えられると、どんな難問もすぐに解けてしまうのだから不思議である。


「やはりすごいな、僕の婚約者は」


「当然でしてよ。これくらいの内容、きちんとした教育を受けていれば子供でもできますわ」


 それはあくまでダニエラの言い分であって、うちの高校が別にレベルが低いというわけではない。

 俺はダニエラに教えられながら頑張って、三月初旬の小テストでどうにか赤点を回避することができたのだった。


 その頃にはすっかり冬の寒さが遠のいて、あたたかな日差しの届く季節になっていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「良かったですわね、セイヤ。この調子で続けていけばアキ様との将来も安泰なのではなくて?」

「……そうだったらいいんだけどな」

「全てはダニエラ嬢と僕のおかげだ。貴方には感謝してほしいものだね」

「いや、やっぱり誠哉の頑張りのおかげでしょ。ご褒美にキスしてあげちゃおっかな〜」


 小テストのあった日の放課後、教室で俺たちはそんな風に話していた。


 小テストは終わり、後は残すところ期末テストのみ。いつまでもダニエラを煩わせるのも悪いので、今度は羽目を外し過ぎずに自分一人で勉強をしたい。だからもう明日から勉強会は要らないと、そう言い出すつもりだった。


「それで、だけど――」


「ところでセイヤにアキ様。どうしてもお話ししたいことがありますの」


 ダニエラに遮られさえしなければ。


 どうして今、このタイミングなのか。俺は文句を言おうとしたが、ダニエラの真剣な表情を見て、やめた。

 彼女が何かいつになく重大なことを言おうとしていることがわかったからだ。


「どうしたんだ?」


「別に、大したことではございませんわ。セイヤとはもはや関係のないことですもの。けれど、やはり言っておかなければと思いまして。

 ワタクシども、近々故郷へ戻ることにいたしましたわ」


 美しい微笑みを浮かべるダニエラの桜色の唇から、鈴の音の声が紡がれる。

 俺はその声音を聞いた。聞きはしたがしかし、彼女が何を言っているかがまるで頭に入って来なかった。


「……は? え、ちょっと待って。ダニエラさん、今なんて?」


 それは明希も同じだったようで、それまでのニヤニヤ笑いを引っ込め、困惑した表情でダニエラを見ている。


「ですから、戻ることにいたしましたのよ。

 ルイス殿下とワタクシ、婚約したと申しましたでしょう? グレゴリー殿下がワタクシとの婚約破棄で処罰を受け、信頼を落とした故にルイス殿下がメロンディック王国の王太子となります。ちなみにグレゴリー殿下は名ばかり伯爵としてコニー嬢と頑張っていただくことになりましたわ。お二人の希望でもあります。

 一方でワタクシは王太子妃、そしてゆくゆくは王妃になることが決定いたしました。妃教育はすでに済ませてありますけれど、一年も社交から離れておりましたから、それを取り戻すのに時間が必要ですわ。

 それにサキとお兄様が早く婚姻したがっておりますの。ですから戻らない理由がございません」


 これは決定事項だとばかりに彼女は淡々と語る。

 その後を塁が引き継いだ。


「色々あったが、貴方たちには世話になったから一応報告しておかなくてはと思ったんだ。すでにセデカンテ令息が手筈を整えてあるはずだ。可能不可能の話で言えば、明日にでも帰郷は可能だろう。

 だが、ダニエラ嬢がせっかくだからコウコウの終業式までこの世界に留まりたいというから、今すぐではないけどね。ただそれだけの話だよ」


 俺たちは呆然として、何も言えなかった。

 故郷へ戻る。彼女らの故郷は異世界だからつまり、何かの魔道具を用いてということなのだろう。

 ……が、あまりに急過ぎやしないか。だってダニエラがこの世界に来てからもうすぐ一年経とうかという頃で。ようやく恋愛の悩みが一段落ついて、彼らとの関係が落ち着いたところだったのに。


 妃になるから帰る、だなんて。


 教室に気まずい静寂が落ち、ダニエラと塁が静かに教室を出て行くまで、誰も何も喋らなかった――否、喋れなかった。

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