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90 彼女に渡せなかった指輪を、今君に。

 サガワとやらは女を引き連れて、ダニエラはルイス殿下と共に出かけてしまった。

 そしてグレゴリー殿下はあのピンク髪と早々に帰宅したし、家主の夫婦も旅行中。サガワの家に残ったのは私とサキだけになった。


 二人きり。コタツの中で体を温めながら、私たちは何をするでもなくくつろいでいた。

 コタツを挟んで向かい合うサキは、満面の笑みで私をじっと見ている。おそらく私のことでも考えているのだろう。そう思うと、彼女のことを少しだけ可愛く思った。




 サキという少女に本当に自分が好意を寄せているかどうか、それは私にはわからない。


 かつて婚約者だったサリアに似ているからなのか、それともサキのまっすぐな瞳に惹かれたのか。


 私はダニエラを愛していた。

 それは確かな愛だった。だが、家族愛を恋人への愛として自ら誤認するようになったのは、いつだっただろう。

 それをあの日、サキの言葉で、口付けで、気づかされてしまった。本当は私は気づきたくなどなかったし、永遠にダニエラを想い続けていたかったが。


 サリアを思い出す。

 幼馴染でいつの間にかどうしようもなく好きになっていた、私の初恋だったサリア。一緒にいられるだけで幸せだった。

 ――どんな魔道具をもってしても、生き返らせられなかった。


 記憶の中の彼女が薄れていくのが嫌で、サキの存在を知った時、この少女であればサリアの代わりになるかも知れないと思った。

 しかしサキはサリアとは全然違う。だから私は諦め、ダニエラを溺愛し続けたのだった。


 これはダニエラでさえ知らないことだが、私は今でもサリアに渡すはずだった指輪を所持している。

 サリアが亡くなった時は、ちょうど彼女の誕生日の間近だった。もう一生渡せなくなったそれを私は、思い出としていつでも懐に隠して持ち歩いていたのだ。


 しかしサキとこうして共にいるようになったのに、いつまでもサリアを想い続けるのはきっと不誠実だろう。

 もちろんサリアのことは忘れない。忘れられないが、ケジメは必要だと思うのだ。


 故郷に帰る前に(・・・・・・・)、しておかなければ。

 今日はショウガツという、この国での祭事の日らしい。どうせなら私たちもショウガツデートというのをしようではないか。


 ――今しかない、と私は覚悟を決める。


 懐から指輪を取り出し、握りしめた。

 「何ですか?」と首を傾げるサキに、私は指輪を突き出す。


「……これを、受け取ってくれ」


「指輪?」


「それは私の最愛に渡したかったものだ」


 最初はサリアに似ていたからと、ダニエラの専属メイドにしてやっただけの少女。

 ダニエラに感じていた、狂おしいほどの愛ではない。サリアに感じていた幸福な愛ではない。

 だが今私の胸にある、あたたかで心地良い感情は、おそらくそれに似たものではないかと思うから。


「い、いいんですか?」


 灰色の瞳を丸くして驚くサキが、私に問う。


「サリア様の……イワン様の、大事な人のものになるはずだった指輪、なんですよね?」


「いい」


 私は頷いた。

 サキは笑った。


「ありがとうございます。……嬉しいです。泣きそうなくらい、嬉しいです」


「そうか」


「イワン様がサキを愛してくれてるなんて、夢みたい、です」


 その笑顔はサリアのものとは似ても似つかない。

 でも私はそれを見られただけで良かったと思った。


「サキ。君に婚約を申し込みたい。セデカンテ侯爵夫人として、侯爵家を共に盛り立ててほしいんだ。いいだろうか」


「本当ですか?」


「ここで冗談など言うわけがない。侯爵夫人になるのが不安ならば、私が全て役目を負うが」


「いいえ、そんなこと!

 頭も足りなくて器量も良くなくて、今までダニエラ様をお守りすることしかしてこなかったサキですけど、イワン様と添い遂げることができるなら、侯爵夫人のお仕事だってどんとこいです!

 指輪、ありがたく受け取らせていただきます!」


 私の瞳と同じスカイブルーの宝石を嵌め込んだ指輪を小指につけるサキ。

 そして彼女は、私にそっと身を寄せた。


「これでサキはイワン様のものになりました。今度、サキもきちんとアクセサリーを見つけて、イワン様にあげますね」


「楽しみにしている」


 私は彼女をギュッと抱きしめ、キスをした。

 二人で家の中でのショウガツデートを静かに楽しんだのだった。

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