84 クリスマスイブの計画。
通学路、凍えるような木枯らしが吹き付ける中、俺は一人ため息を吐いていた。
十二月も中頃を過ぎて、雪が降ってもおかしくないほどの寒さが毎日続いている。
最近は塁がわざわざダニエラを迎えに来て、学校まで連れて行ってしまう。だから一緒に登校する必要がなくなったのだ。
そして明希とも、最近は疎遠になっている。というか俺が避けているだけ、なのだが。
あれ以来ダニエラにも明希にもまともに向かい合う勇気が持てない。
このままではいけないということはわかっているのだが、どうしても気まずくて謝罪も和解もできないのだ。
何か打開策はないものだろうか……。
悩みながら歩くうち、いつの間にか俺は教室へやって来ていた。
すでに着席している生徒たちが雑談を交わしており、サキとシスコン野郎――もうその呼び名は適切ではないかも知れないが――がイチャイチャしている。と言ってもイワンの方は気遣わしげにダニエラをチラチラ見ているが。
ダニエラは、グイグイくる塁を無視して、ツンと澄まして一人座っていた。
「……おはよう」
俺が控えめに声をかけると、「おはようございます」と返すだけで、彼女は俺の方を見ようとしない。
俺の胸がさらに重くなる。
これ以上朝から気分を悪くしたくないと思った俺は、逃げるように視線を逸らし、教室の雑談に耳を傾けた。
「それでね、塁くんがさ――」
「聞いて聞いて。近くのスイーツ屋がね――」
「部活の朝練が厳しくて――」
「もうすぐクリスマス!? やっば、プレゼント用意しないと――」
「好きな人誘って告白――」
「もうすぐ先輩とデートに――」
俺はその雑談を聞いていて、少し引っかかった。
なんのことはない、所詮お喋り好きな女子たちが話しているだけだ。それなのにどうして気を引かれたかというと。
「……クリスマス、か」
十二月に、クリスマスというイベントがあることを思い出させられたからである。
クリスマス。もちろん子供であればプレゼントをもらう催しでしかないわけだが、青春を生きる俺たちにとっての意味合いは違う。
クリスマスとえいば――告白。
「そうだ、クリスマスだ」
俺は呟いた。
クリスマスになら、希望はあるかも知れない。
クリスマスイブの夜に街歩きして、仲直りするのだ。
もちろんダニエラと明希の二人と。
そして俺は、二人に告白への答えを返す。
その上で、俺の方からも告白しよう。
クリスマスというイベントの力を借りないとできない自分が情けないが、ここまでウジウジしてきた時点で情けないのは一緒なので気にしない。
クリスマスイブの告白成功率は高いと聞く。だから、きっと大丈夫だ。
早速計画を考え始め、少し興奮してしまった俺は、その日の授業が手につかなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
それからはあっという間に日々が過ぎていった。
ネットで調べた知識をもとに、良さそうな場所を選んで。
塁に邪魔されないよう、その日は女子たちに彼の足止めを頼んだりした。
誘いの手紙を書き、二十三日――クリスマスイブの前日に満を持してダニエラと明希の家にそれそれ投函した。
二十三日が終業式だったので、二十四日は基本的にフリーである。
明希もダニエラも友達とつるんでどこかに出かけるような女子ではないから、先約があるので断られることはまずないだろう。
「これで一人も来なかったら……笑うしかないな」
誘いの手紙にはもちろん両者に送ってあることを書いていた。だから、あまりにも不誠実だと思われて拒否される可能性は充分にあり得る。
その時は、きっぱり諦めるつもりだ。待たせ過ぎたから恋の熱が冷めるのも当然だ、と。
もちろん相当落胆するだろうが。
運命のクリスマスイブ。
俺は集合場所に向かうため、出かける準備を始めた。
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