82 惚れたハイスペック美少女と可愛い幼馴染を天秤にかけるなんてできなくて。
――いつまでも待ってはいられないのだと、他ならぬダニエラから選択を迫られた。
返答するなら今。それ以降なら、自分は他の男に盗られるかも知れないとまで言って。
「俺も好きだ」「嬉しい」「急に言われても信じられるわけない」
言いたいこと、そして言うべきことはたくさんある。
なのに何も言葉が出てこない。
俺はダニエラを好いている。
これは紛れもない事実だ。だから彼女からの告白を受け入れれば俺の数ヶ月に渡った恋の悩みは解決する。俺だって嬉しい、はずだ。
でもその時、脳裏に思い浮かべたのはあの夏の夕暮れ時の明希の顔。
『――私は今でも誠哉が好き。愛してます』
そんな、彼女の告白とファーストキスの感触だった。
そうだ。明希は。明希はどうする。
意味不明なことを言う時も多いが、俺の一番の理解者で。普段は地味なのに着物を着たりメイド服を着た時なんかは可愛過ぎるくらいに可愛く、悶死しそうになったことも何度かあったくらいで。
そして何より、十年近く彼女の好意に気づかなかった俺を、好きでい続けてくれた女の子なのだ。
ここでダニエラの告白を受ければ、彼女を悲しませることになるのは明らかだった。
俺から告白する場合であれば、ダニエラに断られる可能性が大きいと思っていたから、ここまで悩むことはなかったのだ。
ただ今はダニエラに気持ちをぶつけられてしまっている。俺さえ頷けば、彼女が手に入る状況。
選ばなければいけない。
ダニエラなのか、明希なのか。――それはつまり、惚れたハイスペック美少女と可愛い幼馴染を天秤にかけるということだ。
「……できない」
「どうしましたの?」
「できるわけ、ないだろうが」
ダニエラが不安そうな顔で俺を見つめてくる。
そんな顔すら美しく、惹かれてしまう。そんな自分にどうしようもなく腹が立ち、血が出そうなほどに唇を噛み締めた。
「……悪い。やっぱり今すぐ返事はできないみたいだ」
「なぜですか? 先程も申しましたようにワタクシ、悠長に待ってはいられませんの。セイヤは、ワタクシと婚約するのに不満がおありですの?」
ダニエラとの交際、そして婚約。
それに俺は少しの不満もない。それどころか心の底から望んでいる。その、はずだった。
だが。
「俺、先に婚約を申し込まれた子がいるんだ。……わかるだろ?」
「――――」
ダニエラは答えない。ただじっと、俺の瞳を覗き込んでくるだけだ。
でも俺が思い浮かべている人物は、彼女だってわかっているに違いなかった。
「でも、そっちにも返事してないんだ。だからダニエラにもまだ答えを返せない。俺がもっとしっかりした奴だったら明希にもダニエラにも気を揉ませずに済むのにな。情けなくて、ごめん」
この短い時間に色々と考えた。
明希に告白された時と同じくらい。いや、それよりももっと考えたかも知れない。
でも、悩めば悩むほどに自分でも自分がどうしたいのかがわからなくなって。
結局俺が取った手は以前と同じ。今すぐは答えを出さないという、ことだった。
逃げたのだ。
またしても、俺は逃げてしまったのだ。
俺はその場にいられなくなって、ダニエラの部屋を後にする。
「待ってくださいまし、セイヤ!」
そんなダニエラの声は、聞かなかったことにした。
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