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80 メイド、悪役令嬢のお兄様に告白します。

 ダニエラ様とたっぷり計画を練ったおかげで、準備は万端でした。


 サキは今から、長年の想い人であるイワン様に告白をするのです。してしまうのです。


 考えるだけでドキドキしてきました。きっと今頃ダニエラ様は、セイヤ様に告白していらっしゃることでしょう。

 ダニエラ様のことですから失敗はあり得ないと思いますが、成功を願うばかりです。ですが今はそれより自分のことを考えなければ、とサキは気を引き締めました。


 ……ブカツを終えてブシツを出て、サキとイワン様の二人きりで帰り道を歩きます。

 異界に渡って来てからというもの、イワン様とこうして並ぶことが増えたように思います。

 もちろんイワン様はサキを女として全くと言っていいほど意識していないのでしょう。それはわかっています。でも、この時間がサキは毎日嬉しくてたまらないのでした。


 ですが今日は特別。

 周りに誰もいないのを確認すると、サキは意を決して口を開きました。


「イワン様、今日は大事なお話があります」


「何だ。もしかして愛しのダニエラについてのことか? ダニエラからの愛の手紙を預かっているとすれば直ちに私に」


「申し訳ありませんが、ダニエラ様は今お忙しいので、愛の手紙は預かっていません」


 サキはキッパリ答えました。

 実は別の殿方に想いを告げに行っている、なんて知ったらイワン様は発狂してしまうのではないかと少し不安に思いながらも、話し続けます。


「じゃあ何なんだ? 新作の魔道具の実験台になりたいか、あるいは」


「――告白ですよ、イワン様」


 サキは、真剣なことが伝わるように、まっすぐイワン様の目を見つめました。

 今のイワン様は変装の魔道具を使用中のため、焦茶色の瞳です。それはそれで魅力的ですが。


「告白だと? それは何の冗談だ。私の心がダニエラに一途だということは知っているだろう? まさか兄妹愛に水を差そうとでもいうのか。もしそうなら私は認められない。確かに私はそれなりに魅力的な容姿はしているだろう。だが、それは美しきダニエラの兄として相応しくあるために磨いたまでのこと。故にダニエラの横にあるべきは……」


「サキは、イワン様が好きです」


 イワン様が、ムッとした顔をしました。

 そんなお顔をするのは非常に珍しくて、なんだかとてもお可愛らしくて。

 本当に素敵だなとサキはますます思ってしまいます。


「虐げられていた無価値だったサキを拾ってくださったあの日から、ずっと好きでした。

 イワン様の声が好きです。いつもは静かなのにダニエラ様を語る時だけは高ぶって、そしてサキに話してくれる時は時々ですけど柔らかくなるような気がするんです」


「――――」


「王妃教育と社交と王太子殿下とのやり取りに疲れ果てたダニエラ様を励まそうとたくさんの魔道具を開発する妹想いなところも素敵です。

 サキが悪徳貴族の娘だからとメイド仲間に馬鹿にされていた時、助けてくれて、いじめてきた人たちを解雇してくれましたよね。ちょっと強引でしたけど、その優しさがもう最高に格好良くて、惚れちゃいました」


 イワン様は、黙っています。

 信じられないものを見るように、じっとサキを見下ろしながら。


 ……こんな風にまともに目を合わすことができたのは、一体いつぶりだったでしょう。

 嬉しくて、涙が出そうでした。


「イワン様が、心の底から好きなんです。

 すぐに受け入れていただけないだろうことはわかっています。それでもサキは、この気持ちを知って欲しいんです。

 ダニエラ様から教えていただきました。イワン様が、ダニエラ様に夢中になった理由」


 今までずっとおかしいと思っていました。

 イワン様がダニエラ様に想いを寄せる……というより執着するのには、何か理由があるのではないかと。


「婚約者の方が亡くなったのは、悲しいことだと思います。本当は何も知らないサキが口出ししてはならないことなのですけど、ごめんなさい」


 イワン様は、婚約者の方と非常に仲が良かったそうです。

 周囲が微笑ましく思うほどに。


 サキがイワン様に拾われる二年前のある日――今から十二年も前になります――その婚約者様が殺されるまでは、の話ですが。

 当時イワン様は十三歳。自らの手で守り切れず、愛する人を失ってしまった彼が、その代わりのようにダニエラ様を溺愛し、執着してしまったのは仕方のないことなのでしょう。


 それではどうしてサキに優しくしてくださったのか、そんなのは単純な話。

 サキの髪と瞳の色が、かつての婚約者様によく似ていたからに他なりません。


 ですがサキはやはり婚約者様とは別物。でも、放っておけなかった……それだけの話。

 サキはダニエラ様と違って、イワン様の心の支えになることができません。名前も、喋り方も、そもそも顔も違うのです。


 でも。


「亡くなった婚約者様の代わりを務められずとも、イワン様のお心を満たすことはサキにもできます。やってみせます」


 変装の魔道具を解いて、本当のサキの姿になりました。


「――ですから、ダニエラ様を解放してあげてください」




 これがサキにできる精一杯の告白。

 そして懇願でした。


 夕日に照らされたイワン様の瞳が、スカイブルーに変わります。彼も魔道具を解いたのです。


 いつしかサキたちは立ち止まり、向かい合っていました。

 お互いの顔が触れ合いそうなほど近く、サキは終始ドキドキしっぱなしです。


「……サリア」


 サリアとは確か、元婚約者様のお名前だったはず。


「サキです。サリア様じゃ、ありません。でもサキはイワン様を愛しています」


 そっとサキは、唇を突き出しました。

 こちらから求めるのは品がないということは、かつて貴族の娘であったおかげでサキだって知っています。けれど、今はただのメイドですから、構わないはずでした。

 断られればそれまでです。


「私は、ダニエラが好きだ。ダニエラを守らなくては。私にはもう、ダニエラしか」


「ダニエラ様を守ってくださる殿方は、別にいます。大丈夫ですよ、ダニエラ様は強いんですから。専属メイドのサキが保証します!

 それにイワン様にはサキがついてます。たとえフラれても、サキはずーっとイワン様の味方です」


 互いの距離が、躊躇いがちに、しかし着実に縮まっていきます。

 そして。


 ――静かに、唇が重ねられました。

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