7 悪役令嬢が俺たちの学校にやって来た。
戸籍を取得するまでの数日間、ダニエラは佐川家で過ごしていた。
両親に怪しまれないため、俺の部屋にこっそり住まわせて。……もちろん同室で寝るわけだから男心が疼いてかなりやばかったが、俺はなんとか耐え切った。
ともかく、その数日間でダニエラは現代社会の文化に色々と触れていた。
と言ってもせいぜい小さな部屋の中で体験できる範囲なのでテレビやスマホ程度しか見せられなかったが、彼女はそれらに強く関心を示し、楽しんでいたようである。
そのせいだろうか。
戸籍を手に入れ、住居探しをしていたとき、彼女はこんなことを言い出した。
「実はワタクシ、考えていることがありますの」
「何だ?」
「日本にはガッコウなる機関があるらしいですわね?
ワタクシ、故郷では王妃教育を受けていたのですけれど、この世界ではそれが役に立たないでしょう? こちらの文化を学ぶため、ワタクシも学校に通おうと思いますの。できれば、サガワ様やアキ様と同じ場所が良いですわ。手配してくださいますかしら?」
「え……」
俺はしばらく絶句した。
ダニエラが俺たちの高校に通う? 信じられない。でもダニエラは本気のようだった。
別世界の人間が転校してくる的な設定はフィクションにありがちだが、現実そううまくいくはずもない。
まずダニエラは異様だ。青髪にスカイブルーの瞳。あまりにも目立ち過ぎる。それに――。
「…………。確かに戸籍はあるから通えないことはない。だが君、読み書き、できるのか?」
「もちろんできますわ。ニホン語は簡単なものなら習得いたしましたもの」
彼女はどこからともなくノートを持ち出し、そこにスラスラと文字を書き始めた。
信じられないことにそれは外国人のものと思えないくらい上手かった。低めに見積もっても中学生レベルである。たった数日でこれだけ習得したのかと、驚かざるを得ない。さすが異世界人はレベルが違った。
「……明希に相談してみるか」
「よろしくお願いいたしますわ」
そしてこの時点でどうなるかなんてわかっている。
明希は、
「えっ、ダニエラさんウチの学校に来てくれるの!? ほんと!? うわっ、これは同好会のみんなに言わなきゃ! マジモンの異世界人登場って校内新聞で堂々と知らせてもいいかも。なんかワクワクしてきた。まさにラブコメの始まりって感じ!」
と大興奮でダニエラの入学を肯定。
彼女の一声でほとんど決まったようなものだった。
それから色々と面倒臭い手続きがあったのだが、そこは割愛。
こうして平凡極まりない俺の学校に、悪役令嬢がやって来ることになったのである――。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
何の変哲もない朝、制服を着込んだ俺は窓際の席に座り、ぼぅっと窓の外を眺めていた。
しかし教室の様子はいつもと違う。ソワソワしているような、張り詰めた空気。ヒソヒソと囁き声が聞こえるが、俺はそれを無視していた。
そしてやがて彼女は現れる。
担任の女教諭に連れられて教室へやって来たのは、腰まで届く青髪が目をひく、ビシッと着こなしたセーラー服の少女。
「皆様ごきげんよう。ワタクシは遠方の国よりやって参りました転入生のダニエラ・セデカンテと申しますわ。これからどうぞよろしくいたします」
お辞儀……ではなく、スカートの裾を摘む西洋式のお辞儀を披露する彼女はそう名乗り、堂々と薄い胸を張る。
教室中がわっと沸いた。
明希が「キタ――!!!」と叫んでいる。やかましい。唯一冷静だったのは俺くらいなものだろう。
「セデカンテさんは外国出身なので色々とわからないことがあると思うの。みんな、仲良くしてあげてね」
担任がそういうや否や、ダニエラに押しかける人間が多数発生。
それから二年C組の教室は今までにない大混乱に陥るのだった。
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