74 乙女の恋は諦めないことが大事だから。
「はぁ〜、全然うまくいかないなぁ」
「私もだ。恥じらうダニエラを愛でていたいが、どうにも素直になってくれない。最近はどうにか言葉を交わせるようにはなったが……。ああ、こんなにも愛おしいのにどうして私の掌に収まってくれないのだ」
まだ他に誰も来ていないアニメ部の部室で二人、私と伊湾さんはため息混じりに愚痴り合っていた。
伊湾さんの恋は絶対に叶わないと思うので置いておくとして、私の恋の方も日に日に厳しさを増している。
誠哉は自覚がないようだけれど、現在少なくとも三人の異性から好意を持たれている。
私こと日比野明希。そしてダニエラさんに、元生徒会長の銭田さんも。
もしかすると私が知らないだけで、それ以上に恋敵はいるかも知れない。
ダニエラさんの生徒会選挙があって以来、この学校での人間関係はがらりと変化した。
転校してきた時以来の人気っぷりでダニエラさんが誠哉との接触を減らしている一方で、銭田さんは家のお金と美人なことを武器にして誠哉を落とそうとしていて、もしも誠哉がころっとやられてしまったらと思うと恐ろしくてたまらない。
銭田さんが誠哉に惚れ込んだ理由はさっぱりわからないけれど、彼女の目を見るに本気だと思う。ダニエラさんと同等に厄介な恋敵だった。
私だって指を咥えて見ているだけではない。
隙さえあれば気持ちを伝えているし、登下校の時は決まって恋人繋ぎだ。それに、こっそり誠哉は私の彼氏だと言って回ってもいたりする。
でも実は銭田さんにはどうしても敵わない部分がある。
私のお父さんはそこそこ羽振りのいい貿易会社の社長だけれど、銭田さんのところは大手財閥。金で脅されればひとたまりもない立場にあるのだ。
「佐川さん、今度また我が家へ遊びに来てはくださいませんか。歓迎します」
「ですから執拗いですって。昨日あれほどはっきりと――」
「愛を囁いたでしょう? まずは一緒にお食事でも」
「ちょっ、周囲を誤解させる気満々の言い方やめてくれません!?」
時々、そんな風に話す誠哉と銭田さんの姿を見かけるようになった。
鈍感で優柔不断な誠哉がそうすぐにお付き合いを始めるようなことになるとは思わないけれど、私は毎日気が気でない。
誠哉の心を掴むには、どうしたらいいんだろう。
誠哉のことを一番最初に好きになったのは私。誠哉と結婚を誓い合ったのも私。そして真っ先に告白したのも私。
――私、なのに。
「ダメダメ、絶対この恋を叶えるって決めたでしょ」
乙女の恋は諦めないことが大事だと、私が今どハマりしているアニメで言っていたことを思い出す。
私もそれを信じよう。諦めなければ恋は必ず成就するのだと。
そういえば、近々学校で文化祭が開かれるはずだ。
その時に仕掛けようと、私は思った。……まだ何をするかは全然決まっていないけれど。
「メイドカフェでもすれば喜んでくれるかな。誠哉、意外とそういうのに弱そうだし……」
私の小さな呟き。
隣にいる伊湾さんは考え事をして聞いていないようなので、誰も返事をしないだろうと思っていたのだけれど、思ってもいない人物が声をかけてきて驚いた。
「メイドをご所望ですか? それならサキが適任だと思いますよっ」
「あ、咲さん!?」
そこに立っていたのは、普通の女子高生に変装したダニエラさんの専属メイド、咲さんだった。
「ごめんね、別にあなたを呼んだんじゃないの」
「えぇーそうなんですか。でもメイドカフェ?っていうそれ、面白そうなのでサキもやりたいです!」
「うん、できたらね」
――ついでにメイドの作法的なものも教えてもらおうかな。
そんな風に考えながら私は、メイド服姿の自分を想像し、思わずニヤついてしまった。
ああ、文化祭の日が楽しみになってきた。
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