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72 強引お嬢様の誘惑作戦。

 ――どんちゃん騒ぎの夜から、一週間ほどが過ぎた。

 その間に生徒会長が交代され、銭田麗花から海老原凛に変わった。


 彼女は忙しそうで、最近は料理部に顔を見せる時間も少ない。

 まあ、別に俺にはどうでもいいことだが。


 それより大変なのはダニエラだ。

 案の定、生徒会選挙の結果を受け、ダニエラの周りには隙あらば見知らぬ生徒たちが寄り付くようになった。


 ラブレターも男女双方から毎日三十通以上は届くし、とんでもない事態である。


 選挙に勝利したにも関わらず、その権利を捨てたダニエラ・セデカンテのあり方を素晴らしいと皆が褒め称えた結果だ。

 ライバルだった海老原凛でさえ、ダニエラを尊敬するようになってしまったのだから笑えない。


 シスコン野郎という害虫退治係がいなければどうなっていたことか、想像するだけでも恐ろしかった。


「ある意味助かるよな……。俺だけじゃ守り切れる自信ないし」


「誠哉は腕っぷしが全然強くないからね。ダニエラさんの護衛をやめて、私の恋人になってもいいんだよ?」


 冗談なのか本気なのかわからない口ぶりで話す明希と並んで、廊下を歩いていた。

 今は昼休みで、俺と明希は二人で教室を抜け出してきたのである。最近ダニエラと共に行動できるのは登下校時くらいになっていた。


「今はまだ、返事できない。ごめん」


「……わかってるよ。冗談冗談」


 誤魔化すように笑う彼女だが、おそらくその言葉が嘘だということは俺にもわかる。

 だが、彼女になんと言ったらいいのか、まだわからなかった。


 なんだか気まずくなってしまい、何か他の話題はないかと思って視線を彷徨わせた俺。

 その視界に突然とある人物の姿が飛び込んできて、ギョッとした。


「ん? どしたの誠哉?」


 首を傾げた明希も俺が目を向けた方を見て、小声で「ああ」と頷いた。


「……まさか、また絡んで来るつもり?」


「絡む、とは人聞きが悪いですね。確かにそこの彼に話しかけるつもりではいましたが」


 その小声を耳ざとく聞きつけたのは、絵に描いたような黒髪美人。

 生徒会長……いや、今は前生徒会長となった、銭田財閥の令嬢銭田麗花だった。


 彼女が現れると決まって何か良くないことが起こる。

 それがわかっていたので、近頃は彼女の姿が目に入るだけで嫌な気分になってしまう。ただ遠くから眺めるだけなら文句のつけどころのない超絶美少女だというのに。


「先日の件で、佐川さんと少しお話ししたいことが。日比野明希さん、お話し中だったようで悪いのですが、佐川さんを借りて行きますね」


「ちょっと待ってください。誠哉に何するつもりですか! 誠哉は私の彼氏ですよ!」


 そして突然ぶっ込まれる明希のトンデモ発言。

 なんてこと言ってんだ!!と叫びそうになったが、寸手のところでグッと堪えた。


 俺が誘拐されないように言ってくれているのだろう。そうに違いない。人前で堂々と宣言して外堀を埋めようという魂胆ではないはずだ、多分。


 だがその明希の咄嗟の言い分は銭田麗花には通らなかったようだ。


「嘘をおっしゃっても無駄ですよ。ダニエラ・セデカンテの近辺の人間関係は全て調べ尽くしましたから。あなたと佐川さんはただの幼馴染、そうですよね、佐川さん?」


「…………」


「ついて来てください」


 銭田麗花はまたしても強引に、俺を連れ去った。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 銭田麗花が俺にまたしても絡んできた理由がわからない。

 ダニエラへの負け惜しみなら彼女にぶつければいいだろう。それとも俺個人に何か恨みでもあるというのか。


 いつもの空き教室に入ると、銭田麗花は声をひそめて話し出した。


「先日の件であなたに興味を持ちました。

 あなたは自ら凡人と称しているようですが、そうではありません。あなたの中には何か得体の知れない光る宝石のようなものが眠っていると感じました。

 傲慢かも知れませんが、どうかあなたと友人になりたいのです。……もちろん、悪いようにはしません。ただあなたと話したいだけですよ」


 その声音にはたっぷりと色気が含まれ、俺の耳をくすぐった。

 ……だが。


「どういうつもりか知りませんが、俺を誘惑しようったって無駄ですよ」


「誘惑……? 随分悪意のある捉え方をなさるのですね。(わたくし)はただ友人になりたいと、そう申しただけなのですが」


「なら、ダニエラたちの前で正々堂々と言ってくださいよ。密室に連れ込んでコソコソ内緒話なんて、怪しいにもほどがある」


 その話には乗れない、というはっきりとした拒絶を示して、俺は言った。

 こうも執拗に俺を狙って来るのは、籠絡しやすいと思われているからかも知れない。舐められていると思うと、いい気はしなかった。


「お待ちください。何か誤解していらっしゃるようですね。(わたくし)は今までのことを水に流して――」


 全部聞き終える前に空き教室を出る。

 もうすぐチャイムが鳴る。明希を心配させているだろうし、俺は足早に廊下を歩き去った。


 ここまでの塩対応をすればさすがに諦めるだろう、とこの時は甘く考えていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 しかしその数時間後、とんでもないことが起こる。

 なんと驚くべきことに、今までは弓道部にいた銭田麗花が急に料理部にも入って来たのだ。いわゆる掛け持ちだった。


「生徒会長も辞したことですし、時間ができましたから、せっかくなら他の部活動に入ってみたいと思ったのです」


 当たり前のように俺たちより先に料理部に居座っていた銭田麗花は言ったが、間違いなく俺狙いだろうということは視線だけでわかった。

 ……ストーカーなのか、この美少女は。


「あら、ゼンダ様も料理にご興味がおありですのね。ルイス殿下、教えて差し上げたらいかが?」


「僕はダニエラ嬢担当だよ。サガワ・セイヤ、彼女は貴方に任せた」


「佐川さんが教えてくださるのですか。(わたくし)、料理はほぼ初めてなのです。よろしくお願いいたします」


 塁に言われ、さらには銭田麗花に心底嬉しそうな顔で頼まれてしまえば、俺に断る術などないに等しい。

 この部には海老原凛がいるので銭田麗花を無下にはできないのだ。救いを求めてダニエラに視線を送ったが無視されたので、仕方なく、引き受けざるを得なくなったのだった。


 俺が講師役を務めることが決まり、我が意を得たりとばかりに微笑んだ銭田麗花は、そこから早速行動を開始した。

 料理すると見せかけて、俺に不必要にベタベタ接触する。それとなく胸を押し当て、恥じらう様子を見せる。料理に無知だからと言い訳して、味見のスプーンで間接キスをしようとまでした。


 ここまで来れば、さすがに彼女の意図がわかってくる。

 この強引お嬢様は、俺を誘惑しようとしているのだ。金で無理なら体で、という考えの元に。


 銭田麗花の誘惑作戦に振り回されることになるのだろうかと思い、心底ゾッとした。

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