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70 このくらいで引き下がると思うなかれです。

 (わたくし)が推薦した海老原さんが敗北した。

 そんな開票結果を見て、(わたくし)は、少なくない衝撃を受けて立ち尽くしてしまいました。


 生徒会選挙。まだ(わたくし)が二年であった頃に当時一年生の海老原さんという逸材を見つけ、一年かけて手塩にかけて育ててきた(わたくし)にとってそれは、あまりにも信じられない結果だったのです。


 海老原さんと大きな差をつけて勝利したのは、自称お嬢様ダニエラ・セデカンテ。

 彼女は(わたくし)の見立てでは相当に不利であるはずで、四割に届けばいいところだったはず。ファンクラブなどというふざけた集団がいるにせよ、そこまで影響はあるまいと見越しての計算です。


 ……まさか(わたくし)が間違っていた?


「先輩、これって」


 不安そうな顔で(わたくし)を見つめる海老原さん。

 (わたくし)はどうにか自分の心を落ち着けると、冷静ぶって答えました。


「――海老原さん、これは彼女の情報操作によるものかも知れません。あなたが負けるはずなどないのですから」


 (わたくし)はすぐに生徒会の者に指示し、例のもの――魔道具の効能を無効化する装置を使って不正を行っていないかを調べさせました。

 もしも不正しているのなら、装置が反応し、直ちに知らせるはず。なのに装置は無反応だった。


 その結果が示すものは、紛れもなくダニエラ・セデカンテが実力で勝利したという事実でした。


 しかしいくら転校生どもが協力していたとはいえ、そんなことあり得るわけがありません。

 まさか、売春婦のような行いをし、男子生徒を全て味方に引き入れたとでもいうのでしょうか。


「それならば佐川誠哉を筆頭に、男たちが彼女に絆されるのもわからなくはありません。ですがそのようなことをすれば必ずどこからか情報は漏れ、(わたくし)の耳にきちんと届くはずですが……」


「あら、ワタクシがおかしなことをして勝利したとでもおっしゃいますのかしら? 往生際が悪いですわね、ゼンダ様。負けを素直に認めた方が格好宜しくてよ?」


 その時、考え込んでいた(わたくし)に、得意げに声をかけてくる者が一人現れました。

 当然ながら海老原さんでも、他の生徒会委員でもありません。この小憎たらしい声は、


「セデカンテさん、挨拶もなしに話しかけてくるとは、礼儀がなっていないのではありませんか」


「ご忠告感謝いたしますわ。では、改めましてごきげんよう」


 制服のスカートをつまんでお辞儀するダニエラ・セデカンテの横、佐川誠哉がなんだか申し訳なさそうにして立っています。

 彼も(わたくし)を憐れんでいるのでしょうか。……それはとても屈辱的なことに思えました。


「あのー御愁傷様、でいいのか? そう気を落とさないでほしいかなって思います。ダニエラはその、普通じゃないですし」


「ワタクシに対して不満をお持ちなら、お聞きしますけれど?」


 腰ほどまである青髪を掻き上げ、静かに微笑む彼女の態度は、(わたくし)と海老原さんを小馬鹿にしているのは確かです。

 (わたくし)がもし自制をできない愚かな人間であれば自称お嬢様に怒りをぶつけてたことでしょう。


 黙りこくる(わたくし)の代わりに答えたのは、海老原さんでした。


「ダニエラさん、すごいですね。先輩には悪いと思いますけど、素直に負けを認めます。

 ごめんなさい、私絶対に勝てると思ってたんですけど〜」


 あっけらかんとした笑みを見せる海老原さんは、悔しがっていながらもダニエラ・セデカンテの実力を認めているように見えました。

 彼女の頑張りを、(わたくし)は知っています。多くの生徒から信頼を得るために奔走していた日々も。


 それを自称お嬢様などに屈するなんて、あっていいはずがございません。


「えび――」


 海老原さんを嗜めようとした(わたくし)ですが、その言葉はダニエラ・セデカンテの発言によって遮られることになります。

 しかも彼女の言葉は、想像を絶するもので。


「素直な方は好ましいですわ。

 そうそう、これでワタクシの勝ちは確定いたしましたのよね? ならエビハラ様、ワタクシからお願いがございますの。

 ワタクシに次期生徒会長は荷が重いですわ。故に辞退いたします。引き継ぎ、お願いいたしますわね」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ふざけているとしか思えません。

 荷が思いから辞退? わけがわからないにもほどがあります。

 不良撲滅や、その他いくつかの目標を海老原さんに預け、さらに魔道具無効化の装置を生徒会員の手から当たり前のように奪い去ると、ダニエラ・セデカンテは颯爽と歩き去って行きました。


 なんという女なのでしょう。

 もう少し警戒しておくべきでした、と後悔しますが時すでに遅し。

 自称お嬢様は今頃、心底勝ち誇っていることでしょうね。


 ああ、腹が立ちます。

 全てあの自称お嬢様の掌の上、だなんて――。


「このくらいで引き下がると思うなかれです」


 歯を食いしばりながら(わたくし)は、考えを巡らせ始めます。

 自称お嬢様をこの学校から追放することが難しいとなれば、次に取るべき行動は一つ。


 ――佐川誠哉を奪い、彼女の心を挫く。


 金でも地位でも靡かないなら、(わたくし)の魅力を見せつけるのみです。

 海老原さんへの引き継ぎを終えれば、早速取り掛かりましょう。

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