67 お嬢様VSお嬢様。【前編】
「なんか大変なことになってるみたいだね」
ダニエラのマンションに駆け込んだその後、さらに明希にも同じ話をすると、彼女は難しい顔をした。
「生徒会長に目をつけられるとはね。銭田財閥といえば海外に名を馳せる大手企業でしょ。私のお父さんも一応会社の社長だけど、全然比べ物にならないし」
「だよなぁ……。どうする?」
「どうするって言っても。ダニエラさんを守るって決めたのは誠哉なわけなんだから何か手を考えなよって言いたいところだけど、確かにこれは難問だと思う。
魔道具にも頼れないとなると、八方塞がり感が半端ないよね」
はぁぁ、と深くため息を吐きつつ、一緒に考えてくるらしい明希。
それからしばらく膝を突き合わせて話し合うことになる……かと思いきや。
「心配いりませんわ。ワタクシを誰と心得まして?」
ダニエラがそう、強気に言って笑ったのだ。
……その笑顔は強がっているとかそういう類のものではなく、心からそう思っている風だった。
「ダニエラ、何か考えがあるのか?」
「――ええ。ですからセイヤとアキ様が心配する必要はございませんわ。ワタクシにお任せくださいませ」
それからどんなに俺たちが訊いても、ダニエラはとうとう口を割らなかった。
彼女は彼女なりの考えがあるのだろう。それ以上のことは、俺にはわからない。
そして、「明日のために体力をつけなければ」と言って、勝手に帰って行ってしまった。
俺はなんと言っていいかわからず黙り込み、明希は不安そうにしている。
ダニエラがそこまで言うのなら、信じてみようかとも思う。
さらに事態がとんでもない方向に行ってしまうような気がしてならなかったけれど。
「……まあ、悩んでも仕方ない、か」
「そうだな」
すっきりしない気持ちのまま、俺は明希の家を辞した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――そして翌朝。
マンションにダニエラを迎えに行ったが、彼女の姿はどこにもなかった。
「ダニエラ?」
「留守みたい、だね」
もしかして誰かに協力を仰ぐために朝早くからどこかへ行っているのかも知れない。
仮にそうだとしてもおそらく学校では会えるだろう、そう思って登校したのだが、なぜか教室にもダニエラの姿はなくて。
「……手分けして探すか」
「うん」
いつもこの時間、彼女は教室で荷物を広げている。だからいないなんてことは異常事態なのだ。
昨夜のうちに退学処分がなされ、彼女がどこかに連れ去られてしまったのではないか?
そんな嫌な考えが何度も頭を過り、いよいよ授業開始時間が迫った頃、明希が走ってきた。
「いた、ダニエラさん、空き教室に!」
「落ち着け明希。思いっきり倒置法になってるぞ」
「そんなのはいいの、今は! 誠哉お願いだから来て、とにかくやばいの。生徒会長と一緒にいるんだよ、ダニエラさん!」
「……生徒会長と?」
銭田麗花とダニエラが相対している。
そう聞いた瞬間、俺は明希と一緒になって走り出していた。
「……力での決闘が望ましくないとおっしゃるなら、あなたは何をお求めになるのかしら? まさか財力、だなんて品のないことをおっしゃるわけではございませんわよね?」
「当然です。私が望むものはこの学校の平穏、そしてあなたの排除。ですから、公平な勝負をいたしましょう」
空き教室の中からそんな話し声がしていた。
言わずもがな、話しているのは例の二人である。彼女らは落ち着いているようで、少なくとも喧嘩にはなっていないらしい。
……話の内容はともかくとして。
「失礼します」
俺は少々躊躇ったが、すぐに突入することを選んだ。
俺が入ると、銭田麗花が意外そうに、そしてダニエラは「来なくてもよろしかったのに」と呆れた様子で俺を見た。
彼女らは空き教室に置かれたパイプ椅子にそれぞれ優雅に腰を下ろしている。両者とも、お嬢様らしい凛とした佇まいだ。
「……ダニエラ、もうすぐ授業が始まるだろ。心配したんだからな」
「見ての通り取り込み中ですのよ。静かにしてくださいませ。
話を戻しましょう。セイトカイチョウ様……ええと、ゼンダ様でしたわね。あなたのおっしゃる公平な勝負とは?」
「九月の後半、生徒会長を決める選挙があるのをご存知でしょうか」
「不勉強で、存じ上げませんでしたわ」
俺はこの時点で、ダニエラを止めようと思った。
次に銭田麗花が言うであろうことがわかったからだ。でもダニエラは俺を制し、無言で話の先を促した。
「あら、そうなのですね。私は現在三年生なので、この十月で生徒会長を引退することになっているのです。そこで後任にとある女子生徒を推薦することに決めました。私の後任に相応しい、将来有望な少女です。
あなたにはぜひ、その女子生徒と戦っていただきたい。そして当選を自らの手で掴み取ること――それがあなたの勝利条件です」
絶対無理ゲーだろう、と俺は思った。
だって、銭田麗花はこの学校で絶大なる人気を誇っているのだ。いくらダニエラとて、銭田麗花の息がかかった女子生徒に勝てるとは思えない。
しかし――。
「その程度のことでよろしいんですの? それなら、その挑戦、受けて差し上げますわ。
ワタクシを舐めないでくださいませ。ワタクシ、これでもかつては社交界で名を馳せていましたのよ?」
ダニエラは華やかに笑った。
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