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65 悪役令嬢の危機。

「――ダニエラ・セデカンテの不正入学が明らかになりました」


 淡々とした口調で、しかし鋭利な刃物を突きつけるように、銭田麗花は言った。


「彼女はどこかからの流れ者、あるいはスパイ。そのような者を学校にこれ以上滞在させることはできかねます。

 もうじき退学処分を下すつもりです」


「…………」


「しらばっくれても無駄ですよ。(わたくし)、彼女の身元とあなたの関係性を調べ尽くしたのです。

 その結果、あなたと彼女の関係性も含め、多くのことがわかりました。ただ、それでも不明なのが彼女の出自と、それを知っていながら彼女を庇うあなたと日比野明希さんの動機。あなたと日比野さんが他国等と無関係なのは明白ですし。

 それを全てお話しいただきたいのです。そうすればあなたがたは見逃し、自称お嬢様だけを正しく退学させることができますからね」


 ダニエラの退学。

 それを言われて、俺の頭は真っ白になる。


 そうなれば俺のこの恋心はどうなる。

 いや、そんなことを言っている場合ではないだろう。そもそも彼女がこの世界にいられなくなってしまう可能性さえあるのだ。そしてダニエラは故郷へ帰れない。そうなれば、彼女は一体どうやって生きていくというのだろうか。


「どうして」


 気づけば俺は無意味な問いを発していた。


「なぜダニエラを疑うんです。外国のスパイだなんて、そんなこと」


「そんなのは簡単な話ですよ。

 彼女はどこからどう見ても不自然でしたから。戸籍上は海外出身でしたが、セデカンテなどという金持ちはどこの国にもいないということを確認させたのです。

 せめて庶民の出という設定にしておけば、探れなかったでしょうに、まったく愚かなことです」


「……っ」


 彼女の言葉が単なる脅しでないことは、直感でわかってしまった。

 公開されたらダニエラは詰む。そして連鎖的に俺たちも。

 当たり前だが、どんなに言われたところで俺はダニエラを突き放すようなことはしない。

 彼女は兄の魔道具に頼りたくないらしいが、そこをなんとか説得して、魔道具を用いて問題を解決する。それしかない、と俺は考えた。


 しかし――。


「……魔道具とやらを使おうと考えているなら、もう遅いというものですよ」


 まるで俺の思考を読んだかのように銭田麗花が言った。


「例の騒ぎの際の魔道具を回収し、調べました。結果、現代の科学技術では解明不可能であることが判明しています。そう……まるで架空の世界から持ち込まれたものであるかのように。

 ですが科学技術で対抗する手段はありました。電磁波に似た謎の物質――非科学的ですが仮に魔法とでも呼びましょうか――の威力を停止させる装置を知り合いに頼んで作らせたのです」


 科学者気取りの彼女の説明に戸惑っていると、彼女が懐から小型の何かを取り出した。

 それは一見、魔道具に見えなくもない。しかし魔道具ではないのはメタリックな外装と入り組んだ配線ですぐにわかった。


 こんなの、只人ではまず作れないだろう。


 もしこの機械が彼女の言う通りの効力があったとすれば、とんでもない話だ。

 全身から血の気が引いていくのを感じる。


「どうです、事情はご理解いただけましたか?

 さて、ここであなたには三つ。の選択肢があります。――一つはダニエラ・セデカンテに関しての全てを黙秘し、(わたくし)の裁きを待つこと。もう一つは(わたくし)に事情を説明すること。そして最後にしてもっともおすすめな手は、(わたくし)の協力者となることです」


「協力者……?」


「ダニエラ・セデカンテにはあなた方以外にも知り合いがいるようですね?

 彼らが邪魔です。それをあなたに、うまく排除していただきたい。

 排除と言っても殺害などを頼んでいるのではありません。単にダニエラ・セデカンテから遠ざければいいのです。

 もちろんただでとは申しません。大した金額ではございませんが、百万円ほど用意してあります。少なくとも今後の学生生活の助けにはなるでしょう?

 それで手を打ってくださいませんか、佐川さん。(わたくし)と共に、学校の秩序を乱す自称お嬢様を裁きを下しましょう」


 白魚のような手を差し伸べる銭田麗花は、美しかった。


 きっと数ヶ月前までの俺なら、握ってしまっていただろう。

 初対面とはいえ名家のお嬢様で、しかも超絶美人なのだ。あわよくば……と色々なことを想像しないわけがない。

 でも、


「断ります」


 俺はキッパリと告げた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 結局、銭田邸からは自力で帰った。

 かなり険しい道のりだったが、それどころではなかったので苦にはならなかった。


 ――早く、ダニエラに知らせないと。


 どうやってダニエラの危機を防げばいいのかなんてわからない。

 でも、ダニエラと過ごせなくなってしまうのは嫌だったし、何より彼女を裏切るような真似なんてできなくて。


 生徒会長に気に入られるという小さな名誉も、大金も要らない。

 そう口にした俺を、銭田麗花は信じられないものを見る目で見ていた。


「……なぜですか」


「彼女が俺の初恋だからです」


 恥ずかしい話題のはずなのに、人前では案外簡単に言えた。


 それから俺は部屋を勝手に飛び出し、銭田邸を走り出て、今に至る。

 この先どんな騒動が待っているかと考えるだけで頭痛がしてくる。それでも、早く知らせなくてはと俺はダニエラの元へと走り続けた。

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