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63 有能王子には負けたくない。

 転校生である塁の部活が決まった。

 それはズバリ、料理部。ダニエラを追っかけて来たのである。


 明希は彼をアニメ部に執拗に勧誘してくれたようだが、それでも塁は折れなかったようだ。

 どういう手を使ったのか、部長と副部長に秒で入部を認めさせると、堂々と部室に入ってきた。


「――セイヤ」


「何だよ。どうせあいつも料理できないんだ。すぐに飽きてどっか行くさ。……多分」


 料理が絶望的なまでに下手くそなくせにいまだに料理部にいるダニエラという前例がある以上、自信を持って言うことはできない。

 そして塁は、自分が一方的に恋慕う女性とお近づきになるために、世界を超えて人の体を乗っ取った前科のある奴でもある。油断ならないことは確かだった。


「やあ、二人とも。さっきぶりだね。安心してほしい、貴方たちの世話になるような無様は晒さないよ」


 俺たちの話が聞こえていたらしく、やって来た塁はにこやかに笑いながらそんなことを言う。

 だが俺は彼の言葉を信じてはいなかった。いくら有能王子とて王子は王子だ。さすがに料理は自分でやらなかったに違いない――と。


「あら、頼もしいですわ。ならワタクシにその見事な手腕を見せてくださいますかしら?」


 ダニエラが思い切り煽る。

 その挑発に塁は乗った。


「もちろん。そうだ、ダニエラ嬢。良かったら僕が教えて差し上げましょうか。僕はその男より、ずっと教え上手な自負があるのでね」


「……大口を叩いてる暇があったらさっさとやったらいいと思うぞ」


 一瞬俺を睨んだ塁だったが、すぐに気を取り直して料理を作り始めた。

 どうせ相手は王子を自称する少年――多分実際のところは俺より二歳ほど下なのではないかと思える――なのだ。作れるはずがない、と俺はたかを括っていた。


 なのに、


「ほらね。貴方たちが料理の真似事をしているのを向こう(故郷)の方から覗いていたものだから、宮廷料理人に頼んで伝授してもらったのさ」


 半時間後、自信満々に彼が俺たちへ差し出したのは、ジューシーな肉が食欲をそそる、豚肉のソテーだった。


「どうだい、お味の方は?」


 ……俺はなんと答えて良いやら、悩む。

 美味しい。少なくとも俺が簡単に作れる料理のレベルを遥かに超えている。ダニエラと比べれば天と地の差だろう。

 でもそれを言ったら負けを認めてしまうような気がして、黙るしかなかった。


 一方のダニエラは。


「……まあまあですわね。ルイス殿下、この程度ならうちのメイドのサキの方がよほど美味しく作れましてよ」


「それはどうかな。僕は一応、宮廷料理人のお墨付きを得ている。そこら辺の庶民出身のメイドと比べられるのは心外だ。

 しかし、これで少なくとも証明できたと思う。僕がその男より、料理の腕でも優っていると」


 口元を嘲笑に歪める塁が、ただひたすらに憎たらしい。

 いくら有能王子と呼ばれ、社交の才に長けていても本質がこれというのは残念だ。異世界には残念な男が多過ぎる気がする。


 こんな男に負けたくない、と俺は思った。

 その鼻っ柱をへし折って、子供みたいに泣きべそをかかせてやりたい。――推定歳下にこんなことを思うのは大人気ないかも知れないが。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「青春だね。誠哉も負けず嫌いなとこ、あるんだ」


「茶化してないで食べてみてくれ」


「ほんとにいいの、嬉しいっ! 誠哉の心のこもった手作り料理。一回食べてみたかったんだよねっ。いただきます!」


 あの日から、俺は今までより一層料理の腕を磨き始めた。

 それに付き合ってもらう相手は明希にした。俺の家より金持ちな彼女は、高級三ツ星レストランの味も知っているからだ。


 俺が作ったのは、塁と同じ豚肉のソテーだった。


「うーん。確かに誠哉のは美味しいんだけど、ちょっと味の深さが足りないかも。それと油分が多いかな」


「そうか。助かる」


 俺は彼女のアドバイスを受けつつ、必死に必死に、訓練した。

 作ったのは豚肉のソテーばかりではない。

 「侯爵令嬢のダニエラさんが好むのは、多分宮廷料理だと思うんだよね。あとお菓子もあった方がいいかな?」という助言のもと、今まではあまり作ってこなかった菓子類も作ってみた。


 でも一方で塁の方も毎日料理技術を上達させているようで、部長や副部長にはすっかり認められてしまったほど。

 そして肝腎要のダニエラはというと……。


「ワタクシ、完璧な料理を作ってみせますわ! ルイス殿下に遅れをとりたくはございませんもの」


 そんな風に意気込んで、毎日のように思わず顔を顰めてしまうほど不味い料理を量産して、俺に食べさせたりしている。迷惑だが、惚れた弱みで強気に出られず、俺は食べるしかないのである。


 ともかく、悔しいことではあるが塁のおかげで料理部は盛んになった。

 それだけではない。俺にとっての高校生活が、今までより少しばかりハリのあるものになった。

 まだ塁には勝てていないが、俺は諦めていない。いつか必ずダニエラを笑顔にさせるような料理を作って、塁の……自称有能王子を敗北させてやるのだ。

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