62 有能王子は若干空気……と思いきやスパダリヒーロー。
ルイス・クローニ・メロンディック――塁黑二という非常に安直な偽名を使った彼が、この学校に転入してきた。
彼の設定としては、欧米人と日本人のハーフで、日本人の母の元で育ったということになっているようだ。
輝かしい金髪にタレ目がちのエメラルドの瞳は温厚そうに見えるが、その中身を知っている俺としては好感を持てない。
しかしルイス王子は、日本人に擬態した時のシスコン野郎と同等かそれ以上のイケメンで、女子から大層気に入られるだろうと思った。
だが――。
「……また転校生?」
「しかもうちのクラスばっかり」
「キラキラし過ぎて無理。あたし、やっぱり伊湾くんを推すわ」
「伊湾くんと塁くんとか似合いそうじゃない? もちろん塁くんが受けで……」
女子生徒たちの反応は、思っていたのと違っていた。
そのことにルイス王子は一瞬だけ眉を顰めたが、すぐ真顔になって自分に宛てがわれた席――ではなく、ダニエラの隣、つまり俺の目の前へ。
そしてこんな失礼なことを言い放った。
「そこの貴方、僕に席を譲っていただいても?」
「……いや、なんでお前に体だけならず席まで譲らなきゃならないんだよ」
ちなみにこの教室では席替えが何度かあったが、何の因果か、俺とダニエラ、その周辺の席の配置だけはいつも変わらないのだ。
単なる偶然か、誰かが仕組んだことなのか――おそらく後者だとは想像するがはっきりとしたことは俺にはわからない。
「ダニエラ嬢の横に座るべきは僕だからさ」
「それ、何の説明にもなってないと思うぞ。お前の席はあっちだ」
俺が指差したのは、急ピッチで用意されたことがわかる、一つだけ飛び出した机。
塁――ルイス王子と言うのはさすがに問題になりそうなのでこれからはそう呼ぶことにする――の席は、黒板に一番近い場所にあった。
ダニエラからはかなり遠い。
塁が声を顰めながら俺を脅した。
「貴方、僕が誰だか知っているだろう。僕はいつでも貴方の体を奪うことができるんだ」
「自称有能な迷惑王子だろ。だからって俺が引く義理はない。それに俺の体を奪ったら、ダニエラにボコられるのがオチだ」
俺も彼に合わせて声を顰めた。
「どうしても聞かないようならお前が非常識な奴だって言って恥をかかせるけど、いいか?」
「ぐっ。無知で愚かな平民の分際で、僕を言いくるめるつもりか……」
反論できなかったのか、交渉材料がなかったからなのか。
そんな風に呟いて、悔しげにしながらも意外と塁はあっさりと引き下がった。
転校生に最初に話しかけられた俺を訝しげに見つめる視線――主に女子――があったが、俺は無視した。
彼との関係を説明したところで誰も信じれられないだろうし、頭がおかしいと思われるのがオチだ。それなら、無関係で通しておいた方がいい。
「まあ、無関係を貫けるとも思わないが」
こうして、予想以上に静かに、今年度に入って三回目になる転校生の迎え入れが終わった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
こんな風だったので、塁は教室で若干空気扱いになるかと思っていた。
でも、そんなことにはならなかった。なぜならその後、彼が不必要なほどに存在感を表し始めたからだ。
勉強の成績は当然のようにダニエラと並ぶほど優秀。
そして休み時間には積極的にクラスメートたちに話しかけ、男子も女子もあっという間に周囲を味方に引き入れた。最初は乗り気ではなかった女子生徒ですら、早速『塁くん派』というわけのわからない派閥を作り出し、シスコン野郎こと伊湾とどちらが魅力的かの言い争いが始まったくらいだ。
できるだけ他の生徒たちと距離を取ろうと努めるダニエラとは真逆の態度だった。
「……なんなんだ、あいつ」
「あれほど笑顔を振りまいて、いいご身分ですこと。こちらはできるだけ目立たぬよう努めておりますのに。ここは社交界ではありませんのよ? わかっていらっしゃるのかしら」
俺の呟きに、ダニエラがため息混じりで答える。
俺としてはダニエラだって相当だと思うのだが、わざわざ今それを口にしたりはしない。
彼女の背後に座るシスコン野郎は、塁を不快げに睨みつけている。
彼にとっては恋敵なのだから、睨みたくもなるだろう。もちろん俺としても同じ気持ちではあるが……。
そんな各々の様子を見て、明希がこっそり俺に耳打ちした。
「ムカつくくらいにスパダリだね。第二王子で将来有望っていうポジションから考えても、やっぱり悪役令嬢とくっつく正ヒーローって感じかな? なんだかすっごく癪だけど」
「あんな奴がヒーローかよ」
「私的には、塁くんより伊湾さんの方がまだ推せるけどね。塁くんのやり方は汚くて嫌い」
「……俺はどっこいだと思うぞ」
でも明希の意見はもっともだと思う。塁の手口ははっきり言って汚い。
ダニエラを想うなら真正面からぶつかればいいのに……と、それを実践できないでいる自分を棚に上げて俺は思う。
しかし表向き無関係な俺が口出しするわけにもいかず、チヤホヤされている彼を遠目に見つめるしかできなかった。
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