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60 戻ったはいいが体が痛過ぎるんだが。

「僕は王子だぞっ。たかが侯爵令息が生意気な……!」


「王子だろうが何であろうが関係ない。私は故郷でも王子を敬ったことなど一度もないのだから。一応貴族として従わざるを得ない部分はあったが」


「やめろっ、やめてくれ…… 許し。あぐぁっ!!」


「これくらいのことで許すと思っているのかい。私とダニエラの愛を侮辱し、愚弄した。その罪は重い。その身を持って深く深く後悔するがいい。二度とこんな気を起こさぬように」


 魔道具は、スイッチを押すと電撃が走るというものだったらしい。

 何度も何度も何度も何度も執拗にシスコン野郎に電撃を落とされたルイス王子は、最初こそ強気でいたものの、もはや拷問と言っていいほど痛めつけられ、とうとう観念したようだ。

 地面にくずおれ、それと同時にダニエラを離した。


 そして彼が精神的に屈服したおかげか体の主導権はいつの間にか俺に戻っていた。

 もはやふわふわとした感覚はなく、気づいたら空を見上げていた。憑依されていた時間はたった八時間ほどなのに、ひどく久しぶりに体に戻ってきたように思える。


 だが、そのことを俺は素直に喜ぶことができない。

 なぜなら――。


 痛過ぎる。


 全身、ズキズキする。腕や脚なんて電撃のせいで少し動かしただけで激痛が走り、口の中は血の味だけがした。

 激しい喧嘩をした後の不良みたいだな、と俺はぼんやり思った。事故の可能性を除けば一生こんな怪我とは無縁の人生だと思っていたのに、自称有能王子の迷惑極まりない自分勝手のせいでこんな目に遭わなくてはならないなんて。


 それに、俺に体の主導権が変わってからも三度ほど電撃が浴びせられる羽目になった。

 明希が止めてくれなければ死んでいたところだ。


 痛過ぎて何も喋れない俺に代わり、大体の事情の説明は明希が(おこな)ってくれた。

 シスコン野郎も彼女の言葉なら聞き入れるらしく、意外とすんなり理解したのかダニエラを連れて引き下がっていった。


「違いますのよっ、ワタクシ浮気なんて! そもそもあなたとは縁を切ったでしょう! どなたか助けてくださいましー!!」


 ダニエラの悲鳴に応える者は、誰もいなかった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 俺は大怪我を負ったせいで入院せざるを得なくなった。

 入院費は全て明希が払ってくれたので助かった。さすが社長令嬢である。


 明希とダニエラは毎日お見舞いに来て、花を届けてくれたり外の話を聞かせてくれたりする。

 俺が不在の間ルイス王子がまたやらかすことを懸念していたが、どうやらそんなことはないらしく二人とも平穏に――と言ってもダニエラは兄に迫られて大変らしいが、それは置いておく――過ごしているようだ。


 だがまだ油断できない。

 俺はよくルイス王子という奴を知らないが、自分の恋路を叶えるためにわざわざ人の体を乗っ取るような馬鹿が少し電撃を浴びせられたくらいで引き下がるとは思えないからだ。


 そんなこんなありつつも入院から三日後、俺は無事に退院することができた。

 幸い、後遺症は一切ない。おかげですぐ学校に復帰できたが、普段から関わり合いのない生徒たちにまで声をかけられたりして大変だった。

 俺はあまり目立つのが得意ではないのだ。




 二学期初日以降の数日は迷惑な異世界人のせいで台無しになってしまったが、五日目からは俺は普段通りの日常を過ごすようになった。

 騒ぎのせいもあり――というかそれを口実にして――夏休みにあった色々なことは有耶無耶のままだ。


 俺に気を遣ってなのか何なのか、そういう関係の話題はあまり出ることがなくなった。

 でも、早く決着をつけなくてはならない。いつまた体を奪われるような事態になるか、わからないからだ。


 ……あんなのはそうそうないと思うが、ダニエラ狙いの男がさらに増える可能性は充分あるのだ。

 そしてその可能性はすぐに現実のものとなった。


「今日はまた、転校生が」


 クラスにどよめきが広がった。

 今年の転校生の多さは異常だ。つまり、やはり今度も、異世界からの転校生に違いなかった。

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