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58 幼馴染と悪役令嬢は見破る。

「ダニエラ。夏休みの間、ずっと悩んでいたんだがやっと答えが出たんだ。俺は、貴女を愛しています」


 それは、ダニエラとの別れ際に告げられた言葉だった。

 「さようなら。また明日」と言ってダニエラが背を向け、マンションの一室へ入って行こうとしている最中、突然ルイス王子が切り出したのだ。

 もちろん俺の声で、俺の体で。


 他人の体を奪って、その上俺が想いを寄せる女子に勝手に告白するとは何事か。

 ルイス王子を殴りつけたくなるが、今はどういう仕組みなのか魂だけのような存在になっている俺には不可能だった。


 ああ、ダニエラがスカイブルーの瞳を見開いている。

 俺ではない俺に告白されて、きっと動揺しているのだろう。ダニエラのそんな姿は初めて見た。

 すごく、可愛らしかった。


「……今、なんとおっしゃいまして?」


「貴女が好きだ。こんな場で伝えるのは相応しくないかも知れない。でも、貴方が好きなんだ」


 ――俺だって、ダニエラのことが。


 でも俺は、明希と婚約していた。

 たとえそれが口約束であったとしても、やはりそれを無碍にはできなくて。


 それに整理をつけていないこの状態での告白なんて、最悪だった。

 今すぐ体を奪い返したい。それで、今のは気の迷いだったと言って、やり直したい。


 でもそんなことはできなかった。

 俺はただ、見ているだけ。ダニエラが少しずつ赤くなっていくのを見ているだけだ。


「……少し、少しだけ待ってくださいませ。セイヤ、ワタクシ諸用を思い出しましたわ。失礼いたします!」


 叫ぶなり、ダニエラはバタンと扉を閉めてその場からいなくなってしまった。

 それがどんな感情による行動なのかはわからない。だが、ダニエラに嫌われたことだけは確かのように思う。


 ダニエラが逃げてしまったのは心にくるものがある。

 つまり、俺が本当に俺の意思で告白をしたところで、結果は同じだっただろうから。逃げられて、嫌われて。

 でもどうせなら、それを実体験として経験したかった。


 そんな悔しさを抱えながら、ダニエラのマンションの前から一歩も動こうとしないルイス王子を睨みつけていた。

 どうにかならないのか――そう思っていた時、ふと、背後から声がした。


「誠哉、聞いたよ」


 それは今、一番聞きたくない声だった。

 聞いてはいけない声だった。


「アキ、か」


 ルイス王子は面倒臭そうな顔で振り返り、明希と対峙する。


「盗み聞きとは人が悪いな」


「今日の誠哉、様子が変だから、アニメ部のみんなに言ってちょっと早めに帰らせてもらったんだ。ごめんね、尾けるような真似して。

 ……でもこれで良かったって、今、思ってる」


 明希はてっきり傷ついた顔をすると思っていた。

 だって、夏休みのあの日、俺に想いを告げて来たくらいなのだ。なのに今の彼女の顔はどこか晴れやかで。


 そして明希は言うのだ。


「ねえあなた、誰?」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ルイス王子が答えに詰まった。

 それは当然だ。どう見たって俺にしか見えない彼に、明希は「誰?」と問うたのだから。


「……何を言っているんだ? 俺は」


 彼は急いで言い訳を紡ごうとしたようだ。だがその前にダニエラがマンションの中から出てきた。

 着替えていたらしく、彼女はワンピースを着ている。


「あらアキ様、いらっしゃいましたの」


「うん。……ダニエラさんも、わかってるよね」


「もちろんですわ。これで誤魔化しきれていると思っていたとすれば笑ってしまいますわよ」


「ほんとほんと」


 明希とダニエラはしばらく笑い合っていた。

 だがダニエラはすぐに俺の――否、ルイス王子の方に目を向けて。


「ふざけないでくださいませ」


 氷の声で、言い放つ。


「どこのどなたか存じ上げませんが、その姿でワタクシをたぶらかそうとしたこと、決して許しはいたしませんわ――!!」


 彼女の怒声が空気をつんざき、同時に彼女の細く美しい脚が振り上げられた。

 ルイス王子はあまりにも突然のその攻撃を上手く避けられず、左腕に蹴りを喰らって尻餅をつく。そして真紅に染まったダニエラの顔を見上げた。


 その表情は、彼女が兄に向けているものと同等かそれ以上に冷ややかで、まるで汚物を見るような眼差しだった。

 もしそれで真正面から見つめられたら腰が抜けてしまうかも知れないと思うレベルだ。


「ダニエラ、今日は過激なんだな。照れ隠しにしてももう少しやりようが」


「その声で、ワタクシを気軽に呼ばないでくださいませ。不快ですわ!」


 そう言いながらダニエラが尻餅をつくルイス王子の顔面を殴りつける。

 とても淑女がやっていい行動ではないが、それを止める者は誰もいなかった。鼻血を噴き出しながら、ルイス王子は地面に仰向けで転がった。


「なぜだ……僕の計画は完璧だったはず。この男の行動は完璧に把握し、それを忠実に再現したはずだ。どこも僕の計画に狂いはなかった。なのになぜ」


 ルイス王子の呟きに、呆れ顔の明希が答えた。


「そんなこともわからないの? じゃあ私が教えてあげる。

 まず第一。いくら気まずいからって、誠哉はわざわざ私を先に学校に行かせない。第二に、ダニエラさんのところに私が行くのを頑なに拒んだり、手を繋いで教室に入って来たりしたよね。

 それに言葉遣いも変。『貴方』とか『貴女』とか誠哉は言わない。そうでしょ?」


 ――ああ、確かに。


 明希の言うことはもっともだった。俺はあまり自覚していなかったが、今まで『貴方』なんて誰に対しても言った覚えがない。

 逆にどうして気づかれないと思ったのか不思議だった。


「アキ様のおっしゃる通りですわ。いくら夏休みに色々あったとはいえ、誠哉の態度の激変ぶりは違和感を感じざるを得ませんでしたもの。

 本当の誠哉は、どこにやりましたの?」


 がつん。

 またもや蹴りが炸裂して、ルイス王子の……俺の体の腰骨へと踵が打ち付けられる。


 ルイス王子は呻いた。


「ダニエラさん、ちょっとやめて。これが本当に偽者なのかどうかはわかんないよ」


「どういうことですの?」


「完全なる偽者か憑依型かを見極める必要があるってこと。異世界には誰かを乗っ取るような技術とか、ない?」


「ワタクシの知る範囲では、ございません。しかし、ワタクシがこちらへ渡って来た後、例のあの男が異界にてそのような魔道具を開発した可能性は考えられますわね」


「やっぱり伊湾さんの仕業の可能性大だよね。でも今日、伊湾さんはしっかり学校に来てたよね? まさかあれが誠哉で入れ替わってたってことはないだろうし」


「あの男ではない、別の非常識極まりない殿方の仕業ということでしょう。……アキ様、ワタクシ一つだけ心当たりが」


 ゴニョゴニョと話し合う二人に真実を教えたいが、やはり俺は手出しできない。

 二人がなんとかこの事件を解決して俺を元に戻してくれることを祈るしかなかった。

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