55 食べ歩きと、その他のゴタゴタと。
「見てください、あちらに何か面白そうなお店があります! イワン様、一緒に行きましょう!」
「私はダニエラとがいいんだ。悪いが君はあの愚かな王子たちが邪魔をしてこないか見てくれ。ダニエラと二人きりにしてほしい」
「誰が愚かな王子だ。私はメロンディックの次の王になる者だぞ。……無論帰れたらの話ではあるが」
「グレゴリー様ぁ、そんなことよりわたし、グレゴリー様と憧れのデートをしたいですぅ」
「皆様落ち着きなさいませ。騒がないでくださいますか」
背後でガヤガヤとうるさく騒ぎ立てている異世界人たちの声を聞きながら、俺と明希は彼らの先頭を歩いていた。
もちろん、周囲の通行人からは奇異の目で見られている。高校生二人組が、色々とおかしな外国人たちを引き連れているようにしか見えないのだから当然だ。
まあ実際は、異世界人なのだが。
――あの後、ダニエラはすぐに大勢を引き連れて俺たちのところへ戻ってきた。
予想通り、異世界人全員である。彼女も含めて五人。
それから俺の家を出発したというわけだった。
「今日も今日とてみんな元気だね」
のんびりと、まるで他人事のように言いながら明希が俺に意味深な笑みを見せてくる。
それから手を差し出したのを見るに、おそらく手繋ぎをしたいということだったのだろう。だが俺はそれに気づかないふりをして答えた。
「やかましいくらいだな、本当に。異世界人は異世界人同士仲良くできないんだろうか」
後ろを見れば、シスコン野郎に抱きしめられそうになって逃げ惑うダニエラ、彼の注意を別に逸らそうとするサキ、ダニエラへの嫌悪感を隠さないグレゴリー王子、王子にべったりなピンク髪美少女コニーの姿がある。
ああ、本当に姦しい。でもその姦しさが今の俺にとって少し心地いいのも確かだった。
――などと思っていると、ダニエラが声をかけてきた。
「セイヤ。案内と言っておりましたけれど、どこか行くアテはございますの?」
「いや、別に……。ダニエラも他の奴らも、あまりこの街を歩いたことってないだろ? だからどこでも新鮮かなぁと思ってさ」
「なら私におすすめがあるよ。そこは私と誠哉が前に行った小川で――」
「ちょっとやめろ。そこは、パス」
「冗談だよ。それじゃあ、食べ歩きでもする? 異世界人にはこの世界の食べ物は色々と珍しいだろうし」
「それいいな」
ということで、街を案内しながら地元の名物巡りをすることになった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ダニエラを筆頭に、異世界で貴族だった彼らには俺たちの地元の食べ物が口に合うかは怪しいところだと思っていたが、思いの外大好評だった。
夏の日差しの照りつける中、アイス屋に寄ってアイスを頬張ったりかき氷を食べたりと楽しそうだ。
中でも一番人気が餃子。
駅前に少し大きめの中華料理店があり、そこの餃子が異世界人たちの心を掴んだらしい。
その店は近所でも名物店である。
「こちらのギョーザ、非常に美味ですわ。コニー嬢もいかが?」
「うわぁーい! あっ、そうだぁ、グレゴリー様ぁ、あーんしてくれますぅ?」
「……仕方ないな。ほら、口を開けて」
いちいちリア充アピールのすごいバカップルはさておき、ダニエラは一人でパクパクと何皿も何皿も食べまくっている。
しまいには店長に、「もう残りがない」と言われてしまったほど。
それでも食べ歩きは終わらず、次の店次の店と行くものだから大変だ。
一体どれだけの金が吹き飛ぶのだろう……と俺は思わず遠い目になった。まさかここまで食い意地が張っているとは思わなかった。社長令嬢の明希ならある程度蓄えはあると思うが、少しは加減してほしいものである。
……もちろん困ったことはそれだけではない。食べ歩きの途中、実は色々ととんでもない事態が何度か発生していた。
例えば、ダニエラがまたチンピラに絡まれ、シスコン野郎が激怒し、相手を消し炭にしようとして大騒動になったりだとか、小学生の子供たちに絡まれてサキのメイド服が破かれそうになって一悶着。
その上、はしゃぎまくる彼女らの様子を見て不審に思われたらしく警察に職務質問された。
「わたしぃ、ラダティ男爵令嬢のコニーですぅ。何も悪いことなんてしてませんよぉー?」
色々後ろ暗いことがある以上速攻で逃げるが吉なのに、名乗ってしまうコニーはアホである。
それにラダティ男爵令嬢などと言ってもこの世界の人々はピンとこないどころか、ますます怪しんで追及を免れなくなってしまうだけだ。
「……彼女は少し妄想癖があるんだ。私たちは忙しいから、ここで失礼する」
「君たち、ちょっと!」
グレゴリーはコニーを連れ、そして俺はダニエラの手を引いて、明希はイワンを伴って、その場を走り去った。
当然ながら逃がしてくれるわけがなく、警官が追ってくる。
状況は最悪。楽しい食べ歩きが一転、地獄の追いかけっこにならずに済んだのは、シスコン野郎が魔道具を使って逃げ切ったからだった。
「ああもうまったく、心を休めるつもりが逆に疲れた……。異世界人たちってどれだけ問題児なんだよ」
「でも私はスリルがあって楽しかったよ?」
「明希には聞いてない」
「つれないなー。ねえ、ダニエラさんも楽しかったでしょ?」
「もちろんですわ。また明日、もう一度巡りませんこと? できれば余計な方たちは抜きで、がよろしいですけれど」
金銭的にもう一度は無理だし余計な方たちの内訳が気になるが、いちいちツッコむのが面倒くさいので聞かなかったことにしておく。
そんなこんなでなんとか食べ歩き――そして街の名所の案内を終えた頃には、すっかり日が暮れていた。
騒がしくて慌ただしい、夏休みの一日が終わる。
そして長いようであっという間の夏休みも、もうすぐ終わりを迎えようとしていた。
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