54 気晴らしにこの街を案内してみることにした。
『あの日私、ベッドの上で寝てる誠哉にこっそりキスしたんだ。つまりこれは私にとって二回目で、誠哉にとっては初めての――そう、二度目のファーストキスなんだよ?』
そんな明希の声と、柔らかな唇の感触が、何日経っても残っている。
俺は、ダニエラが好きだ。それは変わらないことのはずなのに、最近考えるのは明希のことばかりで。
大きくなったら結婚しよう、なんて無責任なことを言わなければ。
俺がそれを、忘れていなければ。
明希がそれを、忘れていてくれさえすれば。
そんな考えがぐるぐると頭の中を掻き乱し、何も手につかない。
気がつけば、夏休みも後半に入っていた。
夏休みの宿題が俺だけいよいよやばくなっている。
これは一度、気分転換しなければならないかも知れない。青春とは恋も大事だが、何より学業を優先すべきである。
などと理由をつけつつ、実のところダニエラと明希に挟まれるという緊張状態から一時的にでも逃げ出したかっただけなのかも知れないが。
「……息抜きに異世界人たちにこの街を案内しようと思うんだが、どう思う?」
「お、珍しいね、誠哉からそんな風に言い出すなんて。そんなに私と手を繋いで外を歩きたいのかなー?」
ニヤニヤと笑いながら、揶揄うように言う明希。
俺は言い返そうとしたが、グッと耐えた。言い返せば逆効果だろう。
「なかなかにいい考えですわね」
「誰を誘う? コニーさんとかサキさんとかが私はいいと思うけど」
「となると必然的に馬鹿王子とシスコン野郎がついてくることになる気がするのは俺だけか?」
「仕方がないね、それは。どうせあの人たちともこの先しばらく――もしかするとずっと一緒にいることになるかも知れないんだし」
言われてみれば、確かにその通りだ。
いつまでも毛嫌いしてはいられないかも知れない。それより何より、今は大人数ではしゃいで何もかも忘れたい気分だった。
――いつまでも逃げていたらいけないことくらい、わかっている。
ダニエラへの想いも、そして明希からのプロポーズにも、きちんと決着をつけなくてはならない。それを先延ばしにできる期間はそこまで長くないだろう。
でも今は、悩む時間が欲しかった。
「仕方がありませんわね。ワタクシ、サキとコニー嬢を呼んで参りますわ」
「なら私は誠哉と二人で待ってるね」
「…………手を出さないでくださいませね」
「何のことかな? ふふふ」
明希とダニエラが何やら意味深に話していたが、首を突っ込むのはやめておこう。
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