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53 だってこの世で一番大切なものって愛じゃないですか。

 真剣な面持ちでやって来たダニエラ様を見て、あぁ、何かあったんだなぁというのはすぐにわかりました。

 いつも自信満々なのに何だか覇気がないというか元気がないといいますかぁ。友人として相談に乗ってあげるべきなのかなぁ。面倒臭いなぁと、わたしは正直思いました。


「コニー嬢、少しお話ししたいことがございますの」


「何ですかぁ? わたしがダニエラ様の力になれるなんてこと、あんまりないと思いますけどぉ」


「今、グレゴリー殿下はいらっしゃいますかしら?」


「食材を買いに行ってますぅ。だから今はわたし一人です」


「なら良かった。上がらせていただきますわね」


 グレゴリー様はこの世界に来てからというもの、一人でわたしを支えてくださっています。

 ダニエラ様たちに頼ればいいのに、グレゴリー様は頑なにダニエラ様のことを嫌うんです。だから、ダニエラ様のお兄さんに家を作ってもらったこと以外は、何でも自分でやるとグレゴリー様は宣言されたんですよぉ。


 王子様なのに頑張り屋さんで、わたしのことを想ってくれていて。本当にとっても素敵な人だと思います。


 部屋へ上がって来たダニエラ様は、グレゴリー様の素晴らしさを改めて噛み締めているわたしに言いました。


「――コニー嬢はその、どうやってグレゴリー殿下を落としましたの?」


「うわぁ、想像の斜め上をいく質問。それ、訊いちゃいますぅ?」


「ええ。わたくし実は現在、想いを寄せる殿方がおりますの」


「えぇぇ!? 恋愛に一切興味がなさそうなダニエラ様がですかぁ!?」


「失礼ですわね。ワタクシとて、恋の一つくらいいたしますわ。

 お相手はもちろん殿下ではございませんわよ? この世界に来てから知り合った平民の……サガワセイヤという男ですの」


 サガワセイヤと言えば、わたしたちが魔道具とかいうあの謎の壺に吸い込まれて辿り着いた先の家に住んでいた人です。

 ほへー、ダニエラ様、てっきりキラキラしてる男性が好みだと思っていたので予想外でしたよぉ。


「それで、その男の人の心を射止めたいっていうんですねぇ?」


「その通りですわ。ですが、セイヤを想っているのはワタクシだけではございませんの」


「……というと?」


「セイヤの幼馴染のアキ様という方ですわ。悔しいことに、セイヤとアキ様はとってもお似合いですのよ」


「ふーん。そんなことで悩んでるんですかぁ?」


「あなた、そんなことって言い方ありませんわ。ワタクシ、真剣に悩んでおりますのよ」


「わかってますよぉ。

 礼儀とか常識とかにうるさい……じゃなくてしっかりしたダニエラ様は、躊躇しているんだと思いますけどぉ、そんなんじゃ好きな人は振り向いてくれません。

 きっかけを作って、グイグイいくんです。好きな人が自分しか見てくれなくなるくらいに」


 そう言いながら、わたしは思い返していました。

 グレゴリー様と初めて会い、恋に落ちてしまったこと。それからはダニエラ様という婚約者がいるのを知りつつ、グレゴリー様に猛烈なアタックを繰り返したこと。


 わたしは躊躇しませんでした。

 当然、ダニエラ様には悪いと思いましたよ? でも――。


「だってこの世で一番大切なものって、愛じゃないですか」


 それは、わたしがお母さんから教えてもらった、何よりも大事なこと。

 昔、愛し合っていた人に裏切られ、娼婦に身を落としたお母さんは、ボロボロになって働きながらわたしに言ったのです。


『身分も、堅苦しい付き合いも、友情も。

 そんなこと、二の次三の次。もっとも大事なのは、真実の愛なのよ』


 その後お母さんは男爵様との愛を見つけて、娼婦から男爵夫人に成り上がったわけです。


 言われた当時はその意味がよくわかりませんでしたけど、今ならよーくわかります。

 わたしはお金も、名声も、何もかもいりません。グレゴリー様との甘くて幸せな時間だけがあれば、それでいいんです。


 ……この世界に来られて、わたしは幸せでした。

 だってそのおかげでますますグレゴリー様との愛を育んで、何の気兼ねもなく楽しい夜を過ごすことができるようになったのですからねぇ。

 愛さえあれば、ただそれだけでいいんです。


「一理、ありますわね」


「でしょぉー?」


「さすがコニー嬢ですわね。参考になりましたわ。ありがとうございました」


 さすがと言われたのは褒められたのか、それとも貶されたのかはよくわかりませんが。

 出て行くダニエラ様の後ろ姿を見ながら、わたしは彼女の恋――おそらく初めての恋を応援しようと決めたのでした。


 と、その時。


「お前、また来ていたのか!」


「ごきげんよう殿下。コニー嬢にお話ししたいことがあっただけですわ。いちいち鬱陶しいですわね」


「なんだその物言いは」


 玄関から言い争う声が聞こえて来ました。

 あーぁ、グレゴリー様とダニエラ様が遭遇してしまったようです。面倒ですがわたしが収めるしか、ないでしょうねぇ。


 うまくやるとグレゴリー様に褒められて夜のご褒美があるかも知れないので、愛のために頑張るとしましょうかぁ。

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