52 これは嫉妬なのでしょうか。
――アキ様がセイヤと二人で出かける。
その話を聞いた時、ワタクシははしたなくも唇を強く噛み締めてしまいました。
だってそうでしょう? 殿方と二人で出かける行為はこの世界ではでーとと呼ばれ、恋人同士が行うもの。それをアキ様とセイヤがするということは、アキ様は本気ということですわ。
セイヤを奪われたくない。
けれど、今更ワタクシが止めてもセイヤはアキ様と共に行ってしまうでしょう。……もちろん彼はただの買い物のつもりで、ですけれど。
才能もある、美貌もある、王妃になれるほどの素質もある。
そんなワタクシですが、きっとセイヤにしてみればアキ様の方がよほど信頼できる存在なのかも知れませんわ。幼馴染、それはワタクシにとっての幼い頃から一緒だったメイドのサキよりよほど親しいものに違いありません。
その唯一にして最大の点でワタクシがアキ様に劣るのは事実。
悔しながら、涙を飲んでアキ様とセイヤを見送る他ありませんでしたわ。
「……これは嫉妬なのでしょうか」
黒い感情が溢れ出しそうになる胸を押さえながら、ワタクシは呟きました。
男爵令嬢のコニー嬢にグレゴリー殿下を奪われた時は何も感じませんでしたのに、不思議なものですわね。嫉妬なんて醜いもの、ワタクシはしないと思っていましたのに。
アキ様にならセイヤを渡してもいいだなんてこと、ワタクシにはもはや思えませんでしたの。
お兄様……セデカンテ侯爵令息がメロンディック王国から渡ってきた日の夜、アキ様に例のお話をされて以降、この胸の高鳴りは日に日に増すばかり。
最初は好感を持っていた程度だったセイヤのことが愛おしくなってしまって。それからはもう、己の体を最大限に使って彼を誘惑し続けましたわ。
セイヤだって、ワタクシに魅力を感じているはず。
なのにアキ様へ寄せる信頼とは大きな差があって――それが、たまらなく悔しい。
「ダニエラ、何を深刻そうな顔をしているんだ。久々の兄妹の時間だろう? それともコウコウセイの伊湾とセデカンテ嬢という距離感の方が好ましいだろうか?」
「黙っていてくださいませ。ワタクシの心にあなたが入り込む隙などありませんのよ」
「可愛い。本当に可愛過ぎるな、ダニエラは。……キスしてもいいだろうか」
「あーっ! ダメですよイワン様。ダニエラ様にはまだ早いですってば!」
セデカンテ侯爵令息とサキが騒ぎまくっているのを無視して、ワタクシは静かなため息を漏らしました。
今、無性にセイヤの顔が見たい。声が聞きたい。しかし今頃きっとセイヤはアキ様に釘付けでワタクシのことなんて考えているはずもなくて。
一体どうしたら、ワタクシの想いはアキ様に邪魔されず、彼に届くのでしょう。
恋を叶える方法なんて、幼少から婚約相手を決められていたワタクシは知るはずもありません。
「……これはコニー嬢に聞いた方がよろしいですわね」
何か役立つかも知れないと思って、友人関係になっているコニー嬢。
グレゴリー殿下の心を射止めた彼女なら、ワタクシの悩みを解決する方法を教えてくれるかも知れませんわ。
そう考えたワタクシは、明日にでも彼女に会いに行くことを決めたのでした。
今はセデカンテ侯爵令息から逃れられそうにありませんもの。
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