49 幼馴染のちょっとしたわがまま。
「ねえ誠哉、明日さ、二人でちょっとお出かけしない?」
夏休みの勉強会は、決まって午前十時から集まることにしている。
いつもは時間きっかりに来る明希がその日だけなぜか早く着いて、何だろうかと思えばそんな話を振ってきたのだった。
ふと思いついたような口ぶりで言っているが、ダニエラを差し置いてわざわざ話すからには何か意図があるのかも知れない。
「何を企んでるんだ」
「別に、何も企んでないけど? ……いや、ただね、たまには誠哉と二人きりで過ごしたいなーって思ってさ。最近ダニエラさんと三人での勉強会ばっかりだったし。あと、伊湾さんもそろそろダニエラさんと一緒にさせてあげないと暴走しちゃいそうだと思わない?」
「あー、確かに」
あのシスコン野郎は、ダニエラ成分が不足しているらしく、近頃俺の部屋へ忍び込もうとする頻度が上がっていたりする。
だからそこは納得なのだが。
「俺と一緒に行きたいって……。出かけるなら恋人と行った方がいいと思うけど。好きな人、いるんだろ?」
なぜ俺をわざわざ誘うのか、わからない。
だって明希は俺を慰める時に言っていたではないか。振り向いてもらえない片想いの人がいるのだと。それはきっと同じ部活で親しくなったイワン・セデカンテのことに違いないのだ。
シスコン野郎はアニメ風の超イケメンなので、明希のタイプだろうことは確かだった。
まあ、シスコン野郎はダニエラ一筋だから、まだ恋人にはなっていないだろうが。
……せっかくの幼馴染の恋だが、シスコン野郎が相手となると応援してやれないのが残念だ。
「いるよ? でもいいの。ちょっと付き合って欲しいだけだから」
「何に」
「近くに買い物でも、ね。いいでしょ」
有無を言わせぬ口調に、俺は思わず頷いてしまう。
明希がどういうつもりかはわからない。だが、この時点でただならぬ予感はしていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「きっとダニエラは今頃シスコン野郎に絡まれて悲鳴を上げている頃だろうな」
「そうだね。ダニエラさんには少し悪いことしちゃったかも。後で謝らなきゃとは思ってる」
「そう言いながらちっとも反省していないように見えるのは俺の気のせいか?」
「まあね」
――翌日、嫌がるダニエラを一人残して、俺と明希は近所のスーパーへ買い物に来ていた。
女子と二人きりでお出かけというと普通はドキドキするだろうが、今日の俺はいつになく冷静だった。この前と違って手繋ぎもしていないし、明希からは大した色気を感じない。何より俺にはもう、ダニエラという初恋の人がいるのだ。
それに、買い物と言っても大したものではない。夕食時にはダニエラを迎えに行く――別にダニエラを泊まらせるというわけではないが一時避難的な意味で――ので、彼女に振る舞う夕食のための食材がほとんどだったが。
明希は一体何のために俺を誘ったのだろう。
わがままを言って無理を押して来た割には、何も特別なことはない。だからこそ怪しいのだ。やはり何か思惑があるのではないかと嫌でも思ってしまう。
そんな時に、明希は言い出した。
「そういえば今日は八月十日だね」
「そうだな」
「何か思い出さない?」
わざわざ今日の日にちなんて言って、何かそれが関係あるのだろうか。
パッと考えてみたところ、記念日らしきものは思いつかない。付近に祝日はあるが、この日は違った。
「……特には」
「そっかぁ。そうだよね」
だからなぜ残念そうに明希が言うのか、さっぱり理解できないのだ。
「何か隠してるだろ」
「……さあさ、さっさと買い物済ませよう。買い物の後、私、行きたいところがあるんだ」
強引に話を切り上げて、彼女はレジへと向かってしまう。
俺はため息を吐きつつも、仕方なく明希の後を追ったのだった。
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