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48 気付けばいつしか夏休み。

 月日はあっという間に過ぎていくものだ。


 思い返せば今年の一学期は怒涛だった。

 追放された悪役令嬢ダニエラ・セデカンテとの出会い。彼女の入学。学校での色々な騒動。ゴールデンウィークでダニエラと明希を伴って旅行に行ったこと。

 イワン・セデカンテとサキが現れ、また一悶着あり、その後さらに馬鹿王子グレゴリーとその恋人コニーが現れたこと。

 ……そして何より、俺の密かな初恋。


 てんこ盛り過ぎてついていけない。

 そして気づけばいつしか七月の後半、一学期が終わって夏休みがやって来ていた。




「夏休みはどう過ごす?」


 珍しく、コスプレではない白の可愛らしいワンピース姿で俺の前に現れた明希がエアコンのよくきいた部屋で涼みながら言った。

 夏休み一日目。ダニエラは明希の隣で宿題をやっており、すでに全体の半分ほどを終えている。俺はまだゼロ、明希も少しだけだというのに、さすがダニエラだった。


「……さあな。どこか遊びに行くって言っても色々面倒臭そうだしな」


 実は一学期最終日、シスコン野郎ことイワン・セデカンテは夏休み中ダニエラのストーカーになることを宣言していたのだった。

 「毎日ダニエラの傍にいられないなんて私にとっては拷問以外の何者でもない」と言っており、ダニエラの行く先行く先についていく気満々である。さすがに俺の家への不法侵入だけはしないことを約束させたが、それもギリギリだったくらいだ。シスコン野郎とできるだけ関わりたくない俺としては、ダニエラとの遠出はあまりしたくない。


 ずっとこの場所で勉強して過ごすのもアリではあるが、ダニエラは明日か明後日あたりには宿題を終わらせてしまいそうだ。

 彼女にとっては退屈な日々になってしまうことだろう。


 そう思ったのだが。


「ならワタクシが、セイヤとアキ様に勉強を教えて差し上げましょうか?」


 ダニエラが意外過ぎる提案をしてきたのだ。

 俺も明希も目を点にした。


 つい数ヶ月前まではこちらの文化もまるで知らなかった異世界人に、高校の勉強を教えてもらうなんて。

 でも確かにダニエラはかなりの成績優秀者であったし、学校ではたまに――主にシスコン野郎の姿が見えない時である――サキにテスト勉強を教えている姿も見られたりした。


 だからきっと、できるのだと思う。

 事実俺は成績は平凡で、必ず何問かは間違えてしまうのだ。ダニエラの力を借りれば、心強いかも知れなかった。

 異世界人に教えられるというのは、少し癪な気もしたけれど。


「それもいいかもね。私もちょっと勉強は心もとないし。それで、飽きたら一緒にアニメでも見よ? 誠哉だって絶対ハマるってば!」


 明希は勉強というよりは、俺の部屋のテレビでアニメを見ることに乗り気のようだった。

 仕方ない。彼女らが一度言い出したら引かないことはわかっているので、俺は頷いた。


 この歳で女子二人と一緒に毎日勉強会なんて絶対変な噂が立つだろうなと思いながら。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ダニエラの教え方は、想像以上に上手かった。

 普段授業で聞いているのと内容はほぼ同じはずなのに、スルスルと頭に入ってくる。


「会話術を巧みにするのも王妃として求められる素質の一つでしたの。もっとも、もうワタクシが王妃になることはありませんけれど」


 少しだけ自嘲しつつ、ダニエラはそう言っていた。


 勉強をした後はアニメの鑑賞会。

 昨今流行りの異世界アニメというのを主に観ているらしい。俺はその横で、スマホをいじっているのが常だ。


 ……異世界人と過ごしているとは思えないほど――それでも、時たま耐え切れなくなったシスコン野郎が乗り込んで来ようとしたりということはあったけれど――おおむねは普通の夏休みだった。


 普段との違いと言えば宿題の進み具合が早いくらい。ダニエラはすでに全ての科目を終え、明希はもうすぐ、そして俺はあと半分ほどで終わる予定だ。


 そう、おおむね普通の夏休みになるはずだったのだ。

 明希がちょっとしたわがままを言い出すことさえしなければ。

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